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オフィスひめの通信 57号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2018年8月

ー善玉菌でも増えすぎは逆効果ー

 ”腸活”がブームです。でも”腸活”を単に善玉菌を増やすことと考えると落とし穴があります。腸の運動を整え、適切な場所に適切な数とバランスの腸内細菌を育てる、これが本当の”腸活”です。食物繊維や発酵食品、腸内細菌サプリメントなどを摂ってもお腹が張るだけで便秘や下痢が治らないという方は、小腸での細菌の増え過ぎを疑ってみましょう。
 小腸はもともとあまり腸内細菌が存在しない場所。空腸(小腸の口側の部分)では 103~104/mL 未満です。大腸の菌が 1010~1012個ですからかなり少ないですね。何らかの理由で小腸に菌が増え過ぎることを小腸内細菌異常増殖症=Small intestinal bacterialovergrowth syndrome:略称 SIBO と呼びます。菌の発酵によって水素ガスやメタンガスが発生しお腹が膨れ、げっぷや逆流症状が起きます。SIBO の影響は消化管だけに留まりません。頭痛や関節痛、湿疹、慢性的な疲労感、気分の落ち込みなど消化管と一見無関係な症状の原因にもなります。小腸は重要な免疫組織が存在する場所なので、小腸の粘膜に菌が侵入すると慢性的な炎症を引き起こし全身に飛び火するからです。菌の侵入によって粘膜の透過性が高まり粘膜の隙間から毒素や大きな物質が入り込むことによって炎症やアレルギー反応、脳の攪乱を起こすこともあります。これはリーキーガット症候群と呼ばれる現象です。慢性的な炎症は副腎疲労症候群の原因にもなります。
 SIBO の原因は複数の要因が複雑に絡み合っています。消化管の運動機能の低下、胃酸や胆汁の分泌減少、小腸末端にある逆流防止弁の問題、大腸の菌の過剰な増殖や細菌バランスの乱れなどが原因になります。急性胃腸炎や抗生物質の使用が引き金になる場合もあります。

【SIBO の対策】

  • 消化管の運動を活発にする(睡眠、ストレス軽減、食事間隔の見直し)

  • 胃酸や消化酵素をしっかり分泌させる(ピロリ菌除菌、胃薬見直し、消化酵素補充)

  • グルテンフリー・カゼインフリー、低 FODMAP 食

  • 抗生物質や天然抗菌物質によって増え過ぎた菌をコントロール

  • ビタミン、ミネラル、ω3系脂質などの摂取

  • 歯周病の予防、口腔内を清潔に

  • 消化管の免疫力向上

  • 適切な腸内細菌サプリメントの補充

 SIBO は奥が深く、治療法も一筋縄ではいきません。まずはSIBOの存在を知っていただき体質に合った治療法を個別に見つけていくことが大切です。


SIBO を改善する食事 ― 低 FODMAP 食

 FODMAPとはF=Fermentable(発酵性の)O=Oligosaccharides(オリゴ糖)D= Disaccharides(二糖類)、M= Monosaccharides(単糖類)P= Polyols(ポリオール)の頭文字をとった言葉です。これらに共通することは小腸で消化吸収されにくい短鎖炭水化物で発酵性があることです。これらの短鎖炭水化物は腸液の浸透圧を上昇させ管腔内に水分を引き込み下痢を起こします。小腸の菌はこれらを食べて発酵し水素ガスやメタンガスを発生させ、膨満感のもとになります。下記はあくまで例ですので成書のリストをご確認ください。リストは複雑で、果物でも多いもの、少ないものがあります。りんごがダメでバナナが大丈夫など一般的な糖質の概念とは違うので一つ一つ確認しましょう。実際にSIBOの方は食べるとお腹が膨れるのでわかることが多いようですから、一度低FODMAP食を実施し改善した後は体験に即して実施していけば良いと思います。

【高 FODMAP の食品例(避ける)】
豆類(ひよこ豆、レンズ豆、大豆、納豆、絹ごし豆腐、小麦(パン、うどん、ラーメン、パスタ)、ソーセージなどの加工食品、りんご、スイカ、桃、 アボガド、アスパラガス、玉ねぎ、にんにく、はちみつ、オリゴ糖、糖を含む飲料、牛乳 ヨーグルト、乳糖の多いチーズ、カシューナッツ など

【低 FODMAP の食品例(食べて良い)】
米、十割そば、加工や添加物のない肉・魚・卵、バナナ、いちご、ぶどう、キウイ、きゅうり、なす、トマト、白菜、ブロッコリー、もやし、カボチャ、乳糖の少ないチーズ、アーモンド(少量)、くるみ、ココナツオイル、オリーブオイル、バター など

 低FODMAPのものでも、実際に食べてみると体質に合わないことがあります。適切な種類や量は一人ひとり異なりますので、試行錯誤しながら自分に合った食事を身につけることが大切です。


ピロリ菌と胃酸

 胃癌の予防のためにピロリ菌除菌が勧められていることは皆さんもすでにご存知の事と思いますが、ピロリ菌に感染していると胃酸が減ってしまいます。粘膜の萎縮性変化によって胃酸を分泌できる細胞が減ってしまうことやウレアーゼという酵素がアンモニアを産生し胃酸を中和してしまうことが原因です。ピロリ菌検査だけでなくペプシノーゲン検査も実施すると胃粘膜萎縮の程度をある程度推定できます。
 胃酸はこれまで述べてきたようにSIBO対策にも重要ですし、胃酸と胃の消化酵素の分泌はたんぱく質の消化吸収、B12や鉄の吸収にも重要です。栄養改善を目指す方はぜひ早期にピロリ菌を検査し、もし感染していた場合には除菌することをお勧めいたします。(ピロリ菌の除菌にはプロトンポンプ阻害薬と抗生物質を使用します。抗生物質のアレルギーを持っている方は必ず担当医にお伝えください)

※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。

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