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男の子と不思議なくだもの

 ある日、一人の男の子が森で遊んでいると、にじ色のいい匂いのする不思議なくだものを見つけました。男の子は

『こんなにキレイで、いい匂いがするんだから、きっとおいしいはずだ』

と思い、食べてみることにしました。
でも、そのくだものは、石のように固くゴツゴツしていて、どうやって食べていいのか、どこから食べていいのかわかりません。
そこで男の子は、このくだものの食べ方を誰かに教えてもらおうと、村に行ってみることにしました。


 スタスタと歩き始めた男の子は冒険気分で、とてもワクワクして、くだものを投げたり、けったり、振り回したりしながら、森の小道を下っていきます。
 村の手前まで来ると、キラキラした服を着た女の人が歩いていました。
その人は、キズだらけのくだものを持っています。食べ方を教えてもらおうと男の子が近づくと、女の人は持っていたくだものをポイっと捨ててしまいました。
男の子が

『どうして捨てたの?』

と聞くと、女の人は

『何の役にも立たないからいらないの』

と言うのです。
男の子が捨てられたくだものを拾うと、

『返して!!』

と、女の人は男の子からくだものを取り上げました。
でも女の人は、またすぐにくだものを捨ててしまったのです。
びっくりした男の子は、もう一度キズだらけのくだものを拾って

『これは食べられないの?』

と聞きました。すると女の人は、

『こんなものが食べられるはずがないでしょ!もし食べられても、絶対おいしくないと思うわ!』

と言って、男の子からキズだらけのくだものを取り上げ、はや足で行ってしまいました。
男の子は、何だかくだものにキズがつくのが嫌になったので、投げたり、けったり、振り回したりするのをやめて、持って歩くようにしました。

 村に入ると、何やら言い合いをしているおじさんたちがいました。
長いヒゲのおじさんは

『わしか拾ったんだ!』

と言っています。
太っちょのおじさんは

『俺が見つけたんじゃ!』

と言って、小さなくだものの取り合いをしているのです。
 ヒゲのおじさんは、長いひげをブンブンと揺らしながら、太っちょのおじさんは大きなお腹をブルンブルンと揺らしながら。
小さなくだものは、二人のおじさんの間をあっち行きこっち行きしています。

『わしが拾ったんだから、わしのもんだ!』
『俺が見つけたんじゃから、俺のもんじゃ!』

と、二人ともくだものをつかんで離しません。
二人が力いっぱい引っぱるので、小さなくだものは形が変わって、何だか割れてしましそうです。
 ヒゲのおじさんが顔がしわくちゃになり、太っちょのおじさんの顔が真っ赤になったその時、

「パリン!」

とうとうくだものは割れてしまいました。
二つに割れたくだものは、みるみるうちに砂になって、おじさんたちの手をすり抜けて、風に吹かれて飛んでいってしまいました。
それを見たおじさん達は、

『お前が悪いんだ』
『俺が割ったんじゃないぞ』

と、二人ともプンプン怒りながら、別々の方向へ行ってしまいました。
それを見て男の子は、くだものが砂になって飛んでいってしまわないように、落として割らないように、大事に抱えて歩くようにしました。


 村を出た男の子は、川の向こうにある街へ行ってみることにしました。
その川にかかる橋は吊り橋で、風が吹くたびにユラユラ揺れています。男の子はその橋が怖くてたまりません。
でも、このくだもののことが知りたいので、勇気を出して橋を渡ることにしました。
くだものを大事に抱えて、ガタガタふるえながら橋を渡っていると、街の方から、うつむいてトボトボと歩いてくる、かみの長い男の人に会いました。
かみの長い男の人は、くだものを大事そうに抱えています。

『あんなに大事に抱えているんだから、食べ方も知っているはず!』

男の子はそう思って、かみの長い男の人にくだものの食べ方を聞いてみました。
すると、

『食べるなんてもったいない!食べたら無くなっちゃうじゃないか!だから食べないよ。』

と言うのです。

『じゃあどうして、そんなに大事に抱えているの?』

と聞きました。
すると男の人は

『誰かに取られるかもしれないじゃないか。だから、大事に抱えているんだ。』

と言うのです。

男の子は、かみの長い男の人が大事に抱えているくだものをのぞいてみました。

そのくだものは、黒くて、何だかフニャフニャしています。
男の子は

『どうして黒い色をしているの?どうしてフニャフニャしているの?』

と聞きました。
すると、かみの長い男の人は

『いつからか色が変わって、いい匂いもしなくなって、フニャフニャになっていったんだ。』

と言って、うつむいたままトボトボと歩いて行きました。
 男の子は、くだものを大事に抱えるのはやめて、すぐに食べようとしましたが、まだまだ固くて食べられません。
男の子は、また歩き出しました。今度は大事に抱えるのはやめて、でも、くだものは落とさないように気をつけて。


 街に入ると、大通りの真ん中で泣いている子どもがいました。
どうしたのか聞くと、

『くだものを食べたら、どんどん、どんどん小さくなって黒くなっちゃった。』

と泣いているのです。
子どもの横には、小さく黒くなったくだものが落ちていました。

『これは、食べられないの?』

と男の子が聞くと、

『食べてみたけど、おいしくないんだ。』

と言って、泣きながら行ってしまいました。
男の子は、くだものを食べるのはやめたほうがいいのかな。。。と少しわからなくなりました。

 また少し歩いていくと、今度はおばあさんに会いました。
男の子がくだものの食べ方を聞いてみると、

『ふふふ。食べたいのかい?』

と、おばあさんは、袋の中から自分が持っていたくだものを取り出して、分けてくれました。

『さぁ、遠慮しないでお食べ。』

おばあさんは、にっこり笑って言いました。

男の子が
おそるおそる
そのくだものを食べてみると。。。

『!!!!!!!』

 それは、甘くて、柔らかくて、とってもおいしいのです。

でもやっぱり、おばあさんがくれたくだものも、どんどん、どんどん小さくなって、黒くなってしまいました。
男の子がしょんぼりしていると、おばあさんは、黒くなったくだものを大事に、また袋の中へしまいました。
男の子は、おばあさんに聞きました。

『ねぇおばあさん、そのくだもの、小さくなったし、黒くなったし、もうおいしくないのに、大事にしまってどうするの?』

するとおばあさんは、

『そうねえ、ふふふ。ついていらっしゃい。』

と言って歩き出しました。

 おばあさんの後について少し歩いていくと、大きな木が見えてきました。
その木の下では、おじいさんが畑仕事をしています。
おばあさんは、袋の中から黒くなったくだものを取り出すと、おじいさんに渡しました。
するとおじいさんが、

『ア ソ〜レ
 タネは植えなきゃ木にならん。
 木にならなきゃ花が咲かん。
 花が咲かなきゃ実がならん。
 実がならなきゃ食べられん。
 たくさんならなきゃ食べられん。
 みんなと一緒に食べられん。』

と、歌いながら、小さく黒くなったくだものを土にうめたのです。
男の子が

『どうしてうめるの?』

と聞くと、おばあさんが言いました。

『ふふふ。あの黒くなったくだものはタネと言ってねぇ、土に埋めて育てると
 くだものの木になるのよ。』

と、教えてくれました。

 男の子は、自分が見つけたくだものを見せて、食べられるか聞いてみました。
するとおじいさんが

『こりゃ〜まだまだ食べられんのぉ。もう少し大きく、もう少し柔らかくならんとのぉ。それまで、なくさずに持っときなさい。』

と教えてくれました。

 でも、男の子はこまっていました。
色々な人のくだものを見ていたら、どうしたらいいのかわからなくなっていたのです。
するとおばあさんが、

『ふふふ。あなたが、いろんなものを見て、いろんなことをやってみて、いろんなことを覚えたら、そのくだものは少しずつ大きくなって、少しずつ柔らかくなっていくわ。しっかり大きく、柔らかくなるまで待ちなさい。食べられるようになったかはどうかは、あなたが自分でわかるようになるわ。
そして、あなたがくだものを食べようと思った時、その時は、できたら一人で食べないで、みんなと一緒に、みんなで食べなさい。そうすれば、そのくだものは、もっとおいしくなるから。』

と、にっこり笑って言いました。

 男の子は、おじいさんとおばあさんにお礼を言って、また歩き出しました。
くだものはなくさないようにしっかり持って。

 男の子の旅はまだ続きます。

この果物が、もう少し大きく、もう少し柔らかくなるまで、みんなで食べられるようになるまで。

おしまい


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