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(小説)虚しい夜 #クズエモ

「今日夜空いてる? 出てこいよ」

Sからメッセージがきていた。正直面倒だった。今から着替えて化粧して出たくない。しかも雨が降っているじゃない。どうせ行くところは決まっているけれどなんとなくそんな気分じゃない。

シャワーを浴びる。どうせこの後も浴びるんだろうけれど。

俺はきれいな女しか好きじゃないんだなんて偉そうなことを言う。だからいつもより少し濃い目に化粧をする。最後にオレンジのルージュをひく。

鏡をみた。S好みの女に仕上がったような気がする。けれどこれは本当の私じゃないけれどそんなことはどうでもいい。

今夜もまた虚しい夜を過ごすだけだから。

いつからそんなふうに思うようになったのだろう。付き合い始めた頃はすべてのものを捨ててまで会いに行ってたのに。

もう何年つきあったんだっけ。周りからはもういいかげんに結婚したらと言われるけれど、正直一緒に住んで家族になるということは全く考えられないし想像もできない。そもそもSは私のこと愛しているのかどうかもわからない。結局は私を抱きたい時に会いたいと連絡してくるだけじゃない。きっと私は都合のよい女なのかもしれない。

最近はそんなことも考えなくなった。私のことを愛していなくてもいい。

違う。本当は愛してる。だから愛して欲しい。

けれどその一言が言えない。それはプライドなのか、愛してくれないと諦めたからなのか。どちらにしてもあの頃愛し合っていた二人には戻れないことはわかっている。けれど離れることもできない。こんな夜を続けていくしかないのだろう。

安く薄暗いホテルの一室で私たちはただ体を合わせ、終わればお互いタバコを吸いそれぞれがスマホをながめている。会話なんてほとんどなかった。けれどそれが悲しいとも思わない。そして落ち着くとまたベッドに戻る。それが当たり前の風景になってしまったから。

何も満たされない。感じたふりをして冷静にでSの名前を呼び、唇を合わせ愛しているとささやく。

早くこの虚しい夜が終わらないかと願いながら。