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“保護”という名目で政治的活動から疎外され、制度を変えたいと思った。(中村涼香)

 日本が直面する少子高齢社会、中高年男性が多くを占める政治の場に、より長い未来を生きる若い世代の声はなかなか届いていません。そこで、2023年7月10日、東京地方裁判所に、10代・20代の原告6人が「立候補年齢引き下げ訴訟」を提訴しました。若い世代の声が届く社会に向けて、立候補年齢の引き下げを求めるものです。
提訴にあたっては、全員が、声をあげた理由を意見陳述書にまとめて提出しました。彼ら彼女らのメッセージをぜひご一読ください。

 今回は、現在、大学生の中村涼香さんの意見陳述全文です。

 私は、高校生の時から現在まで、核兵器を世界からなくすことを目指す社会活動に取り組んできました。そして、その活動に取り組む中で、もっと若い世代が政治の世界にいるようになれば、もう少し政治家の感覚や意思決定のあり方が変わっていくはずだと感じてきました。しかし、今の選挙制度はそれを許していません。私が今回の訴訟の原告となったのは、若者たちの政治参加を制限することにつながる今の制度がおかしい、変えたいと思ったからです。

  私は今、東京にある大学の4年生で、国際政治を学んでいますが、元々は長崎県出身です。母方の祖母が被爆者である被爆三世ですが、学校の友達の中にも、そういう人は少なくありませんでした。学校教育には、当然のように平和教育が組み込まれていて、毎年8月9日は登校日となっており、そこで平和集会がありました。全校生徒が黙祷をしたりする中で、私も自然に、核兵器のない社会を作りたいという思いをふつふつと感じるようになりました。

 そうした中、高校生の時に、核兵器廃絶のために署名を集め、国連に届けるという企画の参加者を募集していることを知りました。私は当時、国際的なことに強い関心があって、それが理由で英語科のある高校に進学していましたので、国連に行くことができるなんてすごい、という思いもあり、このプロジェクトに参加することにしました。結局、このプロジェクトは、国連ではなくノーベル賞選考委員会のあるノルウェーに行くことになったのですが、私にとって貴重な経験になったのと同時に、虚しい気持ちにもさせられました。というのも、おそらく年長者の方々が、私たちのような若者が活動の「アイコン」になることで、面倒なことに巻き込まれないようにと配慮した結果だと思うのですが、私たちは、政治家に働きかけたりするような具体的な意思決定の場に参加することは許されず、被爆体験を伝えるといった「想い」がベースの活動への参加に限定されていました。保護という名目で、政治的な活動から疎外されてしまい、それでは私たちは何も変えることができないなと、虚しい気持ちになったのです。
当時、ノルウェーのオスロでは女性が市長を務めており、さまざまなことに取り組んでいて憧れを抱いていたのですが、その市長とお会いした時に、社会を実際に変えていっている彼女と、無力な自分との間に大きなギャップを感じました。

  核廃絶のための活動には長い歴史があり、その積み重ねがある反面、柔軟性に欠けるところもあって、若い世代の私たちが、自分たちで考えたことを自由に実践していくことが、難しい部分もありました。77年前に起きた広島や長崎の被爆体験はとても大きなものですが、いま現在も世界は1万2000発の核兵器とともにあり、日本の核廃絶の活動も、そうしたことを意識した新しい展開が必要だと感じるのですが、目標にしても、ビジュアル面を含めた活動の打ち出し方にしても、なかなか新しいことができずにいました。

 私は、進学のために東京に出てきて、最初の1年こそ燃え尽きたように核廃絶の活動をお休みしていたのですが、その後、同じような問題意識を持つ仲間たちと出会えたこともあり、活動を再開することにしました。その仲間たちとは、自分たちで自由に考え、新しい分野を開拓して、自分たちだけで意思決定をするということができるようになり、とても充実した活動ができているとともに、少しずつその成果も見えるようになりました。社会活動は成果が得られにくく、モチベーションを維持し続けることは簡単なことではありませんが、それでも東京でこうした新しい展開ができていることは、一つの大きな成果だと感じています。これまでの世代の人たちが積み上げてきた歴史ややり方もとても重要で敬意を抱いていますが、同時に、若い世代の人たちが作り上げる、新しい社会の動きにフィットした活動もまた、別の大きな価値を持つのだと確信しています。

 そして、このことは政治の世界でも同じだと思います。やはり年齢を重ねていくと、体力的・気力的にも、あるいは、新しい情報の吸収のしやすさなどの点でも、若い人たちとの違いが出てきます。その結果、現状維持に留まる政治家が多いと感じます。今、政治家というのは、40代でも若手と言われる世界です。そうした中で、現状の立候補年齢の制限について適法性を問う動きがあると聞いて、私も原告に加わることしました。私たち自身の声を政治に反映させたいという想いもありますが、私たちが歳を重ねた後のことを考えても、今の制度を変えるべきだと思ったからです。年配者と若者という現実のパワーバランスがある中で、それでも若者たちの声がしっかりと政治に反映されていくためには、それを可能とする制度的な担保が必要だと思ったのです。訴訟の原告になって声を上げるということは、多くの人にとって簡単なことではありません。所属している組織や会社から反対されたり、SNSなどで猛烈なバッシングを受けたりすることもあると思います。でも、私は社会活動を続けていこうと思っているので、所属している集団や組織ゆえの制約はありません。そうであれば、より声を上げやすい自分が原告になり、問題提起するべきだと考えたのです。

 若者が立候補できるようになれば、候補者の顔ぶれが一気に変わり、若者が投票したいと思うようになると思いますし、選挙活動の仕方も随分変わっていくのではないかと思います。若者を含む多様な人たちが、私たちの代表として政治を担っていくことは、これからの社会のためにきっと良いことだと思います。

以上

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