見出し画像

【超ショートショート】(184)~むちゃぶり詞の授業~

「は~い!今日はみなさんに、
歌をつくってもらいま~す!」

突然、
先生のこうした第一声で国語の時間が始まった。

「先生~、僕、ピアノが弾けませ~ん!」

「ピアノは弾けなくても大丈夫!
国語の時間たがら。」

「じゃあ、どうやって歌を作るんですか?」

先生は、子供たちの不安げな表情を見て、
歌作りについて話した。

「プロの音楽家には、
曲だけを作る人の作曲家と、
詞だけを書く人の作詞家と、
その両方ができる
ソングライターという人がいます。」

「先生、ソングライターだけ英語ですね。」

「そうね。そのソングライターの場合、
曲と詞どちらを先に作ると思う?」

「詞から!」

「曲からだよ!」

「同時に?!」

「では、正解はないんだけど、
多くの場合は曲から作るの。
曲を作ってから詞を書いていくという順番で。
もちろん詞から作って、
曲をあとからつけるときも、また人もいます。
あの24時間テレビで作った「サライ」という曲が
詞を先に作ってから曲にしたのよね。
確か・・・」

「先生~、私、詩を書いたことがありません。」

「そうよね。」

先生は、今日の課題の用紙を、
廊下側の列から配り始めた。

「今、配った用紙の順番通りに、
歌詞を書いてください。
穴埋め問題みたいになっているから、
自分の考えた言葉を書いてみてください。
この課題に間違いも正解もありません。
テストじゃないからね。
安心してよく考えて歌詞のテーマ決めから
では、始めてください。」

子供たちは、
黙々と用紙に向かった。

先生は、
ゆっくりと机の間を歩き、
生徒の様子をうかがった。

ひとりの生徒が小声で

「先生~、どんな曲にするの?」

「どうして?」

「だって、聴いてみたいから(笑)」

すると、同じ質問が子供たちからわき上がり、
先生はこう話した。

「曲は、もう完成しています。」

「どんな曲?先生!」

「それはみんなさんが知っている有名な歌です。」

「えっ!じゃあ替え歌ってこと?」

「まぁ~そうなりますね!」

「その歌を教えてください!」

「それは詞が書けてからのお楽しみ!」

「(子供たち全員で)え~!」

授業時間が半分を過ぎた頃、
ひとりの生徒が歌詞ができたと、
先生に提出。

その歌詞の内容に、
先生はがく然とした。

~~~~~
今日のあなたは どこにいるの
もう飲まないと 約束したのに
なんでうそをつくの

あなたの帰り わたし ずっと待ってる

だから言ったのに どうしてあなたは
二日酔いと付き合うの
わたしの心配も 気づかずに

休みの日 あなた ずっと眠ってる

デートしないで 夢の中の恋人たちと
1つ2つの寝言の吐息
さっきと違う 新しい名前 誰なの
~~~~~

先生はこの詞を読んで

「どうしてこんな大人びた詞を書いたの?」

「大人びた?」

「大人のようなってこと。」

生徒はその質問にクスッと笑って、

「先生、それ本当の話なんです(笑)」

「本当の話?」

「きのうパパの会社の人が家族で遊びに来て、
そのおじさんがお酒が好きで、
いつも帰りが遅くて困っているんですって、
パパに相談したの、おじさんの奥さんが」

「そう大変ね!ご病気じゃないといいんだけど」

「先生、お酒って言っても、
コップ1杯のビールで、家に帰れなくなるくらいに、
そのおじさんお酒に弱いんだって。」

「弱いのにたくさん飲むの?」

「違うんです。
たった1杯だけしか飲まないんだそうです。」

「でも、
お家帰れなくなるくらいに酔うんだよね?」

「そう。奥さんはその1杯のお酒を
飲めないんだから止めてって言っているみたい」

「でも止められないの?」

「はい、1日1杯のお酒が楽しみで、
止めたくないっておじさんが」

「そうそれは困ったわね」

「でもおじさんの奥さんも
そんなにイヤそうではなかった。」

「どうして?」

「おじさんは酔っ払って、
自宅とは反対のバスに乗って終点まで、
いつも行くのが楽しみだって。
記憶に残ってないのに、
それが楽しみだって言うんですよ」

「あらっ!どうして?」

「終点から帰りのバスがないと、
いつも夜遅くても奥さんが
車で迎えに来てくれるのが好きだって」

「どうして?奥さんは迷惑よね?!」

「先生、奥さんは迷惑じゃないんだって」

「どうして?」

「むかし、おじさんと奥さんが恋人だったときを
思い出して、デートしてるみたいで好きって」

「お二人のデートはドライブだったのかしら。
でも運転は男の人じゃないの?」

「うん、でもおじさんは、
奥さんの運転が好きだって。
〈僕が起きないように
静かにブレーキをかけてくれる所が
「オレ、愛されてるって気がして好きなんだな」〉
って、おじさんが笑顔で話してた。」

「奥さんは?」

「奥さんも嬉しそうに笑ってたよ!」

(制作日 2021.12.4(土))
※この物語はフィクションです。

今日のお話は、
あす12月5日(日)がアーカイブ配信最終日となります
ASKAさんのオンラインライブ
『ASKA グラミー賞ノミネート希望 Acoustic Live』
この中でASKAさんがお話した、
お酒に酔いながらも、
自宅とは反対のバスに乗っているにもかかわらず、
気づいたら自宅に無事帰宅している。
こちらを参考に今日のお話になりました。

夫婦のくだりは、
完全にフィクションですが、
世間から理解できない夫婦の愛情表現って、
たぶんあるんだと思います。
どんなに大変な思いをさせられても、
好きだから、
愛しているから、
何でも許せるんだろうなって。

そんなことが当たり前と思えて、
大切に思えるようになったら、
本当の愛を手に入れられてるような気もします。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?