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パテ・ド・カンパーニュを作ってみて初めてわかったことと、隅々まで意図が巡らされたビストロについて

ビストロでは定番のパテ・ド・カンパーニュは、店によって特徴が全く違うのがおもしろくて、行くたびに頼んでしまう。なぜこんなにも違いが出るのか、材料以外にも何が違うのか知りたくてパテ・ド・カンパーニュ「だけ」集めたレシピ本を読んで、自分でも作ってみたことがある。
レバーや肩肉などを買い集めて、フードプロセッサーにかけて挽いて、というプロセスを経て、急にある確信が降ってきた。
これは、もともと一頭をさばいて余った端肉や内臓を寄せ集めて別の料理に仕立てた、合理性が始まりの料理
「パテ・ド・カンパーニュが美味しいところは他の料理についても美味しい」というのは、単に内臓処理に長けているというだけでは、ない!仕入れにおいても、肉の扱いについても長けていないと成立しない、ただ食べているときには気づけなかった。
材料を買い集めてきて作るのは本来ではないようにも思えて、それ以降ほとんど家では作っていない。
(以下1枚目は豚各部位で作ったパテ・ド・カンパーニュ、2枚目は鶏もも肉のテリーヌとわさび菜とルッコラのサラダ)



表通りから一本はいったところを、たまたま通りがかって知ったビストロがある。「ビストロ」と呼ぶのが相応しいのか、ちょっとわからない。週末には14時から開けていて、コーヒーやクレープもある。カフェの延長上で、ワインやデリもよかったらどうぞ、という客に使い方をゆだねる雰囲気がある。

まめに書き換えられるメニューはどれも美味しそうで、野菜と肉に特に目を引かれる。建築事務所を改装した小さな店(キッチンも狭い)で、一人で切り回していく工夫が随所にあって、それが客の楽しみにもつながるようにという意図が横溢している。
「グラスワインはセルフで注げる」と聞いて、勘定がキャッシュオンなら食事中には衛生的に硬貨を触りたくないし、どうしてるのかなと思ったら「始めに10枚のコインをテーブルの上に置いておく。そのコインを使って自分で機械からグラスに注ぎ、コインの残数で会計する」ということだった。
(コインは一枚500円の計算、以下の機械にセットされたワインは、一律コイン一枚でグラス一杯ぶん飲める)


入り口に近いところにあるケースには、容器に小分けされたキャロットラペや牡蠣のオイル漬けのような総菜、パテが並んでいる。テイクアウトを頼んでもいいし、前菜としてセルフでテーブルに持っていって、容器に貼ってある値段シールをテーブルの上の台紙に貼って、会計してもらっても良い。
一人で作っているシェフに声をかけるのは気が引ける時があるし、実際に見て迷ったあげくに選ぶという楽しみもある。なんて合理的なんだ。
メニューで少し浮いていた「ジビエ餃子」は、最初ビストロで餃子??と思ったが、食べるとほぼ肉のパイ包みのようで、イメージとして持つ餃子とは似ても似つかなかった。後日、メニューに「ハヤシライス」も登場していたのを見て「いかにもフレンチ」をやりたくないというのと、端肉を有効に活用しようという意図を両方あらわしたメニューなのだという納得があった。


何品か食べて、どれも間違いなく美味しいけれど、圧巻は美しいモザイクタイルのようなパテ・アンクルートだと思う。
(以下は鹿肉、鹿レバーとドライフルーツ4種類くらいが入ったもの。構成が毎回ちがう)


シェフは農業関係の学校を出た後に、肉をさばいてパテやソーセージに加工までする仕事も経由している。猟師免許も取る予定らしい。
凄みとカジュアルさを兼ね備えていて「クレープは、向かいの公園に遊びにくるちびっこ達にも大人気です」とニコニコしている。公園に来る子どもたちが食べるということは、子どもを遊ばせに来ている親御さんたちも、ここのカウンター以外は低めで座りやすい椅子でゆったりしてワインの一杯を頼むこともあるんだろうか、と思うと豊かな光景に感じられる。
ちびっこ達は、ちゃんとナイフとフォークを使ってクレープを召し上がるらしい。
「公園に遊びに行ったあとに、ナイフとフォークでクレープを食べて、とても美味しかったこと」は、その子の記憶に「ちゃんと一人前のお客さんとして、大人と同じ扱いをされた晴れがましい気持ち」とセットで残り続けるのじゃないだろうか。(カトラリーを使っていたということは、子ども用の食器を出さずに大人として扱ったということだ)
きっと外食で食べたり飲んだりすることが好きになるだろうし、その子が記憶を大事にし続けることで生まれる豊かさのことを思うと、付加価値がはかりしれない。

クレープはオーダーが入ってから焼き上げているのに、二人で一つずつ頼んでも同時にサーブされる手際に驚く。果物のコンフィチュールが添えられたクレープは、生クリームとカスタードがたっぷり入っていて、きめこまかくしっとりした皮も美味しい。コンフィチュールに使う果物は季節で変わり、ほんのりスパイスを効かせている。クリームもくどくなく、素晴らしくワインに合う。
(後日、クレープの皮のたねにはごく微量のお酒が風味付けとして含まれていることを聞いたが、まったく気づけなかった。だから余計にお酒に合うのかもしれない)

23時まで開けているから「遅くに甘いもの(プリンもある)とワイン」とか「昼さがりにしっかりめに食べたい」とか、色々なお客さんに来てほしいというのが、店内の作りやメニュー等からも、ひしひしとわかる。

ただ、店頭にはメニューも何も出していないため初見で入りにくいと思う。
ワインもグラス500円で白3赤3から選べる、きわめて気安い値段だけれど「それを自分からわざわざ言うのはすごく嫌で、ことさらに言いたくないんですよ」と言う。来たひとが「すごくお手頃だった!」と言うのも嫌なんですか?と訊くと、それは構わないらしい。自分の発信する情報を、誰がどう受け取るかは解釈によるから、それは任せているということなのだろう。

隅々まで「意味」「意図」が考えられているのに、居心地は良くて堅苦しくない。めずらしい店だと思う。
パテやワインが好きなひとはぜひ。ビールもあるけれど、餃子屋じゃないので「餃子とビール!!」とだけ頼むようなオーダーはやめてあげてほしい。(たぶん立て続けにそういうオーダーがあったら、シェフはあっさりメニューから餃子を消す)

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〒540-0013 大阪府大阪市中央区内久宝寺町2丁目7−11
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※定休日が月曜日、土日は14時から営業(たまに週末休むときもある。臨時休業はInstagramで発信)

以下はお店のコンセプトリーフレット

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