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小説 第二章◇宇宙時代への扉・8


 

《未知の生命体とタイムライン》


 彼は話し終えると、しばらく俺の側から離れなかった。まだ何か言いたい事があるのかも知れない。

「白濱様。あなたは国に帰りたいですか?」

「もちろんです。家族が待っていますし……」

「そうですよね。当たり前の事を聞いてしまい申し訳ありません。もし、お帰りになるのなら……」

彼は少し身体の向きを変えて、小さく首を右に向けた。やはり、何かあるんだ。

右奥からは特に人の気配は感じない。でも、どこかで聞こえているのかもしれない。

知られていいものとそうでないものの線引きは誰がしているんだろう?

彼は小さな声で「早い方がいい。あなたは誰かを迎えにきたのですよね。でも一緒に帰るのは難しいでしょう。ただ、あなたは神から愛されている。もしかして、奇跡が起こるかもしれません」


 その時だった。

またあの音が鳴り響いた。

「ご無事を祈っております!」

彼の声は音にかき消された。

さっきよりも長く、そして音も大きい。誰かが彼を連れていくのかと緊張感が走ったが、右奥からは誰も現れない。

「はい、はい……」

彼は腕に巻かれたもので誰かと話をしている。

「宇宙船が隣の国に不時着し、首相たちは森の中で救助された模様です。ただ、まだ情報は錯綜しているようで……あっ、大佐」

「かまわん。話がすんでからでよい」

「今、終わりました」

「そうか。では、君は出て行ってくれ。彼に話がある」


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 大佐って一体……?!

ここまで初めての人たちにたくさん会ってきたが、一番緊張する。

大佐の側には三人の制服を着た男性が立っていた。あれ?この人たちは防護服をきていない。

「君たちもだ。下がりなさい」

彼らは敬礼をすると、後ろを向きまっすぐ右奥に歩いて行った。

「すまないね。まぁ、リラックスしてくれたまえ。わたしの名はアレン、よろしく」

「あっ……」

彼は笑って「わたしには触れて大丈夫だよ」と言った。

「よろしくお願いします」

「ここはどうかな?快適かい?」

「はい、皆さんよくしてくださいます」

「それはよかった。帰国した時に、ぜひそう言ってくれたまえ。……いや、冗談だよ。ちょっと待ってくれ」

彼は胸ポケットから小さなリモコンのような物を取り出しウィンクするとリモコンをまたしまった。

「ここは筒抜けだからね。自由がない。今、回線を切った。わたしと君の話は誰にも聞かれない」

緊張が走る。

「さっき聞いたね。首相たちを乗せた飛行機……いや宇宙船が不時着したと」

「はい」

「どう思う?」

なぜ俺に聞くのだろう?

「君は誰かとコンタクト取れるようだ」

「コンタクト?」

「君のエネルギーレベルが時々測定不能になる。わたし達の研究では、そのような人間は未知の生命体とコンタクトが取れるようなんだ」

何を言っているんだ?俺はどう答えたらいいのかわからなかった。

「あのね……」


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 並木さんはダンさんに呼ばれてキューブのあるこの部屋から出て行ったままだ。

「もしかすると、彼戻って来ないかもよ!」

いつも突然現れる。

「びっくりした?いつも彼に言われるの。もう少し気配を感じさせてくれって。なんでだろう?こんな髪の色してんのに目立たないかなぁ?」

彼女はいつも笑っている。

「けっこう気に入ってるの、赤毛」

「とてもお似合いです」

「ありがとう!!そうそう、今日、大佐が……いや、イケメンくんが来てるの!わたしお気に入りなんだっ。どこの組織の人なんだろう?わたしみたいなのには全然興味持ってもらえなさそうだけどね」

「そのイケメンくんって何しに空港へ?」

「さぁね、わからない。まっ、わたしに会いに来た訳じゃないってことはよくわかるんだけど。冗談はこのくらいにして……あなたに言っておかなければいけない事があるの」

彼女は例の水を飲みながらわたしのキューブの中に「お邪魔するね!」と入ってきた。

「あんまり情報入ってこないって言ったでしょ?でも、一つ、いい情報が入ってきたの」

「よかったですね」

私も足元に置いていた水を飲んだ。彼女からは石鹸の香りがした。

「あのね、このキューブの中の会話は聞こえないみたい。だからここで話すわね」

彼女の声のトーンが変わった。

「彼らはあなたを迎えに来た彼を本国に帰らせるつもりはないらしいの。ってことは……あなたも帰れない」

「……」

「いい?わたしは何の権限もないけど、わたしの仲のいい職員がもしかするとパスワードを教えてくれるかもしれない。でも、それはかなりリスクがある。だから簡単じゃない」

彼女は私の方をじっと見て話を続ける。

「今話したイケメンくんがキーだと思うの。たぶんね、彼、あなたを迎えに来た男性と接触してる。彼がその男性をどう扱うかであなたが帰国出来るかが決まるみたい」

「私はともかく、白濱さんの息子さんはどうか助けてあげて下さい。彼だけでも帰国させてあげてください」

「あなたも帰らなくちゃ」

突然、彼女はわたしをハグした。

「ここの部屋、もう一つ扉があるの。この鍵、渡しておく。わたしは家に帰れたら彼に結婚してって言うつもり。それで職員は辞める。だから、心配しないでこれ使って!」

鍵は小さな平たい棒のようなものだった。

「扉の前に立つと光が見えるから、見えてる間にその光をこの棒でなぞるの」

「この空港は誰が作ったんですか?不思議な作りですよね……」

「この飛行場って、もともと宇宙船の発着所として作られたらしいの。隣のキューブの彼はここの設計に携わっていたみたい。でも、その時は〝この国で作った宇宙船〟の発着所としてだったわけ。わかる?でも、まさかよ!本当の宇宙船が来ちゃったわけ」


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


「NAMIKIさん。不時着した宇宙船はかなりの宇宙光を帯びていて、誰も近づく事が出来ないのです。首相たちの安否確認も出来ない状況です。各国の政府関係者はかなり憤っています。どうしたらよいものか……」

「あの、お言葉ですが。あなたは本当の事を言っていませんね」

「え……」

「あの宇宙船は不時着するとは思えません。物質的なものではありませんから。誰も宇宙船を見ていません」

「お見せします。こちらが……」

「それは私が作った宇宙船です。この空港の地下に置いてあります。アルバ国際宇宙空港の映像とわたしの作った宇宙船を重ね合わせて放送していたのでしょう。自分で作ったものですからわかりますよ」

「あっ……あぁ……」

「あなた方が思っているような存在ではないようですよ。わたしもコンタクトを取った事のない宇宙存在です。あなた方は何を恐れているのですか?」

「……」

「大丈夫です。彼らは友好的な存在です。首相たちはどこにいらっしゃるのですか?」

「まだkasaru国に……この国の信用問題になります!誰がこんな話を信用しますか?信じるわけないでしょう?音がして、光が見えて、首相たちが消えた。なぜか、我が国のこの空港の名前が出てしまった。誰がそんな事を?」

それに、あの光を浴びた人間は何か声が聞こえるとか、金属が溶けるとか、不可解な事が次々と報告される。首相たちはkasaru国というどこにあるのかないのかわからない国に連れて行かれた。わたし達職員はどうしたら……」

「そのままお話すればよいのです。宇宙時代の幕開けなんですよ。誰もがわからない事だらけなのは当たり前です。あなただけではありません」

「……」

「わたしも協力します。本当の事を話しましょう。そして、全世界で話し合えばよいのです」

「そんな事……あなたは何もわかっていない!あの未知の技術はどの国も欲しいはずだ。我が国の政府が手放す訳ない」

「本気で言われているのですか?」

「お前に何がわかるんだ!!」

「あの周波数帯は機械で作れるものではないのです。おそらくあの宇宙船を〝操縦している〟存在はとても精神性が高いのです。あなたが一番知っている言葉で言います」

「なんだ!」

「愛ですよ」


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 大佐は俺の隣に座り、スーツのボタンを外した。

「すまない、スーツは苦手でね。堅苦しいのは苦手なんだ。大佐ではなくアレンに戻っていいかな?」

彼の雰囲気が急に柔らかくなった。

「僕はサッカー選手になりたくて、でも途中で挫折した。周りがうまいやつらばかりでね。それで、高校を卒業してから少しバイトしていたんだけど、すぐに飽きて家にずっといた。


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 親は寛大でね、特にそんな僕に何も言わなかった。ゲームしたりして過ごしてて。

でも、一つだけ。任されていた事があって、それだけはしなさいと言われて」

「何だったんですか?」

「ポストの中身を取ってくる……それだけ。たぶん、一日に一回は外に出るきっかけを与えてくれてたんだと思う。庭が広くてね。ポストまで距離がある。そこまで行って、中身を確認して、あったら取ってきてリビングのテーブルに置いて、自分の部屋に戻る。そんな生活を一年半くらいしてた。

ある日、ポストにバイト募集のチラシが入っていて。なんとなく見たんだ。めちゃくちゃ時給が良くて、高卒からって書いてあってね。なぜかピンときて、その日に電話して、翌日に面接に行った。あっ、水もらっていいかな?」

俺は「どうぞ」と彼に水を渡した。

「知ってる?この水、宇宙人が持ってきたらしいよ」

「そうなんですか?」

彼は笑って水を半分くらい一気に飲んだ。

「それで一週間後にはバイトがスタートした。仕事内容はある施設の警備員。警備なんてしたことなかったけど、特に問題なかった。僕よりも年上の人がほとんどで、その人たちはベテランだったから、僕は指示された通り動くだけ。かなり簡単なバイトでね。楽だった」


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 そして、残りの水も全て飲み終え、俺の方を向いた。

「この先の事を君が信じるかどうかはわからない。でも、信じて欲しい。さっき防護服を来た職員が君に話していたことは事実ではない」

「宇宙船が不時着した事ですか?」

「そうだよ。誰かわからないが、混乱させようとしている。あれは違う。不時着などしていない。宇宙船は消えたままだ。

でね、君にお願いがある」

彼の目はどこか遠くを見つめていた。コンクリートの部屋は静まり返っている。心臓の音がドクドクと自分の中に響き渡る。


「僕をもとのタイムラインに戻して欲しいんだ……」


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 僕はもうろうとした状態で天井を眺めていた。
うっすらと天井が見えたと思うと、ジェットコースターのように視界が動き、また止まる。
 「もう1時間もすれば戻るだろう。」
遠くから男性の声がする。機械音ではなさそうだ。
僕はどのぐらいここで意識を失っていたのだろう?ここはどこなのか?空港内なのかすら今の僕にはわかりようがなかった。
指に少し力を入れてみる。指が曲がる。大丈夫そうだ、体の感覚はある。

 「どうだ?」
「はい。やはり未知の生命体かと。あの時間、空港職員がどこにいたのかは聞いてあります。」
「全員か?」
「はい。だれも、外には出ていません。」
「そうか......。彼が目覚めたら、どんな状況だったかをすべて聞いておくように。あと、医療チームに連絡を。またこのようなことが起きる可能性は十分ある。解毒剤を確保しておくように。」
「わかりました。」

 未知の生命体?
 解毒剤......

「うわっ.....」
「まだ無理はしないで。もう少しで収まる。」
またジェットコースターに乗っているような感覚に襲われた。すぐに収まるが、この感覚はなれない。
もうしばらくおとなしくしているしかないようだ。


 その時だった。

《ごめんなさい、悪気はなかったのよ。》
彼女の声だ。
《君は誰なの?》
《いまは言えない、だけど、必ずあなたには話すわ。》
《僕のこの状況は?君がしたの?》
《まだ、あなたたちに合わせるのが難しいのよ。でも、悪く思わないで。あなたの味方よ。会いたい人がいるんでしょ?でも、きっと会えないわ。》
《どうして?それじゃ、困るんだよ。》
《だから、あなたを助けようと......》

 「セキュリティーシステムが誤作動を起こしている。急いで原因を調べろ!」
「また、あの周波数が記録されています。」
「いるんだな、近くに。」
「おそらく、そう思われます。」

《ずっとはいられないわ。私の波動を消すように彼らは仕掛けるの。》
《はやく逃げて!!》
《透明な部屋よ、そこにあなたが探している人がいる。でも時間がない......聞こえる?》
《透明な部屋.....》
《そう、そこに入ると出たくなくなる。研究...たい..しょ......》
《大丈夫!!とにかく逃げて!!》
《あなただけでも帰してあ......たい......》


急に部屋が真っ暗になった。バチン!!と2度にわたってブレーカーが落ちたような大きな音がした。僕はまだ動けない。目をなんとか開けようとしたが、痙攣してうまく開かない。
彼女は一体何者なんだ?
これがテレパシーっていうものなのだろうか?頭に彼女の声がはっきりと響いた。会話をしていた。違和感はなかった。普通に会話している時とかわらない......というよりも、不思議と一体感があった。


 部屋に明かりがついたのは10分ほどしてからだった。と言っても、時計を見ていたわけではないから、正確にはよくわからない。
おそらくこの空間には僕しかいないように感じる。人の気配がしない。
目は少し開くようになった。あの感覚もほとんどなくなってきていた。上半身を起こし、周りを見た。


......ここは?

どこかで見たことのある、そう映画だ。映画のセットでありそうだ。

 僕はここがどこなのかまったく想像つかなかった。
今まで生きてきた記憶をたどっていけば、たどり着くのは大きな宇宙船。

......まさかね。

 大きな透明なガラスのような板が何枚もある。
板の上と下がかすかに発光している。
以前、旅番組で見たストーンサークルみたいだ。巨大な石が円状に置かれていた。その石の並びにそっくりだ。
3メートル以上もある透明な板は円状に置かれていた。いや、正確に言えば”浮かんでいる。”
僕はその円の真ん中に横になって”浮かんでいた”らしい。


 人はびっくりすると言葉もでなくなる。しかし、この光景は独り占めするにはもったいないように感じた。
しかし、誰かに伝えるにしても信じてもらえないだろう。そのぐらいの衝撃がここにはあった。
そしてその光景は神々しくもあった。


 

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