見出し画像

ヒナドレミのコーヒーブレイク      フランスへ

 長年付き合っていた彼と別れた。日本にいると色々な日本語(声)が聞こえてきて煩わしかったので、海の向こう フランスへと渡った。何故フランスに行ったのか。そこまで明確な理由があったわけはないが、強いて言えば フランス語の持つ柔らかな響きに 救いを求めていたのかもしれない。柔らかなフランス語の聞こえる街を歩けば、私のこの傷ついた心が癒やされるかもしれないと思った。 

 英語圏の国では、知っている単語も聞こえてきそうだし。全く知らない(知っているのはボンジュールとメルシーくらいだ)フランス語しか聞こえて来ないだろう。そんなことが フランスを選んだ理由でもあった。 

 私は、どれだけ悲しそうな顔をしていたのだろう?通りがかりの人たちが、心配そうに私を見ていく。 

 そして私は、パリの南にある公園へ行った。別にこの場所に来たかったわけでない。正直に言うと どこでもよかった。ただフランス語を聞けるところならよかった。だって私は観光をしにここへ来たわけではないのだから。景色を見に来たわけではないのだから。 

 もちろん、美しい景色を見れば癒されるだろう。だが今はそんな気分ではなかった。彼と別れてやっと分かった、彼の優しさや心の温かさを。(別れてから彼の良さに気づくなんて、皮肉なものね)と思ったが、そんなものかもしれない。 

 だがもう遅い。彼の連絡先は全て消してしまったし。(これで良かったのかもしれない)と強がる私もいた。 

  (でも、せっかくフランスに来たのだから、少しくらい美しい景色を堪能しないで帰るのはもったいない)私は急に思い立って とある村へとやって来た。自然美が魅力的だというこの村は、丘の上にお城が建っている。青空をバックに、そのレトロ風なお城や石造りの家々の素朴な佇まいが、私をノスタルジックにさせる。そして こんなに大きな自然を目の当たりにすると、自分がとてもちっぽけな人間に思えた。フランスの自然が、私をゆっくりと浄化してくれているようだ。私は、何となくだが自分が覚醒していくのを感じた。ここへきて良かったと、心から思えた。 

 今回、彼と別れなかったら、この素晴らしい景色とは出会えなかっただろう。今、私の顔は、さっきまでとは違う。通りがかりの人に心配されることはないだろう。そして周りのパリジャンやパリジェンヌたちのフランス語を聞きながら、晴れ晴れとした気分になった。                          
                                完 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?