物語制作中級者に必要な反復練習内容とは クリエイターの為の批評コラム

前回に続いて中級者がやるべき事の話。

物語で魅力的なキャラクターを生かすにはプロットとストーリーに関する知識が必要で、2つは両輪で回っているという点。そしてストーリーかキャラクターか、どちらか描きたい物が出来た時、どちらからでも物語を構成できる発想が必要だという事。

その上で、個々のシチュエーションやキャラクター性が物語全体とどのような関係にあるのか、何がどのくらい重要なポイントで、それに説得力や面白さを付与する事ができるかどうか。

そうした条件をきちんと満たして迫力なり情感なり、物語の「良い所」を作り出せるか、という事までは大体やったと思います。


今回する話は、そうした要件をしっかりと(中級者なりに)身につける為に何を反復するべきか、というものです。

反復である事は決まっています。というのは前回も書いた通り、僕が反復練習最強説の信奉者だからです(そうでないやり方は今回はありません。今後もあるかはわかりません)。では何を反復するか。答えは物語作りに関するあらゆる事を、です。作り続けて上級者やプロ以上になろうというのであれば、何ひとつ繰り返さずに済む事はありませんから、必然的に全てを反復する事になります。全部を何度でも、なにもかもを1から組み上げていく事から逃れる事はできません。決して。

そういう中で頼りになるのがフォームだとかパターン、あるいは要素なんですけど、それはまたいずれ。

同じ世界観や1つの作品に頼らず、作品作りをずっとやっていくつもりならキャラクターはその度に作らなければなりません。ストーリーも、世界観もです。主人公が何かを為す為の理由やその敵、サポートしてくれる味方とその理由、敵の手下や無辜の人々、その世界を支配するルールや世界の謎、その場でそのキャラクター達が何故どのように感じ考え判断し行動するか、それらをどのような順序で鑑賞者に開示していくのか。

全てを反復する事になるにしても順番があるので、まずキャラクターからにしましょう。

まず主人公を決めたとしましょう。魅力的になりましたか? 次に主人公がやりそうもない事をやる、主人公側のサブキャラクターを作りましょう。主人公がやりそうもない事、キャラクター的に出来ない事、話をテンポ良く進める為に必要な手続きを既にやってしまっていたり、押しつけられたりする役割です。更に、主人公の目的となるものが誰かしら人物に関係ある場合、そのキャラクターを作りましょう。主人公の目的とそのキャラクターはどのように関わるのでしょう。

ここで、その目的を阻む敵キャラを定めます。敵にも目的が必要ですが、中級者であればプラクティス感覚でとにかく邪魔だけしてくる目的不明の組織や人物でも構いません。ただ、敵の目的は重要な謎の1つになりうるので、予め良い感じのを決めておくと後からバラしてドラマを盛り上げるのに使えます。この事は気に留めて置くべきでしょう。

敵側が組織だっている、又は組織と言う程ではなくても集団でいる、主人公側も集団でいるとなると、その枠内でのドラマや人間模様が欲しい所ですから、キャラクターを作りながらそういった関係性やイベント、どんな事に対して誰がどのように反応するか、の連鎖反応や化学反応について想いを巡らしておくことも大切です。

何故大切か。それでプロットが組めてストーリーを描けるから。あるいはそのきっかけになるから。キャラクターに目的があり、特徴があり、何かをやりたがったり嫌がったりしながら状況の中で行動を起こす事が物語を動かし、それを描いていくだけで1編の物語になる事もあります。その物語は、キャラクターが魅力的であれば「魅力的な物語」として成立します。

そのように物語を魅力的なものとして作り上げる為にも、キャラクターの持つ役割に応じた、キャラクター造形のバリエーションを身につけましょう。

バラエティに富んだキャラクターメイキングを、役割毎にしっかりやるというのは、意外に難しい事です。どの役割を軸に考えるかはそれぞれですが(大体主人公と宿敵になるのかなとは思いますが)、そのキャラクターに対してどのような能力や性格だとサポート役になるのか、どんな目的や存在又は素性だと敵対する事になるのか、ここでも軸になるキャラクターの特徴や目的(つまりあらゆるキャラクター性)から考え始め、練り上げていく事になるでしょう。ドラマ、物語を作るのですから、なにがしかのダイナミックな事や見続けたくなるモノがなければいけません。その為の人間関係、能力や性格のコントラストは極端だったり派手だったりするものです。というか、そうでなければ多分ディテールを描く時に苦労します。構造やプロットを成立させる為のキャラクターメイキングは、必要なパーツを揃えるようなものなので、揃ってしまえば成立はします。上手くいかない時はプロットや構造と集めたパーツとがミスマッチしてるのでしょう。世界観と描きたいストーリーやムードが決まっているとこうしたミスマッチは減らしやすいと思います。


さて、重要な事を書いていないので、そろそろキャラクターを魅力的にするとはどういう事か、という話を。


「キャラを起たせる」とは小池一夫さんが作った言葉ですが、僕の考えは「物語の『完結性』をキャラクターに応用する」です。学術的研究がベースにあるせいで一見訳が分からない感じになりますが、きちんと説明します(長くなりそうなので多分この話題は途中で次回に続くと思います)。

ウラジーミル・プロップと同時代の民俗学者にしてロシア・フォルマリズムの中心人物であるヴィクトル・シクロフスキーによると、物語は「虚偽の認識」がなされ、後で「真相が解明」される事で「完結性」が得られるといいます。つまりどんでん返し、意外な結末、意外な出来事、思いもよらぬ逆転。シクロフスキーは物語らしさのパターンの中でも「逆行する感じ」を挙げていて、この時例示しているのはキャラクターの関係性と行動が逆転しているもの。ではこの「完結性」を齎す意外性、逆転をキャラクター自体の中に埋め込んだらどうなるでしょう。「仕事が欲しい(稼がないと生きていけないから)」に「働きたくない」という矛盾を足してみる(『カイジ』になりそうですね)。「彼女が欲しい」に「女の子にモテる努力も出会いを求める行動力も度胸もない」を合わせる(空から女の子が降ってきたりパソコンから女の子や女神が出てきたりしそうじゃありませんか)。よし、じゃあ一捻りして、女の子型のパソコンが捨ててあるからゴミ捨て場から拾ってくるっていうのはどうだろう(待って、それCLAMP先生がやってた気がする)。

シクロフスキーの言う「完結性」を「ドラマを感じる構造」と再定義すると、キャラクターの中に「完結性=矛盾や逆転、意外性ある特徴の組合せ」を持たせる事はキャラクターをドラマティックな存在にする事と同義である、と言えそうです。長所と弱点、勇気と臆病、派手さと地味さ、溢れる愛情と無関心、几帳面さとずぼらさ、どんな要素でも構いません、1人のキャラクターの中にギャップを入れ、落差を生み出し、認識を切り替える、驚きや意外さを感じさせるシーンを作り出す為の条件を整えておく事。それがキャラクターを魅力的にします。一言で言うとギャップ萌えのバリエーションを無限に使いこなす事です(萌えに限らず、ですが)。

物語やプロット構成上の、物語らしさを感じる仕組みをキャラクターの中に組み入れる事で、そのキャラクターが出さえすれば物語らしくなる。極端な表現ですが大筋でそういう事が起こるようになるでしょう。キャラクターがいいのに作品がつまらない、という時は、まず見せる順番がおかしいか、見せる時の描き方のディテール、技術的な問題が発生していると思われます。

ディテールの描き方は後回しにするとして、魅力(逆転や意外性のある特徴の組み合わせが)あるキャラクターを、主人公や宿敵、主人公の味方や敵の手先から、第三勢力やモブキャラまで含めて作る作業を繰り返す事で、ストーリーもキャラクターも(中級者の割に)面白くしていく事が出来るでしょう。

次回はキャラクター同士の関係や特徴の組み合わせと、それがドラマ性や世界観とどうつながっているのか、を検討したいと思います(が、本当にやるかどうかはわかりません。多分やれるはず)。

続きます。


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