ラザニ屋7

「ラザニア」を食べに、高円寺に。

幸福な日だった。

そんな感想を抱く日はほとんどないけど、この日はまさに「幸福」という言葉がぴったりに思えた。

阿佐ヶ谷は、初上陸。

あぁ、ここは好みの街だ。と、南阿佐ヶ谷の駅の階段を上がり、街を一目見た瞬間に思った。

もともとは違うお店に行こうとしたが、わけあって、「ラザニ屋」というお店でランチをすることになった。名前から推測できるように、ラザニアの専門店だ。

この決断が、結果的にいい方に転ぶことは、このときのぼくらはまだ知らない。

南阿佐ヶ谷の駅から、阿佐ヶ谷駅まで歩き、そこから高円寺駅のほうに向う。人通りのない飲食街を抜けると、そこからは閑静な住宅街。本当にこの先にお店があるのかと思うくらい、静かだった。飲食店がありそうな気配はまるでない。

工事現場で汗水流して働いている人、地元民であろうラフな格好で歩く人とすれ違う。通り道にあった中学校からは楽しげな声が聞こえた。これでもかってくらい日常が、春の風とともに漂っている。

南阿佐ヶ谷からずいぶんと遠回りして、ようやく「ラザニ屋」に着いた(実際は高円寺が最寄り駅です)

カウンター席のみのちいさなお店。テイクアウトもやっているらしい。

とりあえす定番の「ラザニ屋のラザニア(税抜き 1320円)」を頼む。

店内はかわいらしくて、ゆったりしていて、タイルのカウンターがおしゃれである。内装はもちろん、調理器具、小物、流れる音楽に至るまでこだわりが感じられる。

スープとサラダ(めちゃめちゃおいしい)を食したのち、オーブンから取り出された熱々のラザニアが目の前に置かれた。

ぐつぐつと沸き立つチーズとベシャメルソースの海。それだけでヤッホーイという感じである。

お皿の中央にラザニアとたぶんトマトがミルフィーユされ、表面にミートソースがかかっている。

本当においしかった。

おいしいものは食べるだけで満足感を得られる。食って素晴らしい。

店主は気さくな方で、ラザニア専門店を始めるようになったきっかけや、よく行くお店についてざっくばらんに話してくれた。

その流れで、ぼくはあまり食に興味がなかったという話をして、その理由を聞かれた。けど咄嗟のことで、「なんでだっけ?」とてんぱってしまった。

「えっと・・・コンビニとかで普通に満足してたんですけど、ある日外食したとき、「うまい」ってなって、やっぱプロは違うなと。それで、いろんなお店を巡るようになったんです」

と、答えた。なんだか違うなと思ったけど、そのまま会話は違う方に行ってしまった。

ラザニアも絶品なうえに、会話も楽しめて、十分に満足してお店を出た。

歩いている最中も、食に興味をもった理由をずっと考えていた。「古書コンコ堂」の棚を眺めていたとき、あっと急に思い出した。

食べ物は毎日かならず口にする。毎日自分の体に入っていくものに無関心ではもったいない。そう思ったのがきっかけだった。

「ラザニ屋」の店主がこのブログを見ている可能性はほぼないが、本当はこういうことが言いたかった。

すっきりした。初心を思い出せてよかった。

そのあと、「gion」という喫茶店に行き、レモンティーを飲んだ。レトロで、なんだか懐かしい空間。

南阿佐ヶ谷駅に向かって歩きながら、なぜだか「今日はいい日だった」と思った。

こんなふうに思える日が増えればいいなと思った。

確固たる理由はわからないけど、「幸福」と思えたいまのこの気持ちを大事にしたい。




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