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訪問先:森のようちえんLivet

『森のようちえん発祥の地・デンマークの森のようちえんを訪れて』
伊原 鎭

我々一行は、6月16日の午前、町中に拠点を置く、私立の森のようちえんを訪れました。経営者のニナさんは、保育士としての経験を積んだ後、自分の理想とする保育を実践するため、数年前に園を立ち上げられたそうです。

はじめに室内の保育環境を見学。「お洒落だなぁ」というのが第一印象。天井からぶら下がる、和を感じさせる照明器具が特に印象的です。また、部屋全体に日本の幼児教育施設でよく見られるカラフルさがない上に、おもちゃの数はあまり多くなく、全体的にモノトーン・シンプルです。園の環境設定についてニナさんは、「私たちの好み・美意識もありますが、できるだけ、つまらない場所にしたかった」と衝撃発言。それは、子ども達が「森に出かけたい」という気持ちを後押しするため。また、「森で多くの感覚的刺激を受けて帰ってくる子ども達が、心を落ち着かせることができる空間にしたかった」そうです。

天井や壁には、吸音のためのパネルが設置されていました。子ども達の遊び場となる小さな家の天井には、クッションを利用したようなものも貼ってあります。私が経営するこども園でも、つい最近、吸音工事を行ったので、自然とそのようなものに目が行ってしまいます。音の環境を整えることは、そこにいる大人の健康を守るためにも大切ですね。

いよいよ、外に出て森に向かいます。ここは公共の森です。子ども達が毎日通うフィールドは、大人の脚で歩いて15分くらい。麦畑に挟まれた道を進んでいくと徐々に森に入っていきます。太い幹の大木が数多く現れます。気持ちの良い森です。

フィールドに着くと拠点となる大きな小屋。中には寝袋や焚き火台などがあります。個人情報保護の観点から、デンマークでもやはり、子ども達の顔が認識できるような写真撮影はNGなので、活動の様子は写真にありませんが、小屋の周辺で大人に見守られながら、のびのびと遊んでいました。

日本ではあまり見ない光景の一つが、子ども達の寝袋。小屋やテントの中に並んでいました。外気に触れながら昼寝をする光景は、後日訪れた一般的な幼稚園でも見られました。また、園舎から森のフィールドまでの距離がある中、活躍するカーゴ型の自転車もデンマークならでは。職員のみなさんは、この自転車を使って荷物や小さな子ども達を運んでいます。

最後に、私がデンマークの教育施設でもっとも強い印象を受けたことを紹介します。それは、「大人と子どもの関係が対等である」ことです。今回訪れた森のようちえんに限らず、すべての学校や幼稚園でこの価値観が当たり前になっている印象です。子どもが大人を「先生」と呼ばないことが、このことを象徴しています。大人も子どももお互いをファースト・ネームで呼び合います。「先生」という言葉をなくすことで、「上下」の感覚も薄まるのかもしれません。私たちの社会でも、大人と子どもの関係がより対等になれば、子ども達はもっと幸せになるだろうと改めて感じられた今回のツアーでした。

感想『ひとを幸せにするデザイン』

今回のデンマークツアーでは、様々な場所を訪問する機会を得ましたが、行く先々で「洗練されたデザイン」や「人々の美意識の高さ」を感じました。長い冬があることに加え、曇り空が多いという環境のデンマークでは、人々は家の中で長い時間を過ごすそうです。家で過ごす時間が長いゆえに、住環境をよりよくしたいという願望が強まり、それと共に、質がよく心地よいものを追求する審美眼が高まったのでしょうか。

デンマーク滞在中、とにかく、デザインのよいものを多く目にしました。様々な「もの」はもちろんですが、室内や街なかの空間デザインもよく考えられていると感じました。また、アートが人々の普段の生活の中にあるということも感じました。デザインやアートというものは、合理性や経済性を重視する現代の日本では、あまり重きが置かれないものかもしれません。一方、「幸せの国」と呼ばれるデンマークでは、デザインやアートは特別なものでなく、日常にある「当たり前のこと」ではないか。そして、デザインやアートが人々の心理や生活に潤いを与え、人々が幸せを感じられることに繋がっているのではないか、などと考えています。

私は今回、己の見聞を広げ、今後の仕事に生かしたいという想いでツアーに参加しました。現地でコーディネートして頂いたさやかさんを始め、ツアーに参加された皆さん、現地でお会いした皆さんから大いに刺激を受けました。そして、デンマーク滞在中に訪問した先々で、多くの学びがありました。間違いなく、今回の経験は、私の人生や仕事に大きなヒントを与えてくれました。また、今後のチャレンジに「自信をもってやれ!」と背中を押してもらえたように感じています。

今回のツアーを通して、人間や物事のポジティブな面を引き出すようなデザインを考え、明るく前向きにチャレンジしていきたいという想いを強くしました。


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