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オフィスひめの通信 67号

―マイオカインで健康増進!― 

 ステイホームやテレワークで、日常生活動作が少ない状態が定着していませんか。今回は運動が脂肪燃焼や筋力増強だけでなく脳機能や精神状態、免疫力向上にまで影響を与えるというお話です。
 運動をすると筋肉が刺激されて筋肉細胞からマイオカインが分泌されます。このマイオカインは脂肪細胞に働きかけて脂肪を燃焼させたり、筋肉に糖を取り込んだり、インスリンが適正に分泌されるよう促したり、肝臓でアミノ酸から糖を作って送り出したりするのを促します。運動はカロリー消費を通して痩せるのではなく、運動自体が代謝を適正化します。激しい運動をたまにするよりも緩やかな運動を毎日少しずつ行ったほうが効果的です。
 さらに、マイオカインは脳の記憶力向上にも働くことが分かっています、例えばマイオカインのカテプシンBやirisinは脳由来神経因子を増やし海馬の神経を再生させます。実際に3ヶ月の有酸素運動をしてもらって海馬の容量を測ったところ、容量が有意に増えたというデータが得られています。家にこもってじっとしていると気分が落ち込むという経験をしたことはありませんか。マイオカインは神経伝達物質代謝に影響して、うつの気分を改善する効果があることも発見されています。
 抗炎症に関するデータも増えてきました。”慢性疾患の原因は慢性炎症である”という考え方はもはや常識です。適度な運動はIL-6やIL-10をほどよく分泌し炎症を抑制します。そして炎症性サイトカインのTNF-Rの分泌を抑えます。少し古い実験ですが、人工的にエンドトキシンを入れて炎症を誘発し、運動をした群、しない群で比較したところ運動をした群ではIL-6、IL-10などの炎症を抑制するサイトカイン分泌され、炎症性サイトカインTNF-Rの分泌が見事に抑えられていました。
運動には免疫活性化の作用もあります。筋肉から出るサイトカインがT細胞やNK細胞などの分化や機能を促進するのです。筋肉の伸長が骨に与える刺激で骨髄中のリンパ球前駆細胞が増えて免疫の維持を行っているという報告も出ています。
コロナ禍で家に閉じこもっていた方は今からでも遅くありません。日光を浴びてビタミンDを増やしながら、自分が最も楽しめる運動をしてみましょう。運動をしながら音楽やゲームをするとさらに脳細胞を活性化するそうです。楽しく健康寿命を延ばしましょう。

【まとめ】
運動は、

  1. 脂肪を燃焼させエネルギー代謝を改善する

  2. 記憶力向上とうつ気分の改善

  3. 炎症を抑制し免疫力を高める

―重力刺激と感染症―

 先日、星出さんが宇宙両行から帰還しました。民間ロケットの開発も進み宇宙旅行が身近になってきました。これまで無重力状態が人体に与える影響が様々研究されています。感染症もその一つです。NASAの報告によると宇宙滞在中にヘルペスや水痘、帯状疱疹(ほうしん)などのウイルスが再活発化して発症する人が5割以上にのぼったそうです。疲労やストレスが免疫力の低下の原因と考えられていましたが、無重力による免疫細胞の低下も関連しているのではないかとの仮説が出されました。そこで宇宙空間で運動をたくさん行ってもらったところウイルスの再活性化が防げたという論文があります。(The FASEB Journal. 2020;34:2869–2881)。
 宇宙ほどではありませんが、寝たきりになると重力負荷や運動による骨への刺激が減ります。寝たきりの人にとって肺炎などの感染は命を縮める可能性があります。体を起こしてあげること、手足を動かしてあげることなどを意識したケアが望まれます。

―ビタミンDの作用―

 最近ビタミンDが話題です。骨に対する作用はもちろんのこと血糖調節、冬季うつの改善、がん細胞の発生予防、アレルギー疾患の改善など様々な効用が言われています。そんな万能なビタミンなんてあるかしら?と懐疑的になる方もいらっしゃるかもしれません。ビタミンDの多彩な作用の要因はその働き方にあります。
 ビタミンDには、

  1. 核内受容体を介して遺伝子発現を調節する作用

  2. 細胞膜受容体を介して細胞内シグナルにより行う作用

があります。
 ①の作用から甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモン、ビタミンAとともに核内受容体スーパーファミリーと呼ばれています。活性化され受容体に結合した後、核内の遺伝子発現調節部位に結合します。たんぱく質の合成のスイッチのオンオフなどを行います。ビタミンAとビタミンDは協調しながら細胞の分化を促進したり、異常な細胞のアポトーシス(細胞死)を促したりする作用も持っています。①はやや遅い反応の経路です。
 反応の速さが必要な場合は②の経路です。ビタミンDが細胞膜の受容体に結合し、cAMPなどの細胞内シグナルを介して細胞内に反応を起こさせます。
 新型コロナウイルス関連ではビタミンDの感染防御と免疫暴走抑制作用が注目されました。ビタミンDはウイルス複製率を低下させる物質を誘導します。またTreg細胞という制御性T細胞の機能を増強します。攻撃と抑制の両方の仕組みを持っている点が自然界の妙味と言えるでしょう。

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2021年12月

※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。

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