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インタビュー用のノートに、小さく書いて力にしていた歌詞は。②


知識のなさに怯えて、ミュージシャンのインタビューで縮こまってしまわないように。できるだけ、素直な気持ちを信じて全開放して向き合えるように。
フィッシュマンズの「MY LIFE」のほかにもうひとつ、お守りのように、ノートの隅に書き加えた歌詞があった。


難解なことばを好んで使う人には、持てない力。

真心ブラザーズは、THEが付いていたときから好きだった。倉持くんの歌い方というのは、かなりの個性だ。ぶっきらぼうなような、がなるような、あの声で簡潔に歌うからこそ、響いてくるものがある。ほかの人が歌っても、あんな良さは出ない。カラオケで簡単に他人に歌われてしまうような曲じゃない。逆に一般的な名曲たるものを倉持くんが歌っても、全く別の代物になるだろう。自分以外の何者でもない。何者にもなれないし、なろうともしてない。圧倒的オリジナル。俺の代表、俺。清々しい。

「ねじれの位置」とか「あさっての方向」とか、初期のアルバムのタイトルもいちいち好みだった。奇をてらわずカッコつけず。誰もにわかることば。誰もが知ってはいること。けれど、新たな響きを以て、それは斜めの角度から刺してくる。(ドミコが好きな理由と同じく)

簡単なものほど、生み出すことや表現することは難しい。絵本などに代表されるように。民生さんのシンプル佳曲「マシマロ」を、素人が歌うと事故になるように。過去の取材で民生さんは、「マシマロ」を経て、簡単なものほど難しいということがわかるまでに10年かかったと言っていた。簡単であることは、単純や安易とは違うのだ。
倉持くんには知性がある。日常のあれやこれやを、誰もにわかる解釈や哲学へと持ち上げる、コロンブスのたまご的な圧倒的な知性が。難解な言葉を好んで使う人には、持ち得ない力が。

尿管結石を歌う。

だから、俺のチン×から石が出た!なんて身も蓋もない尿管結石の歌(「STONE」)を歌っても、チン×!石!チン×!石!なんてコール&レスポンスを繰り広げても、下品へ転がり落ちない(ライブで初めて目の当たりにしたときは唖然としたが)。結果、かっこいいロックンロールとして鳴っているし、尿管結石の経験をあっさりとひとつの悟りにも押し上げている。ただただ清々しい。他と一線を画しすぎだ。これを知性と言わず何という。

そんな彼らの作品群のなかで、気に入っているのが1998年の「I Will Survive」。個人的な印象としては、これは桜井アルバムだと感じている。いつもゆるい笑顔を浮かべて、荒ぶる繊細な倉持くんを一歩後ろから見守っているような桜井さん。その柔らかな笑顔どおりの曲が、バランスよく並んでいる。このアルバムのハイライトは間違いなく「ENDLESS SUMMER NUDE」だろうが、その周りを、佳曲が穏やかに包んでいる。「Sound of Love」なんて、そのメロディがあたたかすぎて涙が出てきそうだ(ちなみに「Sound of Love」の編曲には、元フィッシュマンズのハカセの名が。つながっている)。
ポンと背中を押してくれるような、ふくふくと心満たしてくれるような、悲しみに沈む手もやさしくそっとつなぎ上げてくれるような、そんなすてきな曲が次々に現れる。

そのアルバムの最後を飾るのが、「RELAX~OPEN~ENJOY」だ。

RELAX~OPEN~ENJOY うまくいくさ
RELAX~OPEN~ENJOY 自分のために
RELAX~OPEN~ENJOY Take it easy

~「RELAX~OPEN~ENJOY」真心ブラザーズ (1998)

この曲もやはり、最初は心地よく耳に流し込んでいるだけだった。
そこに、インタビューに怯えないと決めたあと、この歌詞がことばとして、風に乗って、心に届いてきた。率直な倉持くんのそのまま。タイトルそのままの解答がそこにあった。
まずはリラックス。そうすれば、自然とオープンになる。そして、エンジョイできる。なんてわかりやすい。なんて明解(明快)。

僕の言葉は風に乗り 世界にばらまく
僕の言葉よ風に乗り 君に届け

~「RELAX~OPEN~ENJOY」真心ブラザーズ (1998)

難しい言葉や比喩は、知識の武装と同じかもしれないと思った。武装なんて要らない。そのまんまで、心を解けば、開放される。開放すれば、楽しくなる。なんて具体的!

例えば日本では、緊張している人を励まそうとするとき、がんばって!と言いがちらしい。が。がんばって、って、がんばるってどうやって?? う、うん、と答えるしかなくて、でも、気持ちはほぐれない。
でも海外ではそういうとき、深呼吸して!などと言うらしい。なるほど!具体的!落ち着く!うん、本領発揮できそうだ。

「RELAX~OPEN~ENJOY」はまさに後者で。一言ずつつぶやけば、武装にたよらず、素直なそのままでいけそうだ。こっちが楽しんでないのに、あっちが楽しいわけがないからね。ライブでやたら、盛り上がってるかい?!とか投げかけてくる輩がいるが、そう聞く前にあんたらが心の底から楽しんでるステージを見せてくれれば、こっちだって無条件に楽しくなるんだからといつも思う。そーゆーもんだ。

そして、奇しくも。フィッシュマンズの「MY LIFE」にも、真心の「RELAX~OPEN~ENJOY」にも “風” が吹いている。


編集部に入社した当時、かなり怖い部長がいた。バカとは話をしたくない、と提出した原稿をクシャと丸めて頭にぶつけられたことがある。ドラマみたい!と思ったのを覚えている。傷つかなかったのは、部長の言うことがよく理解できたからだ。そりゃそうだよな、と。厳しくも説得力のある部長のことばを、聞くことがある意味楽しみだった。こっぴどく叱られてるときも、どんなことばを選んでくるのか興味があった。そんな部長は、やはり厳しくも愛をもって部下を見ていてくれたのだと改めて感じたのは、どうしても辛いときはサボればいい、と言われたときだ。

編集部入社当初、わたしは希望の編集課ではなく営業課配属だった。けれど、とにかく編集部自体に潜り込めば、いつか編集課に行けるチャンスがくるだろうと、いつかミュージシャンにインタビューできるときが訪れるだろうと、とにかく今は潜り込むことが先決だ!と思っていたのだが。予想以上に営業はわたしには辛かった。何度も心が折れた。辞めることも過った。営業に行くふりをして、川辺で悶々としていたりした。ある日、そんな川辺を、部長の車が通り過ぎた。明らかに、目が合った。明らかに、サボっているとわかるわたしと。会社には帰りづらかった。いろんな言い訳を用意した。重い扉を開けて帰社したら、部長は何も言ってこなかった。川辺のわたしなんか見ていなかったように。

翌日の朝礼で、部長はみんなに言った。辛いときには、サボればいい。辛くてどうしようもない状態で営業に行ったところで、成果になんてならない。そんな辛そうな人が来ても、話聞こうなんて思わない。そんなときは、川原にでも寝そべってればいい。風が気持ちいいなって思えるようになるまで、そこで寝てればいい。気持ちいいなと思えるようになったら、立ち上がって行けばいい。だけど、俺には見つからないようにうまくやれよ、と。

これも、先の「がんばって」といっしょだ。例えば、元気になったら行けばいい、と言われても、元気って??となる。

風が気持ちいいと感じるかどうか。わかりやすい。明解なことばに救われる。部長のことばにも。倉持くんのことばにも。

かくして、インタビューに臨むわたしのメモノートには、その3単語が書き添えられた。
「RELAX~OPEN~ENJOY!」

うまく行かない日はもちろんそれでもあったけれど。そんなときは、ノートの隅をちらりと見た。
もう知識はいらない。RELAX、OPEN、ENJOY。
わたしには、魔法のことばがついている。

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