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【短編小説】フローライト

【短編小説】フローライト

 互いに、唯一の友であると言い合っていた同級生が居た。
友人の名前は赤城優。大人びた見た目で、明朗快活な子だった。私は思い出す。彼女と話をした時の記憶を。そこまで時を経ていないはずなのに、遠い場所に置いてきたかのように感じるのは、感じてしまうのは、何故だろう。
時期は中学二年の、丁度文化祭が終わったころだっただろうか。
高く積み上げられた、バケツ型の筆洗。木目に絵具の色が入り込み、傷の隙間から黒く

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【短編小説】女王さまの鏡

 わたくしの鏡が喋り始めました。
 喋り始めたのは、私の持っている手鏡です。政治に関する全ての権利を、息子に譲った時期から、鏡は私に向かって言葉を発するようになりました。
鏡は言います。低く、落ち着いた、紳士の声で。私にはそれが、かつて面倒を見てくれた側近に似ているように聞こえるのでした。しかしながらその従者は、今はもう居ません。
 体調が優れませんか。なら今日はもう、お休みになってはどうで

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