似た者同士

なぜか小さい頃からしょうもないことで
嘘をたびたびついたりする子どもだった
同世代の子どもがほぼいない環境の中で
さほど問題にもならないようなその嘘は
大人たちには子どもだからと見過ごされ
バレないまま通り過ぎることも多かった

たぶんわたしがついていた嘘は
身の安全を守るために知らずと
習得してしまったひとつの才で
「誰か」が「何か」言いそうと
察知したことを誤魔化すために
何もなかったかのように振舞い
辻褄を合わせておく作業だった

社会人になってから出会った彼は
基本的に嘘は言わないひとだった
確かにひとつも嘘はついていないが
すべてを語ることもないひとだった

だから彼はわたしにも嘘はついていない
ただすべてを語らなかっただけのことで
事実を知った後気持ちが落ち着いてから
わたしはようやく彼がそういうひとだと
嘘は言わないことを思い出したのだった
ひとつも嘘はついていなかったのだから
ただすべてを語らなかっただけなのだと

「嘘はついてない」と言ったときの彼を
突然思い出したのはわたしが同じように
嘘はついていないけどすべては語らない
そういう行動をまさにとっている瞬間で

ああわたしは彼にちょっと似てきたのかな
それとも元から彼とわたしは似た者同士で
だから惹かれたりぶつかったりしたのかな

わたしにも今なら少しは分かる気がする
彼の行動をひどく責めてしまったけれど
今ならわたしも彼の心情を少しばかりは
理解できるようになったかもしれなくて

彼とわたしは似た者同士だったのかもしれない
だからわたしは今になって嘘はつかないけれど
すべてを語るわけではないというこの行動の中
彼の影を見出してほんの少し懐かしくなるのだ
彼とわたしは似た者同士だったのかもと思うと