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第四十九話 飛んで上京

18歳の冬、私は廃人だった。薬物のやりすぎで幻覚も見えるような状態で、叫んだり暴れまわったり、震えながら怯えて駈け出したりと、とにかく周りの人達には迷惑をかけていた。売り物でも構わずにあればあるだけやってしまうので、一緒に薬をやっていた奴らも私のやり方は危ないと言って心配してくれる程であった。当時付き合っていた彼女は特に私の身体を心配してくれて、組を抜けて普通に働くように何度も何度も私を説得しようとしていた。

もう売り上げは落ちる一方で兄貴分に渡す金もままならないような状態になってしまっていた。『このままじゃヤバい事になる』自分でもそう感じるようになって、どうすれば今の生活から逃れられるかを考え始めた。普通の会社ではないので、ただ辞めますと言っても通用するはずもない。友達や彼女に相談をしながら考え、最終的に『飛ぶ』ことにした。『飛ぶ』というのは逃げ出して行方をくらますことである。そう決めてから飛ぶ準備を始めることになった。行先は東京にすることにした。東京に決めた理由は、何をやってでも生活は出来そうだし、憧れもあったからだ。
それからは薬をやる量を減らし、ガンガン売りまくって現金を集めた。ある程度の金額になったところで、電車に乗って東京に行き住む場所を決めた。どこでも良かったのだが姉が住んでいる場所の近くに部屋を借りることにした。当時は金さえ払えば未成年でも部屋を紹介してくれる不動産屋は沢山あった。生活に必要な最低限のものを買い込み、いつでも住める状態にした。保護司にも引っ越しすることを伝え準備はすべて整った。

12月になっていた。兄貴への支払いは月末になっていたので、売れるだけ売り尽くし現金を貯めて月末前に飛ぶことにした。信用していないわけではないが彼女以外には引っ越し先を教えることはしなかった。少しでもバレる可能性を消したかったからである。友達たちも理解してくれていた。まだ学生だった彼女は「遠距離恋愛になるね」と嬉しさと寂しさが入り混じった感じで言った。クリスマスイブの日友達と彼女を誘って食事をしてカラオケに行き朝まで飲んだ。もう辺りが明るくなっていた。友達たちと解散をして彼女と二人で駅まで向かった。上野までの切符を買ってから、改札口で彼女との別れを惜しんでいた。発車の時間が来ると私は小走りで電車に向かった。彼女は私が見えなくなってもずっと手を振っていた。

電車を2回乗り換え、駅からは歩いてこれから暮らすことになる新居へ向かった。荷物は大きめのバックが一つだけ。中には洋服と持ち逃げしてきた300万程の現金、売れ残ったコカインのパケがパンパンに入っていた。
『薬は今持っている分がなくなったらやめよう』『なるべく早く普通の仕事を探そう』そんなふうに思っていた。なにより今までの生活から抜け出した解放感で満ち溢れていた。

今回はどうしようもない廃人生活から抜け出すために逃げ出したエピソードを書きました。次回は普通に働く事の難しさ等を書いていこうと思います。

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次回に続く

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