ヒナドレミのコーヒーブレイク          ふるさと               

 私は 詩人でもなければ作家でもない。したがって どれほど美しい景色を見たとしても その美しさを100%伝えることが出来ない。そして自分の思いを伝えることさえ上手く出来ない。そんな自分が 時々とても歯がゆくなる。

 私の貧困なボキャブラリーを酷使して、ある時私は文章を書いてみることにした。小説とも言えず、そうかと言って詩でもない。随筆に近いものなのかもしれない。思いついたままに、文章を羅列してみる。

           ・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・

 その日私は 秋の風景や音、そして香りを独り占めしたくて、実家の裏手にある 小さな庭へ行った。誰もいない、何の変哲もない裏庭だった。サクサクと枯れ葉を踏みながら歩いていた私は、ふと足を止め、深呼吸をした。何だかとっても懐かしい香りがした。これが故郷の香りなのだろうか?

 私のすぐ脇に、1本の白樺の木がある。私の大好きな白樺の木。思わずその木に触れると、白樺の木は、太陽の光を浴びて とても暖かく、そして温かかった、まるで母親に抱かれているが如く。

 私は思い出してしまった。「あぁ、お母さん、今あなたはどこにいるの?」封印してきた 母親との思い出が、堰を切ったように甦ってきた。ここでよく母親と遊んだものだ。そう、焼き芋を焼いて食べたこともあったっけ。冬には焚火(たきび)もしたよね。「♪かきねの かきねの 曲がり角~♪」私は思わず童謡の『たき火』を口ずさんでいた。

 日が暮れるまで、私は独り 童心に帰って 紅葉した落ち葉を拾い集めた。「ねぇ、お母さん、私の方が 沢山 葉っぱ集めたよ」見えない母親に向かって、私は話しかけていた。「〇〇ちゃん(私の名前)、頑張って集めたわね」と言う母親の声が聞こえた気がした。

 見上げると 茜色の夕焼け空が、こちらに向かって迫ってくるようだ。あの頃も、時々目にした夕焼け空。故郷の夕焼け空は、一段と美しく見える。「お母さん、明日もまたここで遊ぼうね」

 風が冷たくなってきた。私は、木々の向こうに沈んでいく太陽を 最後まで見届けて 裏庭を後にした。

           ・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・

文章の羅列は、如何だっただろうか?少しでも、ふるさとを思い出してもらえれば本望だ。                                   
                                完

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