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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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#ショートショート

『雨とビールと丸メガネ』 【ショートショート】

 雨音が動悸を加速させる。彼女に会うのは久しぶりで、少し早く着きすぎてしまった。傘を買うまでも無いか、と梅雨の雨脚を舐めすぎた。店に着くやいなや雨は激しさを増し、もうこの店を出させまいと、雨粒混じりの風が店の窓を勢いよく殴る。  「お一人様ですか?」  「いえ、後から一人くるのですが、大丈夫ですか?」  「はい、ご案内致します」  愛想のいい女性店員は若干濡れた私の髪や服を見て、  「ギリギリセーフでしたね」  と言ったが何のことかわからず、不思議そうな顔をしていると、  「

つかまらないタクシー、六本木。13Fからの安っぽい夜景の秋

気づくと君が座ってたソファのはじっこを見てしまう、少し肌寒くなってきた朝。ベッドでふわふわの白い毛布にくるまったままの私は密やかにミントの息をしている。息していいの?頭の中の自分にときどきそんなことを聞いてみたりする。 返事こないって分かってるのにまたLINEしてしまった。誰にも読まれないメッセージが宙に消えていく。赤や黄色になった葉が地面の方へふわりふわりと舞うように、一個ずつバラバラに空中分解していく文字。 毎年秋はこうやって始まる。 スタバのチョコレートマロンフラペチ

【小説】桜木町で、君の姿を

私の名前は「あみん」 変わってる名前だ。 親が昔はやった歌手から名づけたのだ。 一番ヒットしたのは『待つわ』という曲。 サビの歌詞はこう。 両親的には 忍耐力のある子に育つようにとの思いをこめたらしい。 そのせいもあってか 私は待つのが得意だ。 今日も私は待っている。 何を? 私の“運命”の人を。 私の運命の人は この桜木町のどこかにいるかもしれないのだ。 範囲広すぎ? そうかもしれない。 それでも私は待ち続ける。 奇跡が起こるのを。 * あれは今から三年前

いとしき隣人へ

ずいぶん前のことだけれど、そばにいてくれるだけでいい人がいた。 話を聞いてくれるだけでいい。 ご飯を食べるときに同じテーブルにいてくれるだけでいい。 横断歩道のないところを一緒に渡ってくれるだけでいい。 泣いてる私のとなりに座ってくれるだけでいい。 文句の止まらない私に大量の副流煙を吸わせても、やる気が出なくてもだもだしている私にスマホゲームの音を聞かせても、締め切り前に必死にレポートを終わらせようとしている私の目の前で寝ていてもいい。 そこにいてくれるだけでいい。 私に

嘘を塗り重ねて

「いつ好きになったか覚えてない」 最初の嘘 本当はね、ちゃんと覚えてる。 そんなこと話したら笑われるかなって。こっちだけとっくに本気だなんて知ったら重たいんじゃないかなって。だから言わなかった。 友だちには戻れないし、恋人にはなれないし、セフレにすらしてもらえない。だから最後まで、愛想を尽かされるまで、ちゃんと都合よくいようって決めたの。 「あちぃ」って寝言を言いながらタオルケットを蹴るくせに、くっついてくる。「汗つくからやめてよ」って嫌がってみせたけど、

2011年3月24日に死んだ男の話

その人は 静かで穏やかな人だった その人は 黒縁の眼鏡をかけていた その人は まあそこそこ整った顔をしていた その人は 聡明で物知りだった その人は 日本や海外の文庫本を沢山持っていた その人は いろんなジャンルのレコードやCDも沢山持っていた その人は 一本のアコスティックギターを持っていた でも弾けなかったらしい その人は 自分の姉の娘を可愛がりいつも優しかった その人は 車を走らせ一度だけその娘を海まで連れて行ってくれた その人は 当時小学生だった娘のどうでもいい話をニ

何より憂鬱なのは、秋が終わってしまうこと

打ち合わせ先からオフィスに戻る途中、突然雨に降られた。雨降るなんて聞いてない。打ち合わせ中に窓の外が暗くてああもう日が暮れたんだな、日が短くなったな、なんてのんきに考えてた。なんで雨雲だって気づかなかったんだろう。外にいたら絶対に匂いで分かるのに、とちょっと自分の衰えた野生の勘を恨めしく思った。もちろん折り畳み傘なんて持ってない。最悪だ。あの日と同じように突然雨に降られて私の前髪は早くも台無しになった。でも今日はもう帰るだけだから別にいいんだ。全然可愛くない私で君に会うよりず

君のことなんか、大好きでしかない

「で、これからどうするの?」 君が静かに、探るように放った一言に私は何も言えなかった。私はどうしたいんだろう。私は君とどうなりたいんだろう。目の前にはただ君が好きっていう刹那的な感情と君に抱かれたいっていう欲望が綺麗に二つきっとほとんど同じ大きさあるいは質量で並べられている。でもそれは目の前にしかなくて、数メートル先には何もなかった。暗闇、違う、そんなネガティブすぎる表現じゃなく、空虚あるいは煙に近い。見えそうで見えないもの、形のないもの、実態を掴めないもの。君のことなんか

自分が半分なくなった

大学進学で、東京でのひとり暮らしを始めた。 2年生になるころにはバイト先の子と付き合ったり、バイト先のお客さんと付き合ったり、初めて会った子と寝たり、連絡先を知らない子と寝たり、名前を知らない子と寝るくらい、わかりやすく東京に流されていた。 夏休みも後半になった9月、帰省すると嘘をついて恋人とは違う女の人と暮らした。 14歳から19歳まで付き合った、元カノ。 彼女は地元で進学して、遠距離になって、お互いもっとたくさんのことを経験した方がいいんじゃないかみたいな理由で、

”つめたい”と”あたたかい”

昔の恋人と久しぶりに会った。 別れてからもう3年になるし、今更どうこうなんてことはない。 ただなんとなく、何ヶ月かの間隔を空けて、季節に1回くらい飲みに行く。 前回は梅雨が始まってすぐだった。 いつもの居酒屋、ビールで乾杯。この夏はどうだったかなんて話始める。 でも互いに色っぽい話なんてひとつもなかった。増税前に洗濯機を買い替えたいだとか、あのドラマの黒幕はもう一捻りほしかったとか、これ前も話したっけ?なんて、気の抜けたことばかりを話した。 居酒屋を出たあと

結婚したかったかもしれない幼なじみの近況

が、急にFacebookで流れてきてハッとした。 ワールドワイドなあいつらしく、何度目かの海外旅行に出かけた写真が複数掲載されていた。 ていうか、Facebook開いたつもり、まったくなかったのだけど。 スマートフォンの誤作動でいつのまにかFacebookの新規投稿画面が開いていて、 しかも謎のひらがな呪文が羅列されていて、 あやうく乗っ取りみたいな投稿をしてしまうところで、 やれやれと慌てて投稿画面を閉じたら、 レンの知らない写真が目の前に表示されていた。 幼なじみ

¥100

シンデレラの残り香

アルフレッド・ヒッチコックが"マクガフィン"についてこう言及している。 「私たちがスタジオで「マクガフィン」と呼ぶものがある。それはどんな物語にも現れる機械的な要素だ。それは泥棒ものではたいていネックレスで、スパイものではたいてい書類だ」 つまり、マクガフィンとは単なる「入れ物」のようなものであり、別のものに置き換えても構わないようなものである。 得てして、彼女にとってこの夜と僕はその「マクガフィン」だったのだろうか。 一人残された部屋で、考えていた。 大学