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好きじゃなくても恋になる

告白というのは、難儀なものである。

なぜスル前までは早くしたくて伝えたくて、いざスルとなると怖くて怖気付くのだろう。

なぜ俺は今、目の前の女の子に告白してしまったのだろう。

自分の行動のくせに理解ができず、頭の中が真っ白になる。

「え、あ、あの。三宅...?私のこと前から好きだったの?」

「いや...?」

「だよね。何これ...罰ゲーム?」

俺は別に桂木弥生のことは好きではなかった。

若干ギャルだし品が無いし、桂木も俺は地味なクラスメイトくらいにしか思ってないだろう。お互い相性が悪そうなことくらい理解している。

どう話をしたらいいかわからず立ち尽くす俺に向かって、桂木は目を真っ赤にしたまま言葉をかける。

「私が目の前で振られた事に同情してんの?」


そう。桂木は、かねてより憧れていた「バレー部の先輩」とやらに振られた。

俺の目の前で。

告白の場所に校庭裏のゴミ置き場を選ぶなよ。ゴミ捨てに来た奴が俺だったから良いものの、下手なやつに見られたら学校中の笑者だぞ。

「バレー部の先輩」とやらには秘密で付き合っている他校の彼女とやらがいるらしく、桂木には「気持ちはとても嬉しかった」とかなんと言って丁寧に誤った後、そそくさと去っていった。

残された桂木は柄にもなく泣き崩れ、気まずすぎる俺は立ち尽くしていたが、目の前で女性が泣きじゃくる光景が衝撃的すぎてどうしたらいいか分からず。

というか、別に何もせず立ち去ればよかったのだが、自分でも訳のわからないことを口走った。

「じゃぁ...俺と付き合う?」


結果桂木の涙はパタリ止まり、”目の前の女の子を泣き止ませる“ことには成功したのだが、”今度はいたたまれない空気“をなんとかしてくてはならず、また混乱するはめになった。


***

「あんたキスとかしたことあんの?」

「ぶはっ」

ゴミ捨て場の近くの石段に並んで腰を下ろした。

こんなに近くで女子と話をするのは初めてなんじゃないか?桂木はほのかに甘い香りがして、先ほどまで泣いていたからか微かに赤い目元は潤んで輝いている。

まじか...。桂木ってこんなに可愛いのか。

こんなに近くに女の子がきたら全員可愛いなって思うんじゃないか?女ってすげえな。

「だから、キス。したことあるの?」

「無い」

見りゃわかるだろ。

俺がモテないことくらい、いくらまともに話したことなくたってクラスメートなんだから知ってんだろ。と、叫びたい気持ちを抑えて応える。

「私今日先輩とキスするために唇パックしてきたんだよね」

唇パック?!そんなものあるのかよ。そして桂木は付き合った初日からキスする気だったのか。

「だから、三宅、キスしよう」

「まぁそうだな...って、は?!うわ!」

俺も男だ。決して華奢では無い肩を、桂木が両手でグッと掴み自分へと向き直させる。

必要以上の準備をしてきたという唇は、たしかに美しいピンクで潤っている。なんかテカテカしている。

「いや、その、おれ、キ、スとか..初めてだから...」

「私も」

二人でなんだか凄いセリフを言いながら、同時に頬を染めていく。全身の血が顔に集まってくるかのごとく、カァっと熱を浴びた二人。

「せっかく頑張ったのに...。唇パックくらい、無駄にさせないでよ。アンタ私の彼氏でしょ!」

「えええええ!ほんとにそんな、え?!」

桂木が一気に顔を近づける。

女子のくせに力の強いやつだな。もしくは覚悟の現れなのか。がっちり肩をつかまれており、仰け反りたくても動けない。むしろ、目を閉じた桂木に釘付けになる。


やばい。

キス、

する








ゴツン!!!!

「いったぁ〜〜!」

最上級の頭突きがきた。桂木も悪気はなく、本当にキスをしようとしていたようで、思わぬ負傷にまた涙目になっていた。

彼女の「キスが初めて」なことについてはちょっと疑っていたが本当であることが立証された。

俺だってしたことないけど、知識くらいはある。正面同士ではだめだ。一方が少し顔を傾けて、こう...

どさくさのあまり、もう一回チャレンジしようとそっと桂木に近づくと...

「三宅のバカ!下手くそ!そんなんじゃ私の彼氏クビにするわよ!」


桂木は立ち上がると、もうダッシュで走っていった。少しパンツが見えるほどの全力疾走で。


「結局...俺は彼女ができたのか...?」


今日は好きではないクラスメートと、訳もわからず付き合う事になった。

原因不明の鼻血を治療するため、保健室へと向かう俺だった。






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