どこかの詩人のように

どこかの詩人が言っていたわ
自分の感受性くらい自分で守れ って
本当にそうなのかしら?
どこかの詩人が言っていたわ
心が乾くままにしたのは自分の責任だ って
本当にそうなのかしら?

日記を勝手に読まれて
書いていた内容に文句を言われたの
小学生になる直前のことだったわ
何も言い返しはしなかったけど
安全な場所なんてどこにもないんだと
思い知った最初の記憶だわ

携帯電話の中身を全部見られたの
残っていたメールから
たくさんの秘密を暴露されたわ
写真データだけは消しておいてよかったと
心底思ったのを覚えているわ
それはもう社会人になってからの話

守ろうとしても 踏みにじられて
潤そうとしても 奪われて
そんな世界があることを知っているのかしら?
どこかの詩人のように 考えている人たちは

どこかの詩人は自身の体験から
そう書いていたのだろうけど
それほどの経験をしたのだろうけど
私には頷けなかったわ
どこかの詩人のようには思えなかったわ

惑わされなくてもいいのよ きっと
正しさはいくつもあるのよ たぶん
自分のせいにしなくてもいいのよ ときには
この世界にはまだまだ
たくさんの悲しみがあるの

どこかの詩人が言っていたわ
先だった愛する夫の元へ
早く行かねばならない って
どこかの詩人はきっと
落ち着いた幸せな暮らしを手にしてから
振り返って言葉を紡げたんだと思うわ

人間とは忘れる生き物
俯瞰すれば言葉も変わる
想像に過ぎないけれど そう思うの
だから

どこかの詩人のように
ならなくてもいいのよ きっと
なったってもいいのよ いつか
でも忘れないでいてほしいの いつまでも
この世界にはまだまだ
たくさんの悲しみがあるの

どこかの詩人のように
私はきっとなれないわ
自分では守れなくて
自分では潤せない
そんな世界があることを
そんな世界が確かにあることを
忘れないでいたいの いつまでも
この世界にはまだまだ
たくさんの悲しみがあるの
だからきっと私はなれないわ
どこかの詩人のように