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壊れた人形

ある雪深い街の玩具店。その店の棚に、機械仕掛けの人形が並んでいる。

人気があるからなのか、皆一様に同じ容姿をしていた。

只、その中で一つ不出来な人形があった。同じシリーズなのは見て取れたが、その人形は壊れかけのようだった。それが私であった。

私は壊れた機械仕掛けの人形なのだ。

壊れて他の人形とは違う形になってしまった人形。店先に並ぶ不格好な人形。

表面的に壊れているだけならまだいいが、内部まで壊れてしまっている。

あらゆるところが壊れてしまって、どこがどう壊れているのかすら把握できないほどだ。

何故、店先にまだ並んでいるのか不思議でならない。しかし、何故か倉庫に行くことはないようだった。

もともと設定された機能すら失われ、その設定以上のことなど尚できない。

あるいは作られた段階から、既に欠陥があったかもしれない。

他の優れた人形と比べると、その不格好さはより浮き彫りになる。

ただ壊れたまま、不可思議なダンスを踊り続けることしか、私には出来ない。

部品の交換をすればいいと思われるかもしれないが、無駄に精工に作られていて、交換するのも難しく、それにどこがどう壊れているのかもわからないので始末が悪い。

ただ踊り続ける。不可思議なダンスをただ延々と。

だが踊っている時にふと、私の周りに人間が集まってきた。その人間達は私の踊りを見て、魅力的だと言った。ある者は味があると言い、ある者は独創的と言った。

そのうち私を買うという人間すら現れた。

その人間は私を買って帰り、家の暖かい暖炉の前にある作業台の上に置いた。

「君はいつも踊りを踊っているが、君の本当に踊りたい踊りは何だい?」

そう聞かれて私は困惑した。今まで皆と同じような正しい踊りを踊るべきだと、それが人形の義務とさえ考えていたので、自分が何を踊りたいかなど考えたこともなかった。

私は深く考え、暫く答えられなかった。

踊りたい踊り、他の誰でもない、私が踊りたい踊り。

「私は、私が楽しいと思える踊りが踊りたい。」

その人間はわかったと言い私を修理し始めた。ここはどうだと、あそこはどうだと私に問いかけ、私は一つ一つよく振り返り、よく考えそれに答えた。

修理が終わったころには、私は大きく変わっていた。

他の人形と見た目は大きく変わり、内部構造も大きく変わっていた。

何より変わったのは、私の踊りだ。既製品の人形達の踊りとは全く別のものになっていた。

私はその人間の前で踊って見せた。手を動かし、足を動かし、体を大きく動かした。

「どうだい?楽しいかい?」

「あぁ…、楽しい。」

私はそれからというもの、踊り続けた。こと切れるまで踊り続けた。

他のどの人形とも違う、私にとって楽しい踊りを延々と。

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