未来の記憶

久しぶりに香水を買った

香りは予想以上に気持ちを左右する
無香料で揺らぎを抑制してきた日々
スキンケアのライン一通りを揃えて
取り入れたのはほのかなバラの香り
自然と深呼吸するほど柔らかで深い
知らず知らずのうちに強ばっていた
からだをほどいていくみたいに香る

それだけでも十分だと思っていたのに
ギフトをやりとりする季節につられて
渡せる可能性のことはあまり考えずに
用意すれば引き寄せるような気がして
彼にとても似合いそうな香水を買った

まずは見た目に惹かれた
すんなり溶け込みそうなシンプルで強すぎない黒
それから香り自体のこと
スモーキーなイメージは彼にしっくりくる感じで
ネーミングも気に入った
開いた距離を香りで触れ未来の記憶を呼び覚ます

テスターでの記憶だけなのに
その晩わたしが夢に見たのは
彼とわたしが同じ香水をつけ
それぞれの肌で変わる香りを
それぞれの温度で違う香りを
確かめ合うようにあたたかく
お互いをつつみこむぬくもり

久しぶりに香水を買った
未来の記憶という香水だ
早速に見たのは夢か現か
もしかして未来の記憶か