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彩ふ読書会の参加録~12/23大阪会場・第2部~


◆はじめに

 12月23日(土)の昼、大阪で開催された彩ふ読書会の第2部・推し本披露会に参加した。

 彩ふ(いろう)読書会は、2017年11月に大阪で始まった読書会である。その後東京・京都・神戸・横浜と徐々に開催地を増やしていったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて休止を余儀なくされた。2022年の秋に再開し、現在は大阪と東京で毎月開催されているほか、不定期ではあるが京都でも開催されている。

 休止の前後を通して彩ふ読書会を貫いているのは、「本が好きな方の居場所作り」というコンセプトである。初めての参加でもスッと入って行けるような雰囲気、人の話を遮らず耳を傾ける空気、そして話し合いの合間に漏れる談笑などが、読書会を特徴づけている。

 僕は2018年の夏に初めて彩ふ読書会に参加し、コロナで休止になるまでは毎月のように顔を出す常連組だった。再開後はなかなか足を運べずにいたが、今年の6月に3年以上ぶりに参加し、続けて9月にも参加した。今回は再開後3度目の参加だった。ちなみに、参加が3カ月おきになっているのは単なる偶然である。

 大阪での読書会は3部構成でやるのが恒例になっている。この日は、午前中に第1部・ミステリー本限定推し本披露会、昼に第2部・推し本披露会、夕方に第3部・朝井リョウさんの『スター』を取り上げた課題本読書会が開かれた。僕はこのうち、第2部の推し本披露会に参加した。

 会場は新大阪駅から歩いて10分ほどのところにある、マンションの一室を使った会議室だった。開け放たれた扉をくぐると、彩ふ読書会の会場には珍しく靴を脱いで上がる仕様になっていた。部屋は受付と島2つでいっぱいというほどの広さで、誰かが声を発したらすぐに行き渡るように思われた。

 参加者は全部で12名で、6名ずつのグループに分かれていた。僕はBグループに案内された。男性3名・女性3名という構成で、参加歴や年齢層も様々な、バランスの良いグループという印象であった。

 読書会は全体ガイダンスの後、グループに分かれて推し本紹介を行い、最後にグループごとに本の写真を撮影するという流れだった。推し本紹介は1人1冊ずつで、質疑応答含めて1人10分程度という持ち時間であった。それでは、Bグループで紹介された6冊の本を順番に紹介していこう。

◆1.『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(阿佐ヶ谷姉妹)

 大阪会場のサポーターで、グループの進行役を務めてくださった女性からの推し本。お笑いコンビ・阿佐ヶ谷姉妹の2人が、文字通り阿佐ヶ谷のアパートで2人暮らしを送る日々を綴ったエッセイです。ドラマチックな話はないので内容的には地味ですが、よく似た顔立ち・よく似た雰囲気の2人でも性格には違いが現れる、それでもやっぱり似ていると思う部分もあって……というところが、読んでいて楽しかったという話でした。

 僕も今年この本を読んだのですが、2人がそれぞれ相手への不満を語るパートが多く、「結構なこと言ってるなあ」と思った覚えがありました。その話をすると、紹介した方からは「確かにそうですね」という頷きがあり、続いて、

「でもギスギスした雰囲気にはならないというか、お互いに信頼し合っているからこそ不満も言い合える部分があるような感じで、読んでいて嫌な気分にはならなかったですね」

 という答えが返ってきました。今度は僕が「確かにそうだなあ」と頷く番でした。この本は、何気ない日常に潜むほっこりとした笑いを求めている方向けの本なのかなと、改めて思います。

 紹介後の話し合いは、「この本に出てくるアパート知ってるよ!」という発言なども飛び交い、大いに盛り上がっていました。

◆2.『ラブカは静かに弓を持つ』(安壇美緒)

 ミステリーを中心に本を読んでいるという男性からの推し本。参加数回目にして初めてミステリー以外の小説を持ってきたとのことでした。

 この作品は、ヤマハ音楽教室とJASRACの間で起きた、レッスンでの演奏における著作権使用料を巡る裁判が元ネタになっています。この事件の際、JASRACの職員がヤマハ音楽教室に生徒として潜入し、楽曲の使用状況を調査するということが起きていたのですが、そこから発想を膨らませて生まれたのがこの小説とのことです。

 現実の事件では、潜入調査をした職員は裁判で証言を行い、自らの職務を全うします。では、小説の方はどうなのか気になるところですが、「それは読んでのお楽しみ」ということで、詳しい紹介はありませんでした。徹底的にネタバレを抑えた紹介に、紹介した方のミステリーファンらしさが窺えました。

 本の内容があまり語られなかったこともあり、紹介後の話し合いでは現実の事件のことが大きな話題となりました。「職員の潜入捜査なんて、それ自体フィクションみたいな話ですよね」という声が上がり、参加者が一斉に頷いていました。

 なお、タイトルに登場する「ラブカ」は深海に生息するサメの名前で、その深く潜るような姿が、「潜入調査員」に重ね合わされているようです。そして、この調査員はチェロの経験がある設定とのことですが、そうなるとタイトルの「弓を持つ」とはどんな意味なのか、気になるところです。

◆3.『蒲生邸事件』(宮部みゆき)

 滋賀県からやってきたという女性からの推し本。宮部みゆきさんが贈る歴史SFミステリー小説です。文春文庫から出ている黄色い背表紙の本のイメージが強いですが、今回紹介されたのは、挿絵のついた〈講談社青い鳥文庫版〉でした。

 主人公は浪人生の尾崎孝史。宿泊先のホテルが火事になり命の危機に晒されるが、とある男性に助けられ一命を取り留める。しかし、その男性に連れられて向かった先は、二・二六事件前夜の東京だった。実際に起きた歴史上の事件、タイムトラベル、辿り着いた先である蒲生邸を取り巻く謎、そして尾崎と蒲生邸の女中との淡い恋——様々な要素が折り重なりながら、物語は展開していきます。

 紹介した方からは、「物語として面白いのはもちろんですが、歴史の教科書の浅い知識しかなかった二・二六事件について詳しく知ることができたのがとても良かったです」という話がありました。別の参加者が付言したところによると、宮部みゆきさんは二・二六事件について専門家とも対談するほどの知見をお持ちのようです。筋書きだけでも興味を魅かれますが、その話を聞くとますます読みたくなるなと、僕は思いました。

 紹介後の話し合いの中では、「この本が児童文庫になってるんですか!」という驚きの声も上がっていました。内容的にはかなり重厚そうですし、主人公は浪人生ですし、確かに小学生はこれを読んでどう感じるのかは、ちょっと想像できないなと思います。

◆4.『ミウラさんの友達』(益田ミリ)

 ワケあって埼玉県からはるばるやって来た女性からの推し本。彩ふ読書会ではしばしば名前が挙がる作家・益田ミリさんのマンガです。

 主人公が友達ロボットを買って来るところから、この作品は始まります。ロボットは3つしか言葉を覚えることができません。そのうち2つはプログラムで決まっており、最後の1つは自由に決めることができます。主人公はその3つの言葉を操るロボットを大切にしますが、次第に「これは自分の求めているものじゃない」「友達じゃない」ということに気が付いていきます——

 紹介した方がこの本を手に取ったのには2つ理由があったと言います。1つは益田ミリさんの作品が好きなこと。もう1つは、その頃大して親しくもないのにヤタラと打ち明け話をしてくる知り合いがいて、「友達って何だろう」というモヤモヤ感を抱えていたことだったそうです。

「この本を読んで何か得たものはありましたか」という参加者からの質問に対し、紹介した方は、「ロボットが使っている3つの言葉は自分もよく使っているもので、だから相手にずっと喋らせてしまうんだと気付いた」と話していました。一方で、「自分はロボットじゃないのに、ずっと打ち明け話をされるのはしんどい」という思いが増したという話もあり、他の参加者は静かに頷いていました。

 1冊の本だけで現実の問題に立ち向かうのは難しいのかもしれません。ただ、紹介した方の心の中を整理するのに、この本はきっと役に立ったにちがいないと、僕は思いました。

◆5.『八本目の槍』(今村翔吾)

 最近続けて参加しており、歴史に関する本を紹介しているという男性からの推し本。石田三成を主人公にした小説です。ただし、石田三成のことをずっと書いているわけではなく、豊臣秀吉の家臣で「賤ケ岳の七本槍」と呼ばれる名将たちが三成とどのように関わってきたかを順に描くことで、石田三成とはどんな人物かを浮かび上がらせるという凝った構成になっています。

 紹介した方曰く、推し所は「石田三成がこれまでにないほどカッコよく描かれているところ」だといいます。また、七本槍の名将は作中において、ある者は優秀な武将として、ある者は戦いで殺戮を繰り広げたトラウマから人を殺せなくなった者として、ある者は過去の武勲にすがって若手に威張り散らす嫌われ者として描かれているそうで、「それぞれ個性的で、かつ現代のサラリーマンが我が身を振り返るうえで刺さるように思う」と話していました。

 戦国時代が舞台の小説・キャラクターが個性豊か・サラリーマンに刺さる内容というキーワードから、僕は以前に読んだ『のぼうの城』という小説を思い出しました。この話は秀吉の関東平定における1つの抵抗戦を描いた作品ですが、同時に「こんな組織だったらいいな」「こんな上司がいたらいいな」というサラリーマンの夢を描いた作品だったように思います。

 そんな話をしていると、「そういう話を聞いていると、歴史小説の見方が変わって、読んでみたくなりました」と言った参加者がいました。やり取りをきっかけに興味の輪が広がるという、読書会の良さを体現するやり取りでした。

◆6.『オリエント急行の殺人』(アガサ・クリスティー)

 ワタクシ・ひじきの推し本。アガサ・クリスティーの作品で、とても名の知られたミステリーです。

 中東からヨーロッパまでを結ぶ豪華列車・オリエント急行の個室で、乗客の男が殺されているのが見つかります。列車は吹雪で足止めされており、外部からの侵入は不可能であることから、犯人は乗客の誰かと断定されます。乗り合わせた名探偵エルキュール・ポアロが捜査に乗り出しますが、乗客の証言を取った結果、犯行が可能だった人物は誰もいなかったことが明らかになります。誰が真実を語り、誰が嘘をついているのか。沈思黙考の末、ポアロは1つの結論に辿り着きます。

 この作品の推し所は、終盤の真相解明シーンがとにかくドラマチックなことです。正直に言うと、乗客の証言が続くシーンは動きが少なく読んでいてしんどいと感じましたが、その先に待っていたラストは衝撃的で、なおかつ鮮やかでした。その中でもクライマックスと呼べるシーンなどは、鳥肌が立つほど感動しました。

 ミステリーファンの男性によると、この作品はあまりにも有名なためにオチが随所でネタバレされており、新鮮な気持ちで読むのが難しいそうです。偶然にも僕はオチを知らずに読んだのですが、そう話すと「とても幸運なことだと思います」と言われました。これに呼応するように「オチを知らないのでネタバレされる前に読みます」という声がちらほら上がっていました。

◆おわりに

 推し本披露会のBグループに登場した6冊の本を紹介してきました。エッセイが1冊、マンガが1冊、残りの4冊はいずれも小説というラインナップで、全体としては文学寄りの回だったように思います。今月これまでに参加した読書会では新書系の紹介が少なくなかっただけに、余計にそう思うのかもしれません。どの本の紹介も、それぞれに推したい気持ちが伝わってくる内容で、「読んでみたい」という気持ちが高まるものでした。

 本当はここで、Aグループで紹介された本の写真を載せられると良かったのですが、うっかり撮り忘れてしまいました。いずれ彩ふ読書会の公式振り返りでアップされると思いますので、それを楽しみにしたいと思います。

 今回参加してみて、改めて、人と直接会って本の話をすることの面白さを感じたように思います。オンライン読書会にはオンラインなりの良さがあるのですが(色んな本を横断的に紹介しやすいなど)、やっぱり対面での読書会にももっと参加したいなと感じました。今年は3ヶ月に1度のペースで彩ふ読書会に来ていましたが、来年はもう少し頻度を上げていこうかなと考え中です。これから来年の抱負を練っていく中で、もう一度考えてみようと思います。

 それでは、今回はこれにて。

(第202回 12月25日)

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