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HIPHOP Metro Networks Vol.9: 無敵の10本マイクリレーが炸裂、Triumph / Wu-Tang Clan

前回紹介したGravediggaz(グレイヴディガーズ)の中心人物であるRZArector(レザレクター)ことRZA(レザ)。彼は言わずと知れた無敵のHIPHOPグループWu-Tang Clan(ウータンクラン)のブレーンでもあります!ということで、今回はついに!!!Wu-Tang Clan!!!いってみましょう!

あまりにも有名なのでWu-Tang Clanに関する説明は他のwebサイトにお任せし、概要だけ紹介します。

1992年頃RZAを中心に結成されたニューヨーク州スタテンアイランド出身のメンバーで構成されたクルーです。Wu-Tang名前は少林與武當(Shaolin and Wu Tang)というカンフー映画から取られており、楽曲にもカンフーの要素が多数反映されています。

クルーはRZA(レザ)を始め、GZA(ジザ)、Ol’ Dirty Bastard(オール・ダーティー・バスタード、以下ODB )、Method Man(メソッド・マン)、Raekwon(レイクウォン)、Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラ)、inspectah deck(インスペクター・デック)、Masta Killa(マスタ・キラ)、U-God(U-ゴッド)、Cappadonna(カパドンナ)の10名から構成され、各々が強烈なキャラクターを持った超個性派集団です。

楽曲に関しては、特に1stアルバムの「Enter the Wu-Tang (36 Chambers)」がHIPHOP史に残る傑作と名高く、説明不要の「C.R.E.A.M.」をはじめとして「Wu-Tang Clan Ain't Nuthing ta F' Wit」「Da Mystery of Chessboxin」「Protect Ya Neck」そして個人的に大好きな「Tearz」などなど名曲目白押しです。

今回なるべく多数のメンバーが参加してる楽曲を選びたく悩んだ結果、2ndアルバム「Wu-Tang Forever」に収録の超ドープな1曲、Triumphをピックアップしました!

怒涛のマイクリレー、ヤバすぎる!!MVも随所に工夫が見られ、飽きないですね。それではリリックを見ていきましょう!

リリック/パンチライン

まず曲名のTriumphというワードですが勝利、征服という意味で、トライアンフと発音します。MVでは彼らがキラービーに変体しながらダウンタウンを征服していく様が描かれます。

まずは冒頭のODBの一節から!MVだとアナウンサーの声と被って全然聴こえないので音源を聴きましょう!

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What? Y'all thought y'all wasn't gonna see me?
I'm the Osiris of this shit
Wu-Tang is here forever, motherfuckers
This like, this '97
Aight my niggas and my niggarettes
Let's do it like this
I'ma rub your ass in the moonshine
Let's take it back to '79
あ?おまえら全員俺が見えないか?
俺はやべぇオシリスの神だ
Wu-Tangはここに永遠を誓うぜ、くそったれ
これは97年。オーライ仲間たちよ、こんな感じでやろうぜ
たわごとでお前のケツをすり減らす
さぁ79年を取り戻そうぜ

いやー初っ端からODBらしさが炸裂してます!ラップというより怒鳴りちらしてるって感じですw
因みに79年は史上初めてビジネスとして成功した伝説のラップチューンRapper’s Delight / Sugar Hill Gangが発売された年であり、オールドスクールHIPHOPへのリスペクトが伺えます。

そして続くinspectah deck、ミッション遂行中。

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I bomb atomically, Socrates' philosophies and hypotheses can't define how I be dropping these mockeries
Lyrically perform armed robbery
Flee with the lottery, possibly they spotted me
Battle-scarred Shogun, explosion when my pen hits tremendous
俺は原子レベルの爆弾を落とす。ソクラテスの哲学や仮説では俺が落とす嘲笑を定義することができない
武装した強盗をリリックで表現するぜ
運と共に逃げな。俺に見つかっちまうかもな
俺は歴戦を物語る将軍、俺のヤバいペンが当たれば爆発するぜ
Behold the bold soldier, control the globe slowly
Proceeds to blow, swinging swords like Shinobi
Stomp grounds and pound footprints in solid rock
Wu got it locked, performing live on your hottest block
見たまえ勇敢な戦士たちよ。ゆっくりと全体を支配しろ
忍びのように剣を振り、一撃を与えよ
大地を踏みしめ、硬い岩に足跡をつけな
Wuがこの場をロックしたぜ、お前の一番熱い場所でライブする

MVの服装とリンクしてミリタリーなリリックが渋い!Shogun/Shinobiといったワードから、少なからず日本にも興味があるのかも。彼は1stの人気曲である「C.R.E.A.M.」「Wu-Tang Clan Ain't Nuthing ta F' Wit」でもキックしており、メンバーの中でも一目置かれている存在のようです。

そして次はバイクにまたがりダウンタウンを疾走するMethod Man!

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As the world turns, I spread like germ
Bless the globe with the pestilence, the hard-headed never learn
This my testament to those burned
Play my position in the game of life standing firm
On foreign land jump the gun out the frying pan
Into the fire, transform into the Ghost Rider
世界を周り、細菌のように広がっていく
疫病が世界を祝福する。頭の硬いヤツには分からない
これが俺の証明。人生というゲームにおいて俺の立場を揺るぎなく演じる
異国の地では先に飛び出し、フライパンから火に飛び込みゴーストライダーに変身するぜ

ゴーストライダーとは全身に火を纏ったアメコミのキャラクターの一人であり、MVの演出とリンクしています。また、ゴーストライダーの元の姿はジョニー・ブレイズという青年であり、Method Manはアーティスト名の変名としてジョニー・ブレイズと名乗っています。

また、On foreign landという表現があります。アメリカ人なのに異国の地とはどういうことなのか?と不思議に思いますが、元々彼らは奴隷としてアフリカから連れてこられた歴史があり、あくまで自分たちの故郷はアフリカであるという帰属意識があるのかもしれません。

そしてお次は2ndアルバムからWu-tangに加入したCappadonnaの登場!

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I twist darts from the heart, tried and true
Loop my voice on the LP
Martini on the slang rocks, certified chatterbox
Vocabulary 'Donna talking, tell your story walking
Take cover kid, what? Run for your brother, kid
心臓からダーツを捻りだし、証明する
俺の声はLPの上でループする
スラングの上でマティーニを。公認の語り手だぜ
新たなボキャブラリー「ドナがしゃべる、お前に物語を伝える」
小僧を守れ?は?ブラザーのために走れ小僧
I got the fashion catalogs for all y'all to all praise due to God
神を祝福するため、おまえらのためにファッションカタログを手に入れた。

興味深いのは最後の一節です。MVで彼はなんと8種類(くらい)のコスチュームを披露しておりファッションに対してこだわりが感じられます。それを表現した一節なのではないでしょうか。

その後ODBによる

The saga continues Wu-Tang, Wu-Tang
神話は続くぜ。Wu-Tang

というショートバースの後は燃え盛るU-God。

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A death kiss catwalk, squeeze another anthem
Hold it for ransom, tranquilized with anaesthesias
My orchestra, graceful, music ballerinas
My music Sicily, rich California smell
An axe kill adventure, paint a picture well
I sing a song from Sing-Sing, sipping on ginseng
Righteous wax chaperon, rotating ring kings
死がキャットウォークにキスする。別のアンセムを絞り出す
身代金をかけられ、麻酔で落ち着く
俺のオーケストラ、実に優雅だ、音楽のバレリーナ
俺の音楽、シチリア、豊かなカリフォルニアの香り
斧が冒険を殺し、壁に絵を描く
俺は朝鮮人参をすすりながらシンシン刑務所から歌う
正当なWax(レコード)の監査人。回る王の指輪

こちらは彼の後半のバースですが、比喩表現やボキャブラリーが非常に豊かです。特にレコードを回る王の指輪と表現してしまうあたり、センスがヤバいです。また、Sing-Sing、ginseng、ring kingsで踏む韻がかなり気持ちいいので必聴です。

そして真打ちRZA。漆黒の翼を授かって参上。

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In particular my beats travel like a vortex
Through your spine to the top of your cerebral cortex
Make you feel like you bust a nut from raw sex
Enter through your right ventricle clog up your bloodstream
Heart terminal like Grand Central Station
Program fat basslines on Novation
Getting drunk like I'm fucking ducking five-year probation
俺のビートは渦のように駆け巡る
背骨を通って脳の皮質の頂点まで到達する
生の行為で射◯したような感覚に陥らせる
右心室から入ってお前の血流をつまらせる
心臓はグランドセントラル駅のようだ
Novationを使ってファットなベースラインを構築する
5年間の試練を逃れるように酔うぜ

自分のビートがいかにヤバいかを表現、ワードのチョイスもエグいです。また、Novationとは1992年創業のシンセサイザー、MIDIコントローラーメーカーであり、RZAはNovationの製品を使ってビートを作っていることが分かります。現在のDTM界隈ではLAUNCHPADのメーカーとしても有名ですね。

最後の5年という表現ですが、RZAはWu-tangを立ち上げるにあたって「The 5 year plan」という作戦を打ち立てたそうです。そこには2枚のグループアルバムと5枚のメンバーソロアルバムが含まれています。RZAはインタビューでこう語っているそうです(*1)。

I used the bus as an analogy, I want all of y'all to get on this bus. And be passengers. And I'm the driver. And nobody can ask me where we going. I'm
taking us to No. 1. Give me five years, and I promise that I'll get us there.
バスに例えたが、みんなこのバスに乗ってほしい。俺が運転手だ。
誰も俺に行き先を聞くことはできない。俺はNo.1になる。五年ほしい。
俺達をそこに連れて行くことを約束する。

そして1992年のデモテープ発表から1997年の2ndアルバム「Wu-Tang Forever 」発表をもって見事に約束が果たされるのです。

カッコ良すぎるよ、RZA!!!

そして次はなんと宇宙に何かを悟ったようなGZAが降臨。

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War of the masses, the outcome disastrous
Many of the victim families save their ashes
A million names on walls, engraved in plaques
Those who went back received penalties for the acts
Another heart is torn as close ones mourn'
Those who stray, niggas get slayed on the song
民衆を巻き込んだ戦争、その結果は悲惨だ
たくさんの犠牲者の家族が彼らの遺灰を持っている
100万もの名前が壁に貼られ、プレートに刻まれた
帰還したものはその行為に対して罰を受けた
心は引き裂かれ、親しい人たちは嘆く
迷える者たち、同胞は歌で殺された

Wu-tangの中でも知性派と評されるとおり、とてもコンシャスなリリックです。1966年産まれのGZAは1965年から1975年まで及んだベトナム戦争を見て育った世代であり、その心象がリリックとなって現れています。

そして次はWuエンブレムの上に現れたMaster Killa!

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The high chief Jamel Irief takes the stage
Light is provided through sparks of energy
From the mind that travels in rhyme form
Giving sight to the blind
The dumb are mostly intrigued by the drum
Death only one can save self from
This relentless attack of the track spares none
最高責任者であるジャメルリーフ(Master Killaの変名)がステージに立つ
エネルギーの火花で光を与える
マインドの中から韻を踏む旅、盲人にも光を与える
口のきけない人たちはドラムに興味津々
死は自分自信で守れる唯一のもの
この激しいビートの攻撃は容赦ない

高層ビルの屋上、一際高いところから民衆に向かって淡々とクールなラップで語りかけます。メンバーの中では地味な存在ではありますが、彼のような落ち着いたキャラもいることでまたグループに深みが出ているとも言えます。

そして舞台は檻の中。荒々しくラップするのはGhostface Killah。

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彼のバースは中々難解な言い回しが多くちゃんと意味まで汲み取れるものが少ないのですが分かる範囲で見ていきます。

You two-faces, scum of the slum, I got your whole body numb
Blowing like Shalamar in '81
Sound convincing, thousand dollar cork-pop convention
Hands like Sonny Liston, get fly permission
二枚舌野郎、スラムのクズ。俺はお前の全身を麻痺させた
81年のShalamar(というディスコグループ)のようにふっ飛ばす
納得のサウンド、1000ドルのボトルを開けるコンベンションさ
俺の手はソニー・リストン(というボクサー)のようだ。飛び立つ許可を得た

印象的なのはSound convincing, thousand dollar cork-pop conventionのラインです。MV中では彼らのパフォーマンスを見ながら優雅にワインが置いてあるテーブルに座る人たちが描写されており、暗にこのような人たちを批判しているように感じられます。

そしてこの壮大なマイクリレーのトリを務めるのはRaekwon!

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New York Yank visor, word tranquilizer
Adjust the dosage, delegate my Clan with explosives
While my pen blow lines ferocious Mediterranean, 
see y'all, the number one draft pick
Tear down the beat God then delegate the God to see God
The swift chancellor, flex the white gold tarantula
Track truck diesel, play the weed God substantiala
Max mostly, undivided then slide it, it's sickening
Guaranteed made 'em jump like Rod Strickland
ヤンキースのキャップのつば、言葉の精神安定剤
投与量を調節、爆発物については俺らの一族に委ねな
俺のペンが吐き出すラインが地中海を吹き飛ばす
ドラフト指名一位だぜ
ビートの神を破壊し、神に会うために神に委ねな
即座に首相となり、ホワイトゴールドのタランチュラを見せびらかす
ディーゼルのトラックを追跡、たっぷりとweedを吸う
最高に興奮する、銃のスライドを引く、ゾッとするぜ
ロッドストリックランド(というNBAの選手)のようにジャンプすることを保証する

声、フロウともに男汁MAX、刑務所内のフロアを最高に盛り上げます!!
flex the white gold tarantulaのラインですが、flexとは「見せびらかす、自慢する」といった意味のスラングです。彼は過去にホワイトゴールドのタランチュラのジュエリーを持っていたそうで、それを自慢する一節ですね。

完全に余談ですが、number one draft pickというラインを見て、昔Nitro Microphone UndergroundのBIGZAMさんがNO.1ドラフトPICKというソロアルバムを出されたことを思い出し、ノスタルジックな気持ちになりました。

怒涛のマイクリレーこれにて終劇。個性豊かな面々、MVの面白さもあって何度見ても飽きないですね!!

サンプリング元

ゴスペルミュージシャンのRance Allen(ランスアレン)率いるRance Allen GroupというゴスペルグループのJust Found Meという曲からのサンプリング(0:55くらいのウ〜〜〜の部分)がTriumphの冒頭に差し込まれています。
Triumph全体に敷かれているメロディの部分に関してはサンプル情報が見つからなかったのでRZAが自身で弾いてるのかなぁ。

参考

*0) https://genius.com(リリックをチェックする際には全体的に参考にさせて頂いてます)
*1) https://jusscope.com/blogs/jusscope-launch/jusscope-launches-today

Header photo by Moritz Spahn on Unsplash

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