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【最終回】M&Aの流儀:「失敗は、希望」

細田薫です。私に気付いていただき、ありがとうございます!

ようやく最終回です。。何の気無しに始めた「M&Aの流儀シリーズ」ですが、結局全9回に渡る長編番組となりました。最後までご一読いただけますと幸いです。

最後は「失敗は、希望」。これはもう、M&Aのみならず全ビジネス、ひいては人生にも言えることだと思います。成功は正義、失敗は悪と捉える風潮のあるこの国において、なぜ「失敗は希望」なのかについて、M&Aという切り口から綴って参りたいと思います。

失敗しないわけがない

一つの会社を買収するということは、その会社の「一生」を買うことと同義です。

その会社で過去の経営者・従業員の方々が積み上げてきた全てを、契約書とDDだけで包み切ることなど不可能です。それができるともし思っているのであれば、もうその時点で「驕っている」と思ってください。

DDでは主に「過去と現在」、例えば会計情報・税務リスク・財務状況・人事・事業モデル・市場状況・競合状況、、、、。契約書では買収条件に加え、揉めた時(Dead Lock)時の解決策、組織体の運営方針、過去を起点とした損失発生時の処理、、、などを「現在と未来」をカバーします。

ページ数に直せば、DD Reportと契約書だけで優に1000ページは超えます。

この超・広範なカバー範囲において、何かの失敗をしない、ミスをしないことなどあり得るでしょうか??

また、事業環境も事業も「生きて」います。過去上手くいっていたものが、ある日上手く行かなくなることも当然あります。その不確実性こそが事業の源泉であり、不確実性による何かしらの損失、は必ずしも「ミス」ではありません。そこからのリカバリーが全てです。

失敗を見て、怒ったりイライラしたりしている人を見ると、いつもこう思います。

「未来も過去も全て理解できる天才が集う、超つまらない桃源郷がこの世のどこかに存在していると思ってるのかな?」

少なくとも、私はそんなつまらない世界線はゴメンです。

勝ちに不思議の価値あり、負けに不思議の負けなし

私は野村監督のこの言葉が大好きです。そして、自分でM&Aをやるようになり、この言葉が意味するところを痛感しています。

幸運にも、私が過去携わった案件は今の所全て「成功しそう」です。「しそう」と書いたのは、私は「投資金額を全回収して初めて最初の成功」だと思っており、そこまでには最低5−7年掛かる為です。まだ断定は出来ません。

その理由を振り返ってみると、確かに私は頑張りました。現場の人も会社の同僚も頑張りました。でも、色んな「運」が味方してくれたのも事実です。全く同じアプローチを10回取ったとしても、同じような結果が導き出されるのは2−3回な気がします。つまり、

「勝ち」は再現性が乏しい、のです。

また、その「勝ち」の要因を分析し明確な要因を導き出せたとして、往々にして「個別事象」の色合いが強いことにも気が付きます。🇧🇷の個別要因は🇺🇦には持って行けませんし、製造業界の個別Tipsは小売業界には持って行けません。

「勝ち」は汎用性も乏しい、のです。

「そこを一般化・標準化してパッケージにするのが商社マンだろ」という声が聞こえてきそうですが、火星のルールはどうこねくり回しても地球のルールにはなりません。

一方、負けはすごい。再現性も汎用性も高いです。少し個別具体的な話になりますが、一つ私自身の例をあげましょう。

他案件で、「買収交渉中、買収後のガバナンスについての議論が不足していたので、非常に良い条件で買収できたものの買収後はしこりが残る形になってしまい、PMIも不十分になった」という話を聞く。

②その話を生かし、私の案件Aで綿密にガバナンスに関わる協議を実施。その結果、案件Aではガバナンス問題は発生せず。しかし、

③初期的交渉時に紹介したKey Conditionsを絞り過ぎたせいで、DD後の本格交渉の際に「そんなん聞いてない」となり、一時Deal Break間近に。

④その反省を生かし、私の案件BではKey Conditionsをより時間を掛けて作り込み、少な過ぎず多過ぎないリストに。その結果、「いやいや、それ聞いてないよ」という話は無く、買収交渉が実施できた。

お陰様で、会を回を追うごとに案件のクオリティは上がっていきました。

先人・先案件のお陰で「地雷」を避けることが出来た

のです。地雷の埋まっている場所は結構似通っている一方、宝箱の在処は毎回変わってしまうのです。

「失敗は希望」を社内標語に

私は、上記①で出てきた「他案件での失敗」を包み隠さずに伝承してくれた方には今でも感謝しています。もしそれが無ければ、案件Aが似たような失敗をし、多くの人間が不幸になり、そして案件Bなど望むべくも無かったかもしれません。

しかし、そもそも「失敗を他者に伝えるという行為」は辛く、恥ずかしく、情けないものです。そこに「減点主義」の風土が掛け算されてしまっては、失敗を自分から話さなくなる方が自然です

だからこそ、成長が止まらない会社は「失敗を尊ぶ」精神が全面に出ているのではないでしょうか。「やってみなはれ」が最高の事例でしょうが、他にも、例えばユニクロでは「失敗を恐れるな」というと怒られるそうです。何故なら、

恐れているということは失敗確率<成功確率だと思ってるということ。違う。失敗するのが当たり前なんだから、恐れるわけがない

ということだそうで、何と素晴らしい風土でしょうか。

このように「失敗していいんだよ」「失敗するのが当たり前なんだよ」という風土の後押しがあって初めて、社会に生きる人間は自分の失敗を語るものです。

私は、「失敗は希望」が社内標語になる日を目指し、啓蒙活動を続けていきたいと思っています。

社内情報をググれるように

しかし、標語にするだけでは足りません。「失敗を隠したくならない仕組み作り」も同時に必要です。

組織が大きくなればなるほど、「隠匿体質」は必ず蔓延ります。レイヤーが増えると各所で情報が溜まり、情報の非対称性で権威を生もうとする人・組織が必ず現れます。

これは、ITが無かりし頃に情報を効率的に共有する目的で生み出された「トーナメント式の組織図」を使い続けていることによるものです。

ですが、ITと情報は、全てを飛び越えます。

それは、我々が日々ググることで世界中の叡智(しょうもない情報やフェイクニュースも)を得ていることからも自明です。

ではなぜ、「社内の情報はググれない」のでしょうか?

インサイダー情報があるから?違います。先ほど出てきた「情報の非対称性を使って権威を生もうとする人・組織」のせいです。

こちらの記事でも、星野代表は「これまで持っていた情報を独占出来なくなる中間管理職がフラット化の妨げだった」と語っています。自分は良いように案件のことを説明しているのに、担当者が「本案件の失敗の本質」なんて記事を書かれたら困るわけです。

そのような人の声に耳を傾けず、社内情報が全てググれる世界を作ること。そして、成功事例も失敗事例も等しく共有される世界線に辿り着くこと。これが私の目標です。

なお、Netflix、サイボウズ、星野リゾート、成長し続けている会社は皆「情報全開示」ですが、これは「成功事例」を真似しているのではなく、各社の「失敗事例」から学びを得ています。詳しくは各書籍に譲ります。

本シリーズのおわりに

いつもは3000字/日記以内に終わらせているのですが、今回ははみ出ます。お許しください。

やっと書き終わりました。投資審査部隊への異動から数えると、M&Aの世界に入って約9年が経ちます。素晴らしい諸先輩方はもっと遥かに長い経験をお持ちであり、私のような若輩者が何か偉そうに書けるとも思っていませんでした。

でも、「ブラジルの奥地、ウクライナの外れの会社を少人数で買収し、自身で乗り込み、現地の仲間と苦楽を共に困難を乗り越えた」という経験は、「深さ」では負けていないのではないかと思い、私の学びを極力一般化してお届けして参りました.

いかがでしたでしょうか.面白いな、役に立ったな、暇潰しになったな、、、何か少しでも、読者の方に知識や幸せをお渡し出来ていたら、そんなに嬉しいことはありません.

次回以降、何を書いていくかは全く決まっておりませんが、引き続き細田薫に関心を持っていただけましたら幸いです.

では、素敵な日々をお過ごしください!!

細田 薫






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