中級者向け 物語構造のパート別組み合わせバリエーション「変身」「変装」「追跡」「逃走」(おまけ付き) クリエイターの為の批評コラム
前回はこちら。
さて、物語らしさをどうやって演出するかの具体的演習の為のこのコラム、今回は使用するユニットがちょっと多くなりそうです。というのは、ユニットの特性上個別に書くには物足りない物は他の関連するユニットと連携させるやり方を示した方が使い方がよりよく分かると思うので。
まず「変身」「変装」ですが、何の目的もなくやっても物語らしくはなりません。「興味本位で」くらいの理由だと作品のターゲット層次第、大抵のケースで何かしらの必然性を持たせる事が求められるでしょう。「どうしても行きたい招待制のパーティーに変装して潜り込む(「境界侵犯」の一種です)」「捕われた仲間を助け出す為に敵の格好をしてアジトに忍び込む(「救援」する側ですね)」、上手くいけば乗り切って終わり、ミッション終了。失敗して正体がバレたら(「露見」「暴露」)そこからひと騒動起こります(「救援」で助かるか、捕まるか、つまみ出されるか)。あるいは成功しても意外な展開にする事ができるでしょう。「その場で疑惑の新情報を得る」とか「仲間のついでに助け出した人が実は……」とか。
「変身」「変装」に対して「逆行」するのは「露見」「暴露」になりますが、「31の機能」では「気付かれる」シークエンスになります。「気付かれる」為にはまず「隠されている」必要があるので、予め伏線を張っておく必要があるでしょう。「変身」「変装」もモロバレの時と本当に気付かれていない時とでディテールを描き分ける事になると思います。「露見」から「逃走」に展開したり、又は「露見」というより「登場」と考えた方が相応しい場面もあるでしょうね。
物語において「変身」「変装」は「正体を隠す」為に講じられる手段ですが、やはり何故、とどのように、が重要です。何故、の方は理由で既に触れましたが、どのように、となると服装や髪形、性別を誤認させる女装男装、ちょっと捻って特殊メイク、でなくば普通にメイク、メーキャップ、現代なら写真のレタッチやCGなど、とにかく見た目を変える手段の全てが使えるので、世界観に合わせて取り入れてみるといいんじゃないでしょうか。銀行強盗ならマスクがおすすめです。
「逆行する感じ」は受け手に対して仕掛けられればいい訳ですから、「意外な人物が実はだれそれの変装だった(『うまく化けたな』)」という風に、物語上ではすんなり行きながら受け手には意外な印象を与える、という手も使えます。逆に「バレバレ」や「妙に似合う」などもパターンではあるものの意外性がないとは言えず、どちらかと言えば使える手でしょう。むしろそれを見た別のキャラクターのリアクションで更に意表を突くという方法も。
ターゲットを「追跡」する時正体がバレないように「変装」したり、敵の「追跡」をかわす為に「逃走」の途中で「変装」したり、という特徴から考えると、「変身」「変装」は移動全般と関わりが深いようです。「検問や関所、入口を通り抜けられるか」「特定の相手からうまく逃げおおせるか」、物語の中で手段として使われる定番ユニットとして使い慣らしておくと、また1つキャラクターの魅力を引き出しやすくなるのではないでしょうか。
「追跡」「逃走」はどちらも移動に関するユニットですが、同時にどちらも「相手がいる」ものです。「追う者と追われる者」という関係性を前提としていて、振り切るか捕まるか、というハラハラ感が大事な所。「変身」「変装」でもバレるかどうか、というハラハラ感がありますが、「追跡」の場合、ターゲットに尾行がバレてからのチェイスが見せ場になったり、「逃走」でもどうやって振り切るか、その手段が見せ所だったりと、受け手を惹きつける演出に事欠かないユニットですね。映画『プロジェクトA』の自転車でのチェイスや『トランスポーター』での「逃走」そのもののテーマ化といった展開からも分かるように、カーチェイスなどでお馴染みの、お約束的ながら盛り上げる工夫も色々とある、そんなモチーフです。
「変身」「変装」でもそうですが、環境・状況によってディテールは変わるものなので、その世界観、その場所柄、季節や時間帯など、特性を生かしたものにするとキャラクター・ストーリー・世界観が生かされた名シーン(になりうる場面)が作れそうです。どんなストーリーか、言い換えるとストーリーに使われるユニットの特性はどのような物かが予め分かっていれば、そのユニット群で使用されるであろう場所・規則・技術・組織・情勢などを設計するのに役立ちます。
物語の構造ユニットを理解する事は、世界観のどの部分を鮮明にしなければならないか、その情報をいつどのように受け手に知らせるか等を考える際に押さえておきたいものでもあります。それによって「魅力的な世界観」と「魅力的なキャラクター」がどのようにあり、関係するかを構想出来、特徴的な世界観の中でそれを象徴する組織やマークなどを考える事も、そのキャラクターが最も輝く世界観を作る事も、その世界観で最も輝くキャラクターを作る事も、その為の具体的なポイントを明確に意識しながら取り組めるようになるでしょう。
そのキャラクターに何をさせるのか? その世界観でそれらはどのように行われるのか? 物語の構造ユニットと「逆行する感じ」を知る事は、それらの課題に取り組むリソースを無駄にせず有効活用する為の知識だとも言えるでしょう(今のところ、物語の構造ユニットにありながら「物語らしくない」モチーフは見当たりません。無論、ここで取り上げたモチーフだけが「物語らしさを感じさせる全て」であるかは分かりませんが)。
とりあえず敵を倒すだけでなく本拠地も爆破するので急いで逃げる、という形で「逃走」を入れたり、育ちの良い人がうっかり治安の悪い地域に入り込んでしまいキーアイテムを盗まれたので追う、という「追跡」、それらのシークエンスで生じた出会いや描写される街中の情景などを伏線に使う事も出来ますし、技術水準や気候風土があらゆるアクションや手立てを彩ります。
「変身」「変装」「追跡」「逃走」はハラハラさせるモチーフです。是非、もっともっと受け手をハラハラさせられるような工夫を凝らしてみて下さい。
・おまけ 物語の構造ではなく「演出・ディテールから物語を作る」方法論について
出来るんならこっちの方が早いんだけど、素質や才能がないと出来ない、と思われているらしきやり方がこれですが、特定のパターンだけであれば(自分好みの二次創作やなんかで)出来るタイプの人はかなりいるように見受けられます。となると、部分的にでない広く物語をカバー出来るパターンを習得するメソッドを確立してしまえば、結局この方が早い、という感覚まで辿り着けるように思います。
「演出・ディテール」で作りながら行き詰まったら「構造ユニット」に立ち返り、そこから再び「演出・ディテール」を構想し、物語を構成する、というスタンスが移行期(あるいはメソッド)としてあると仮定すると、「構造ユニット」から出発して作る方法を反復する事は、「演出・ディテール」でダイレクトに構想する前段階、ステップであるという考え方も出来ますね。
面白い物語が早くしっかり作れるようになる事が目標だとするならば、最終的には「演出・ディテール」を直接コントロール出来た方が早そうですが、ハリウッド的な集団作業を想定すると、ユニットやパートから完全に脱却するのは難しいかもしれません。まぁ、この水準になるとメディアの固有性やメディア・ジャンルの文脈をどう受け継ぎ、受け返すかなども重要なポイントになってきますが……。
上級者以上になると出来るのは当然で、どうやるか、何を切り拓くか、何処へ向かうか、といった戦略性、コンセプトが絡んできたりして、単純な技術勝負ではなくなっていったり、立場次第では「文化としての」このメディア・ジャンルをどうするのか、といったレベルの問題が迫ってくる事もあるようです。
そうしたテーマとフィクションとをどう関わらせるのか。それを達成させる為に「物語の構造」は必ずしも必要ではありません。しかし、「物語の構造」によって作者としての1歩を踏み出した人達が、今その領域で鎬を削るまでになっている。その事は指摘しておいていいでしょう。
続きます。
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