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この場所が誰かの暮らしにつながっていく。

北海道へ移り住み、4年目。
この地域でお店を営まれている方とのつながりが増えつつあることに、ふと気づきました。

私がここでいう「つながり」とは、商品を購入するだけではなく、笑顔やお喋りに惹かれて通ううちに、もう少しお互いのことを知ること。

美味しそう
お店の中を覗いてみたい
から始まり、

また行こう

となる理由をじょうずに言えないのですが、
惹かれるお店には、誰かにとってどこか惹かれる方がいる…
それはきっと、誰もが同じなのではないでしょうか。

七飯町にある小さなパン屋さん「pannoma(ぱんのま)」さんも、そんな大切な「つながり」の一つ。

昨年の秋、pannomaさんからなんとも嬉しい撮影のご依頼をいただき、私たち夫婦はお互いのカメラを持って伺いました。

降り立つと、足もとに咲く野あざみが歓迎してくれました

*  *  *

パンの間

よっしーさん・まなみんさんご夫妻は自宅の2階をDIYで改装してパン工房を作り、その部屋を「ぱんの間」と呼ぶことにしました。
そこから名付けられたお店の名前が「pannoma(ぱんのま)」です。

ロゴの印刷も試行錯誤だった手作りのオリジナルバッグ
DIYで作った窓を覗くとそこには「ぱんの間」があります
夕暮れの「ぱんの間」


パンの仕込み水は全て白口浜天然昆布の水出し

夫、よっしーさんの実家は昆布漁師です。
以前ほど使われなくなった昆布出し。
今いち度、昆布の価値を再提案したいと考え産まれたのが、ぱんのまのパンです。
蔵熟成により数年寝かせることで、磯臭さを飛ばした昆布の水出しは、パンの仕込み水として自然に馴染むようになっているそう。

窓に描かれたお店のロゴ
昆布にも酵母にも人にも見えるマークは、見る人の想像にお任せ、とか

自分たちと暮らしながら育っていく自家製酵母

自分たちの暮らす時間とともに、自家製酵母もまたゆっくりと育っていく。
自宅に工房を持つことで、そんな酵母の成長する姿を見守ることができる。

撮影中に見せていただいた自家製酵母

さぞかし大事に大事にしている気持ちが、まなみんさんの話し方、眼差しから伝わってきました。

プルーンで起こした酵母はカンパーニュや他の多くのパンに


大きな自然に囲まれた「ぱんの間」

秋の高い空と、紅く染まる紅葉、遠くの山々と広がる田畑。
見慣れてはいるけれど、見飽きることのない風景。
酵母も、そこから焼きあがるパンも、この景色と空からの光を感じているに違いない。

ここへ入った瞬間、直感的にそう思ったのですが、刻々と日が暮れて薄暗くなる中に浮かんできたのです。

春夏秋冬
雨の朝も、雪の宵も、月の夜も。
その全てが調和してパンになっていく情景が。

反射する風景にも囲まれて…
深まる秋を感じさせる眺め
日は暮れて山々が浮かび上がる時刻
近くには北海道新幹線が走っています
飽きることなく見上げてしまう大きな空


思い出す味に出逢う

我が家がぱんのまさんに通うようになってから1年。
定番のパンから季節限定のパンを大切に味わってきました。

初めて口にした時はどこか懐かしい香りと味に、新しい出逢いを感じたものです。
幼い頃、私の祖母がしょっちゅう作ってくれた酒饅頭(祖母はよく「おまんじゅうをこさえるからね〜」と言っていました)。

今では思い出す機会がなくなっていたその酒饅頭の生地の香りが、蘇ってきたような気がしたのです。
懐かしいのに、新しいのです。
また新たなつながりに出逢ったのですもの。

もちろん、パンそれぞれで風合いは違います。
我が家はいつもオーブントースターでリベイクします。
すると、もっちりするものもあれば、さっくりとするものも。

直売所へ足を運び、ご夫婦で選んだ野菜や果物。
まなみんさんのひらめきで、その日限定でちょこっと作る試作品。
限定ものに弱い私は、いつもSNSでお知らせを見ては心が揺らぎます。
ぱんのまさんが作ったら、どんなパンになるのかな…と想いがめぐるのです。

一つ一つのカタチがめんこい(かわいらしい)
カンパーニュ各種、山食パン、シナモンロール、発酵あんぱん、豆パンなどが並ぶ
オーダーを受けたらこの陳列棚から取り、カウンターからお渡しするスタイル


お互いのことを想う

いつしか自分たちも、周りにいる人も心地よく暮らせるように。

夏、畑で育てた野菜たちと撮影した1枚
足元に咲く野の花はまなみんさんの大好きなフランス菊

私たち夫婦は写真を撮るのが好きです。
パンを買いに行った際、これまで何度も、持ち歩いていたカメラでご夫婦のスナップ写真を撮らせていただいてきました。

ぱんのまさんは常に、この先やりたいことを話します。

軽トラで移動販売をしたい
野菜、果樹、ハーブ、花を育ててエディブルガーデンを作りたい
庭に作ったテラス席で、お客さまにのんびりしてもらえるようにしたい

秋、ほぼ完成しているウッドデッキには大根が干してありました

具体的な目標を持ったお二人は、私たちの「写真を活かして何かをしたい」
というぼんやりとした夢の一つを、経験させてくれました。
そしてその写真はぱんのまさんを通してつながっていきます。

祈るように焼き具合を見守って…
焼き上がったカンパーニュには美しいクープが
地元の焙煎所の豆を使用した珈琲はテイクアウト用
夏には自家製紫蘇ジュースやジンジャーエールなども提供していました

街から離れた静かな場所に佇む小さなパン屋さん。週末の営業日には、開店と同時にお客様が並ぶこともあります。
並んでいるけれど、お客さまとの会話を大切にしていて、次に待っている方も会話を楽しみにしているから、待つ時間のことを分かっている。
自分の順番を待ちながら、私はそう感じています。

パンを買う理由はそれぞれ違うと思う。
美味しさだけではなく、他にはない独特の製法だったり、
安心できる原材料だったり、僕たちの手作りのライフスタイルだったり、
はたまた僕ら夫婦とのちょっとした世間話や興味、関係性なのかも。

最初に目指していたのは、
僕らの暮らしや人となり、想いも一緒に伝えていきたい
人や自然とのつながりの中で暮らしていて、そんなことが感じられる、
伝わる仕事がしたい。

よっしーさんは以前SNSでこうお話していました。

そして撮影後、私たちがお互いの想いや暮らしのことを語った時間にも、思い描かれているだろうことが伝わってきました。

撮影後、カンパーニュはこんな形にするとカットしやすいと教えてくれました

一緒に暮らし、お店に並んだパンが、じぶんたちの手から離れても、
誰かの暮らしに繋がっていく。
今日から明日。私たちからあなた。あなたから大切な人へ。

HPに記されたこの言葉の通り、「ぱんの間」で生まれたパンは、誰かの暮らしにつながっていく。
そこで見て、聞いて、感じた想いを乗せて。

なんでも聞いてくれる「居場所」のようなお二人
店舗を持たず、イベント出店からパン屋を始めたお二人の
暮らしは、これからも少しずつ変化していくのでしょう
パンの間から見える紅葉も、静かに佇んで
見守っているのかもしれません

※ pannomaさんご指示のもと、消毒等を含め適切な衛生管理を行い撮影しています。

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