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枯 れ 花

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悲しみは 涙より多く
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未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

僕は失明宣言を受けて
失う全部を 失う前に
ポータブルのテープレコーダーに
話し閉じ込めてしまう事を思い付いた

長く歩いて 吹き込んだのは
つぎの様な事だった

海は海の様に広がり
木々は木々の様にそびえ
光は光の様に射し

最後に吹き込んだのは…

闇は闇の様に覆った

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

サイドミラーの中
静かな分離帯で転倒するジプシーの女の子を見た

他の景色と一緒に
時速 七十四キロメートルで吹っ飛んでいった

僕は どうしようもなく独りだと
悲しくなったんだけれど…

そう云えば 食パンを一斤
買いに来ていたんだった

あヽそうか 僕は幸せなんだ

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

ねぇ この世界に 運命があるとして
それは つまり こう云うことだろう

僕と君は まるで…

まるで漫画の様な
まるでドラマの様な

まるで舞台劇の様な
まるで映画の様な

まるで民謡の様な
まるで小説の様な

そんなエトセトラ

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

花火の枯れた後の匂いが好きだ

ふと何かを想い出しそうになって
何も想い出せないのに

涙腺だけが 懐かしい何かを見て
少しだけ体温より 温かくなる様な
そんな具合いが 酷く愛おしい

花火の枯れた後の匂いが好きだ

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

あヽ 僕たちは いつも いつも
いつも簡単に落ち込む

そんな時に
説教を聞かせる奴も
同情を聞かせる奴も
元気づけ 励ます優しい奴も
僕たちには要らんのだ

いつも 互いに
本当に馬鹿げた無神経な世間話しをして
いつも通り笑って
一切合切 無かった事にしてしまう
そんなふうがいい

世界が 拗れて 拗れて 拗れても
僕たちはシンプルに居よう
物干し竿の様にシンプルで居よう

明日も 明後日も こ

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未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

僕の身長を測った彼は 棺桶屋である

貴方は幸せですよ

あヽきっと そうだろう

顔の思い出せない 友人の葬儀があった日で
焼き場の煙突から
煙が軽く昇ってゆくのが見えた

僕もあれになりたい

どうぞ あたしゃ商売で

あヽやはり想い出は 地下に深い

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

鳥の話しを聞いたんだ 昨日

羽ばたく為に 胸の筋肉は強く厚く
全体の体重を下げる為に 足は細くなっていて

あヽなんだ
そこにも自由は無いじゃないか

仕方ないから 風船を買うよ
風船をたくさん買うよ 仕方ないから

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

発狂したい願望ってある

僕はたった一人でも
たった一人でなくても構わない

あの日 賢志くんが
十三段の階段の頂上で言ってたじゃないか

ギロチンは いつも上から下だが
奇跡の刃が下から上へと走らせたって
一瞬も寿命は変わらない

あヽ正に 正しく その通りだ

最期の数秒か 数十秒に
夢を見れるか 違うかなんて
なんて些細な問題だ

あヽ発狂したら絵描きになろう
カンバスは僕の心くらい広いやつ

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未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

賢志くんは旅に出るのだと言って
大きな鞄を持って 歩き始めた

その重さは尋常ならざる様子で
玄関から 少しも離れない所で
賢志くんは力尽きた

すると賢志くんは鞄から
大変 立派な安楽椅子を取り出し
腰掛けて言った

あヽこの椅子を持って来て 本当によかった
そうでなければ
僕は絶望していたかも知れない

薄っぺらになった鞄を
賢志くんは ひょいと掴み
膝掛けに代えた

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

忘れること
そのこと以外の事こそが
僕を抱いて眠る
僕を抱いて眠る
僕を抱いて眠る

あヽいつの今も
本能と理性と他の 忘れること
そのこと以外の事こそが
僕を抱いて眠る

愛も希望も 夢も情も
サキソフォンの調も
他も

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

時代を彩るのは 熱帯魚なんだと
交差点を渡りながら
ふと気付いたのは 僕の事だろう

味気ない日常の中で
誰かに話したかった 形の悪い想い出と
夜のベンチに座った 顔の思い出せない僕と僕達

いつもそうだった
注釈や説明や傍線やルビを好んで
本当は そうだと 誰も言っていないのに

言われた気になっていることを信じた

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

僕は君のことをタンポポの様だと言った
タンポポの様に 可愛いと言った

タンポポと云うのは
時折 パセリの様な顔をして
皿の端に乗っているけど
一応 食えるらしいけど

食ったことはない

君は帰り際
明日は風邪を引くから会えないは と言った

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

この頃の時計の秒針は
とてもスムーズに回る様で

だから とても静かな夜で

僕は古い夜を知らないけれど
古い夜も こんな感じだったんだと思う

それから カチコチと秒針の鳴る夜があって
カチコチと鳴らない時計が生まれて

僕は いずれ 深く 眠る

未熟な僕が描く点線

未熟な僕が描く点線

心当たりを尋ねた彼の見せた写真は夕陽であった

これ この色を長く
本当に長く探したのだと言った

すまないが 僕が知るアカは
赤と朱と紅しかないと答えると
彼はうなだれ とぼとぼ と去った

後ろ姿に影が長い

夕陽を血の色に例えるのは
僕にさえ嘘だ