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第18話「『俺ァ逃げ続けていた』」(昇華篇・2) 西尾維新を読むことのホラーとサスペンス、ニンジャスレイヤー、そして批評家の立場と姿勢の話


前回はこちら。

(ご注意・本稿では「アンエクスペクテッド・ゲスト」『ニンジャスレイヤー』のネタバレを含みます。閲覧の際にはあらかじめご了承ください。尚、表紙画像と本文は一切関係ありません。その下の埋め込みツイートはイメージです。また、登場人物や組織の実名は伏せられている場合があります。そして、明かしづらい内容は不明瞭な表現となっている場合があります)


(これまでのあらすじ・男は語る。ある人物の陰謀が、巻き込まれた者によって文化的営為へと昇華されていく姿と、その渦中、彼自身に生じた異変とを)




洞窟の中で1歩1歩歩みを進めるその足音が、響きを変えて戻ってくる。



自らが漏らした呟きが、声色を転じて繰り返される。



己の仕草をなぞる影が、その時を遅らせて異なるものへ蠢き形作っていく。



情報社会のソーシャルネットワークと商業的印刷物とを媒介した、フィク

ションとリアルの境界を浸透する、呼び声。








不確かに取りこぼされていく、俄かに意図を判じかねる反響は、奇妙な恐怖と、掴みえぬ不安とを惑わし、遣わし。



托卵の孵卵器のように、植え付けられ育まれていく……



おお、おお。



歪むぞ、撓むぞ。考える事と言葉との架け橋が。



拗れるぞ、抉れるぞ。将来を想う足場と組みつつある思いの丈が。



破れるぞ、裂かれるぞ。矜持と手捌きが。



おお、おお、おお、




音が、音が、音が、






遅れて、響く、遅れて……





ああ、




応えて、


ああ、





ああ。




(註・埋め込みツイートはイメージです)

到達してしまえば何という程もない、それは清々しさだった。

僕は決して変わり果ててしまったわけでもないだが、かといって「特に何も」と言うには変わり過ぎた。

一番の変化は、遂に「過渡期の人」(仮称)についての見解を記述してしまった事だろう。これは大きな変化だ。僕にとってだけでなく、誰かしらの、あるいは未来の僕にとって。

その為に、久方振りに筆を振るい、長々と、批評的内容を内包する物語(でなければ経緯の記録を伴う批評)を描いている。記すべき出来事が、内容が多ければ多い程、その文量は相応に増加する。単純な話だ。だがその単純さこそ、質を追求し、見識を広め、此れと定めた目的に邁進し、結果狭窄した僕が失ったものだった。かつて、右も左も分からないまま、破裂しそうな熱量をただひたすら不器用に叩きつけるように打鍵していた2009年後半頃からの僕を、微かに思い出させるものがある。

無論、当時のそのままではないけれど。

狂気に駆られていたとしても、依然として理性は働くのだという事は意外だった。狂人は時に真人間よりも正気らしく説得的に見える、と知識では知っていたが、実際に狂ってみるとその意味がよく分かる。具体的に把握できる。つまり理性の内かつての常識を司る部分のみが破損し、価値体系が再構築され、それに基づいた判断機能が実装される。狂人が産声を上げた時、彼又は彼女は新たな世界観に刷新された精神を持つ自己を謂わば同位体として生成する。異常な状況や体験が引き金となって蓄積した不安や恐怖が、得体の知れないもののおぞましさ、信じられないものを信じたくない自己防衛本能が、感情を適切なコントロールから解き放ち、暴走させる。荒れ狂う感情の猛威は自己の精神を荒廃させ、決壊し、そして……。

時にはそのまま己自身を死に至らしめる事にもなるのかもしれない。僕は運が良かった。感情が決壊する遥かに以前から、自己の理性のどの部分を破壊させれば最小限のダメージで狂う事ができるか完璧に理解していたから。だからこそかつての僕はそこをとにかく守りたかったし、堅牢な城壁を築きもしたのだけれど、押し寄せた軍勢は想定外の兵器と物量を備えた、個々の自由意思によって偶然同時期に攻勢をかけてきた同盟せざる同盟軍、それによる連携的非合同作戦が主力とする大規模波状攻撃に晒される事1年余りを以て、遂に城壁は陥落、それをそれたらしめる秘密を暴露し、体制を崩壊させた。

そうだ。崩壊させたのだ。自らの手によって。攻め入られたのは偶然ではないにせよ、いずれは使うつもりで隠し持っていた秘密など、暴露したところで惜しくはない。だからこの事を、西尾維新の手に依るものとも、ニンジャスレイヤー翻訳チームに因するものとも、するべきではない。その関与はあるにせよ、間違っても僕が僕1人で完遂したとはとても言えない事でこそあるが、そして、僕自身が望んだのでもなくその時が来たらと胸に抱いていたのだとしても。








連載で語るべき事はもう残り少ない。長過ぎたのか短過ぎたのか、多かったのか少なかったのか、それは僕でなく読者が決める事だ。やりたかった事がうまくいっていたらいいと思うが、何よりも、読者に楽しんで貰えたら、これ以上の喜びはない。






(註・埋め込みツイートはイメージです)




いずれもっと良い台詞を拵えるつもりだが、この昇華篇を閉じるにあたって、最善の台詞を最後に。






あなたを。









あなた方を。











TENGAの国へ連れてゆく。







……………………。





噛んじゃった。

(第19話に続く)

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