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オフィスひめの通信 58号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2019年12月

ー脳を守るにはどうしたらよいかー

 今年は平成から新元号に変わる年ですね。皆様にとって飛躍の年となりますようお祈り申し上げます。
 今回はまず本のご紹介をいたします。Bredesen Dale博士の書いた「アルツハイマー病 真実と終焉―“認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム」註1)です。2018年の3月に日本語訳が出版されました。
 脳をどのように守っていくかは私たちにとって重要な課題です。血管系の病気や癌などがだんだんに克服されるようになって健康寿命が延びてきました。脳の健康寿命も一緒に延びて欲しいです。この本は脳が縮小するシステムとその防ぎ方について述べています。この本に書かれているアルツハイマー病の病因と治療法は医学界の主流に認められているものではありませんので真偽の判断は皆様にお任せいたしますが、アルツハイマー病に限らず広く病気の成り立ちと対処法について洞察を深めることが出来る示唆に富んだ本だと思います。
 この本を読んでいただければ気づかれると思いますが、病気の原因を調べるための多くのバイオロジカル検査について説明があります。栄養に関する検査や各種血液検査の他、尿中有機酸検査、有害重金属検査、IgG型食物アレルギー検査、ホルモン関連の検査、毒物検査、遺伝子検査など大きな病院でも行われていない重要な検査の数々とその意義を読み物として習得することが出来ます。
 バイオロジカル検査は体の中で起きていること、体質的な弱点などを調べるのに大変有用な検査です。これまで栄養欠乏、機能性低血糖症、副腎疲労などのキーワードで取り組んできた検査や治療の意義を再発見し
ていただければと思います。
 認知症だけでなく『脳の疲労が強い』と感じていた皆様にも大きなヒントとなる書籍です。当院で検査出来るもの、出来ないものがございますがぜひお気軽にご相談いただきたいと思います。

註1)アルツハイマー病 真実と終焉―“認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム
ブレデセン,デール(Bredesen Dale E)【著】白澤 卓二【監修】/山口 茜【訳】ソシム株式会社


脳を縮小させる3つの要因


 詳細は本書に譲るとして、アルツハイマー病の要因は脳の防御反応であり脳が自らを縮小させるという点がこの本の要点となっています。脳には体の隅々から情報が入ってきてそれらを総合的に判断して戦略を立てます。脳に縮小戦略をとらせる3つの大きな要因があります。炎症、低栄養、毒物です。

  • 炎症 ・・・病原体、糖化タンパク質、トランス脂肪酸、リーキーガット、炎症など

  • 低栄養 ・・・ビタミンD、葉酸などの栄養欠乏のほかホルモンや神経栄養因子(運動などで増える)の欠乏

  • 毒物 ・・・有害重金属、カビ毒、化学物質

 脳がこれらの危機を感知すると脳を構成する神経細胞に「死のプログラム」を発動します。細胞間のシナプスも伸長をやめしなびてしまいます。縮小する場所には特徴があり、生命活動に最低限必要な部分は残され高次の機能を担当する部分は真っ先に縮小の対象となります。それが生物としての生存戦略だからです。生命活動にとっては不要な、でも私たちが人間らしく生
きるために必要な高次の機能-記憶、創造力、洞察力、段取りや複雑な計算など-が切り捨ての対象になってしまいます。
 脳以外の場所の炎症も脳にあるセンサーが感知して脳に影響を与えるというのは衝撃的ですが、身体の不調と脳の不調(記憶力が悪い、脳が疲れやすい)の同期を実感したことのある方には腑に落ちる内容ではないでしょうか?炎症・低栄養・毒物という視点からすべての疾患をとらえ直していくと新たな発見があるに違いありません。

治療プログラムの個別化

 炎症・低栄養・毒物が脳に影響を与えると知っても、いつも聖人君主のような生活をすることは困難です。そうすると、自分にとって最も重要な要因は何かを切り出す必要が出てきます。それがバイオロジカル検査です。
 例えば炎症が強く起きやすい体質があります。自分が炎症準備状態の遺伝子型を持っていると知れば炎症を防ぐことに重点を置く選択が出来るでしょう。炎症マーカーで炎症を評価しIgG型食物アレルギー抗体検査などを使い具体的な対策を練ることが出来ます。
 毒物を排泄する能力にも個人差があります。同じ食べ物や環境で育っても有害物質が溜まりやすい人とそうでない人がいるのです。重金属やカビ毒、化学物質の蓄積などは目に見えませんが代謝の阻害などから毒物の影響を推定することが出来ます。影響を受けやすい人は毒物を出来るだけ入れないように、解毒能力を上げるように工夫をします。
 低栄養については楽しんで出来る対策がたくさんあります。好きなことをするのもその一つです。趣味や運動、人との交流などは神経栄養因子の分泌を活発にすることがわかっています。たんぱく質や必須脂肪酸、葉酸、ビタミンDなど脳に重要と言われる栄養素をしっかりと摂ることも大切です。栄養は脳以外にもよい効果をもたらすでしょう。

  • プログラムはそれぞれの人の状況によって最適化されるため一人一人異なる。

  • すべての要因に対処できなくても非常に重要ないくつかの要因に対処するとほとんどの人はそれで十分であった。

  • その人が最もやめたくない行動が最も重要な要因であることが多い。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。

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