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夫婦2人の木工所が、「家以外、全部作る」をコンセプトにする理由・その2

市川木工の製品は、すべて社内で企画、デザイン、製作しています。(※オーダー家具製作やOEM製作を除く)今回は、今のような体制になるまでのお話です。

1. 「和茶棚」無くして市川木工無し。

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社長の祖父である初代と、2代目である父親が作っていたのは、「和茶棚」と呼ばれる家具です。約30年前、社長が家業に戻った当時の市川木工も、和茶棚製造の会社でした。和茶棚は、主に東北地方で好まれる、スタンダードな家具でした。

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和茶棚は、実に豪華で複雑なつくりの和家具です。ひとつの製品の中に、面取りした躯体の箱や台輪、水棚と呼ばれる違い棚、丁寧に仕込まれた抽斗、綺麗に配置された杢目の揃った板戸、大きなガラス戸、意匠の入った裏板、金具など、一定の型の中で、製作者の美意識と遊び心が詰め込まれています。

しかし、手の混んだつくりの和茶棚はだんだん時代に合わなくなり、マーケットは衰退の一途。問屋の倒産も重なり、作ったものの販売先は、ほとんど無くなってしまいました。

2. 衰退するマーケットと、新しい何か。

社長が大学卒業後から5年間修行していた、株式会社インテリアセンター(現社名:株式会社カンディハウス)を辞めて家業に戻ったのは、まさにバブルが崩壊した時期です。当時は歴史的大不況。衰退する和茶棚マーケットとのダブルパンチで、もはや家業は風前の灯でした。とにかく、一刻も早く商売を立て直すことが最重要課題。そのためにも、和茶棚に代わる売上の商品を生み出すことが必須となり、試行錯誤が始まったのです。

手始めに展示会へ出展し、毎回新作を発表しました。しかし新しく作ったものはどれも、売上的に和茶棚に代わるものにはなりませんでした。

3. オーダー家具、作ります。

そんな時、「子供に学習机を作ってもらいたい。」というお話がありました。市川木工のテイストが好きで、ぜひお願いしたいとのこと。当時、製品はロット(生産単位でまとめた数量)での製造でしたが、希望を聞きながらデスクをひとつ製作し、納めました。それがとても喜んでいただけたことで「オーダー家具なら、やっていけるかもしれない。」という自信になりました。

オーダー家具製作を始めると、徐々に新しいお取引先様も増え、お店や一般のお客様から依頼が来るようになりました。オーダー家具は、クライアントから依頼されたデザインや弊社で提案したデザインを、工場でできる加工をもとに設計、製作するのですが、いざやってみると、どんな家具も和茶棚より複雑になることはありませんでした。さらに、和茶棚を作っていたことで、箱や扉や抽斗など、さまざまな加工に慣れていたことも幸いでした

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さまざまな注文をこなすうち、いつの間にか「家以外、全部」と言えるくらい多種多様なオーダー家具を作っていました。そこまできてやっと会社は、オーダー家具メーカーとして復活できたのです。

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4. 「家具メーカー」から、木工全般を網羅する「木工所」へ。

オーダーで様々なデザインに対応しているうちに、扱う樹種が増えました。ウォールナット、ナラ、ケヤキ、タモ、メープル、チェリー等、いろいろな材料を工場にストックし、注文に合わせて使い分けるようになると、同時に端材も増えていきました。家具製作の際切り落とした木端は、お金を払って購入した材料にもかかわらず、小さくて使えないものは廃棄するしかありませんでした。

和茶棚の扉の装飾に使っていた杢目の美しいたくさんの突板も、ほとんど使われずに残っていました。そこで、端材と突板を使って、小物を作ることにしました。それはその後、和茶棚からずっと続いている美意識を踏襲することに繋がっていくのです。

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最初に企画した花膳は、20年以上経った今でも人気のある定番商品になりました。その後もコツコツ小物を開発し、展示会で発表しています。

製作するアイテムが増えると、お取引先の業種も増えました。それまで家具関係しかなかった取引先が、雑貨屋さん、食器屋さん、お土産屋さんなど、いろいろな業種に広がったのです。さらに今まで接点すら無かった業界からも、製品木部のOEM製作を依頼されるようになりました。

そこで3年ほど前からは、「家具メーカー」ではなく、木に関することなら何でもやる「木工所」と名乗ることにしました。

5. 気が付けば、温故知新。

さて、私が結婚を機に市川木工に入った時、まだ20代でした。(現在は50代)若さゆえ、和茶棚の良さなど全くわかりませんでした。逆に、いつまでも古臭いものを作っているから、生き残れないのだとさえ思っていました。でも、その後、たくさんのチャレンジと失敗を繰り返して気が付いたのは、「市川木工の培ってきたアイデンティティーこそが大事」というものでした。

「美は細部に宿る」という言葉の通り、理想(アイデア)と現実(製品)の最後の着地点は、美意識です。市川木工の目指す製品とは、自社のアイデンティティーを、時代に合うテイストに整理し、昇華させること。そのためにも、最初から最後まで、きちんと自分たちが見届け、手をかけてあげることが重要だと気が付いたのです。

●家以外、全部作る。
●すべて社内で企画、デザイン、製作する。

これは、2人だけの木工所だからこそ、いちばん大事にしているポリシーでもあります。

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