○○と呼んで

学生時代に一か月間海外に行った
それほどの期間家から離れるのは
生まれて初めての経験だったから
染みついた顔色をうかがう傾向は
拭いきれなかったけれどそれでも
十分すぎる自由を得たようだった

本名は英語圏では発音しにくいらしく
学校でもネイティブによく間違われた
そういうときのために英語名を作って
ホストファミリーは最初から最後まで
私のことをずっと英語名で呼んでいた
新しい私がいるかのような感覚だった

普段暮らす生活の中で私は
私のようで私ではなかった
バイト先は姉と同じだから
妹さんと呼ばれ続けていて
家族全員ある宗教の信者で
某一家の末っ子さんであり
小さなコミュニティの中で
いつも私は何かに付属して
私のようで私ではなかった

英語名で呼ばれ続けることは初めてで
生活環境が一カ月間変わる中でそれは
新鮮でも馴染み開放感にあふれていた
私は何かに付随した存在ではなかった
私はただひとりの人間でしかなかった
そこで初めて私というただのひとりの
私という存在を実感することができた

ニックネームはこれまでにいくつも
いろんな人につけてもらったけれど
お気に入りになったものもあるけど
大抵が本名由来のものばかりだった
英語名も本名から派生してきたもの
でも私が自分自身で決めた私の名前

これから新しい居場所を作っていくとき
もしニックネームを使っていいとすれば
本名や本名由来のものではなく英語名で
それほど不自然ではないからその名前で
どうか私のことを○○と呼んでと言おう
私がただ私であると確かめられるように