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彩ふ読書会の参加録~8/18大阪会場第1部・推し本披露会~


◆はじめに

 今回は1週間前に参加した彩ふ(いろう)読書会の振り返りを書いていこう。

 読書会の開催日は8月18日(日)、会場は新大阪駅から少し歩いたところにある雑居ビルの中の会議室であった。彩ふ読書会が大阪で開催されるのは、6月末の読書会7周年イベント以来である。僕はこのイベントに続けての参加となった。思えば、彩ふ読書会に連続で顔を出すのは、コロナ禍後の読書会再開以来、初めてのことであった。

 この日の読書会は2部構成で、第1部が「推し本披露会」=参加者がそれぞれ本を持ち寄り紹介しあう会、第2部が「課題本読書会」=指定された課題本を事前に読んでおき感想や考察などを話しあう会であった。僕は第1部の推し本披露会だけ参加したので、この先の振り返りは全て第1部に関するものである。ちなみに、第2部の課題本は、原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』だったそうである。

 第1部の参加者は全部で12名おり、2つのグループに分かれて本の紹介を行った。読書会の進め方は次の通りである。

 ①会の趣旨・流れ・注意事項の説明(全体)
 ②自己紹介(名前・好きな本や作家など。グループ別)
 ③推し本の紹介(質問含め1人7~8分程度。グループ別)
 ④全体発表(本のタイトルのみ全員に紹介)
 ⑤今後のお知らせ(全体)

 この進め方自体はいつも通りであるが、1点普段と異なることがあった。グループ内に進行役がいなかったのである。普段の読書会なら、各グループに常連メンバーからなる進行役がいて、紹介の順番を決めたりタイムキーパーを務めたりするのだが、今回はその役目を任された人がいなかった。これは想像だが、開催日がお盆休みの最終日だったこともあり、常連メンバーが集まらなかったのだと思う。

 ともあれそういうわけで、今回は各グループに進行方法を書いた紙が置かれ、その内容に従って②自己紹介→③推し本の紹介を進めていく、という方法が採られていた。

◆     ◆     ◆

 さてここからは、僕が参加したBグループの本紹介の様子を振り返っていこうと思う。グループのメンバーは男性2名・女性4名の計6名。このうち2名が初参加の方だった。

 推し本の詳細を見ていく前に、こぼれ話を1つ。先に見た通り、この日の読書会は新しいスタイルで進められたわけであるが、ここで僕はちょっとした〈やらかし〉を働いてしまった。

 進行方法を書いた紙は目の前のテーブルに置かれており、そこには「合図があるまでめくらないでください」という、定期テストのような注意書きが書かれていた。いざ合図が出たとき、僕はグループ内の誰より早く紙に手を伸ばした。それは次のような計算からである。

「おそらくこの裏には、『この紙をめくった人から順番に紹介を始めてください』と書いてあるのだろう。今は不定期参加だが、僕だってコロナ禍前は常連メンバーだったのだ。一番目の役、買わせていただこうではないか!」

 果たして紙をめくると、自己紹介や推し本紹介のやり方に加え、紹介の進め方についての説明があった。

「この紙をめくった人の右隣の人から、時計回りに紹介を進めてください」

「すいません、まさかこんなオチだとは思わなかったんです!」と、まだ名前も言わぬうちから、僕は平謝りした。もっとも、そんな大層な問題ではないので、笑って許していただいた。ちなみに、右隣の人も、そのまた右隣の人も初参加の方だったので、紹介はほぼ真向いの位置に座っていて「わた、しは、初、参加じゃ、ないです」と恐る恐る答えた方からスタートすることになった。

 それでは、推し本の詳細を紹介された順番に見ていくことにしよう。

◆1.『ある晴れた夏の朝』(小手鞠るい)

 普段は原田マハさん・朝井リョウさんの作品などをよく読むという女性の推し本。2000年代半ばのアメリカを舞台に、広島・長崎への原爆投下の是非について公開討論する高校生たちを描いた小説です。アメリカが舞台と言っても、登場する高校生たちのバックボーンは様々。主人公のメイは日系アメリカ人ですし、その他の高校生も、中国系だったり、アフリカ系だったり、ユダヤ系だったりします。

 作中では高校生たちの議論を通じて、原爆やアジア太平洋戦争について、様々な視点からの評価が描かれます。日本は単なる戦争の被害者なのか。日本に加害者の側面があるからといって、市民を犠牲にするのは正しいことだったのか。——紹介した方は、これらの問いを通じて、戦争のことを深く考えさせられたと言います。

 アフタートークでも話題になったことですが、この小説のポイントは、アメリカの高校を舞台にしている点でしょう。日本でも毎年8月になると戦争関連の報道が沢山ありますが、その内容は〈戦争によって日本は沢山の被害を受けた。このような悲しい出来事は二度と繰り返してはならない〉というものが殆どです。もちろん、その主張が間違っているわけではありません。

 しかし、先の戦争に他の側面はなかったのか、もっと多面的に戦争を見ると何が言えるのか、という点が十分に顧みられていないというのも確かでしょう。アメリカを舞台にした小説では、日本国内ではタブー化されている側面も照らし出されます。それが読者に、「あなたはどう考えるの?」という問いをもたらす源にもなっているのでしょう。

 グループの他のメンバーからも「内容が気になります」という声が相次いでいました。

◆2.『酒味酒菜』(草野心平)

 普段はマンガや詩集・歌集をよく読むという初参加の女性の推し本。カエルの詩で有名な詩人・草野心平さんによる、食に関するエッセイ集です。

 紹介した方は最初、「草野心平がグルメ本?」と思ったそうですが、草野さんは東京で居酒屋を営んでいたことがあり、料理の腕も確かだったそうです。ちなみに、居酒屋の名前は「火の車」。ユーモアがありますね。

 エッセイの中身からも、草野さんの食通ぶりが窺い知れるといいます。中には殆どレシピを書いただけのような章もあるのだとか。もっとも、この本に登場するのは、今風の映えるグルメではなく、「シブいグルメ」だそうです。まさに昭和の居酒屋風なのでしょう。そのシブさは文章全体にも表れているようで、紹介した方は「気になる話を酒のアテにちょいっとつまみ読みするのが良いと思います」と話していました。

 中には詩人らしい感性の光る描写もあったそうです。紹介の途中、花に関するエッセイの一部が読み上げられました。詳細は忘れてしまいましたが、確かに描写が美しかったと記憶しています。もっとも、そのエッセイの趣旨は〈花をどう調理すると美味しいか〉というもの。紹介した方も読み上げた後で「結局食べちゃうんですけどね」とオチをつけていました。これには他のメンバーも笑っていました。

◆3.『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる)

 伊坂幸太郎さんの作品などを愛読しているという初参加の女性の推し本。6つの話を収めた短編集です。短編集というものの性質上、本全体に関する話は少なめでしたが、「どの話も、暗いけれど最後に希望が見えるものになっている」そうです。

 紹介した方は「君の心臓を抱くまで」という作品が特に好きだと話していました。これは妊娠中の女性が主人公の話です。女性は出生前の検査時に、お腹の子はダメかもしれないと告げられます。その日から毎晩、女性のもとに鳥が通ってくるようになります。鳥は「あなたは十分頑張ってる」のような甘い言葉を囁き、窮地に立たされた女性を堕落へと誘うのです——

 この話も最終的には将来に向けて展望が開けるような結末を迎えるそうですが、紹介者からの話の中では、鳥による甘い囁きの方がクローズアップされていました。「悪魔のような囁きが心にくる」という言葉があり、僕は一瞬ゾクッとしましたが、そういう囁きほど、読む人の心を揺さぶり、深い印象を残していくのかもしれません。

 ちなみに、各作品の希望が持てるラストというのも、はっきりと希望を掴んだという書き方にはなっておらず、先の展開について想像の余地を残すような書き方になっているのだそうです。突然現れる鳥にしてもそうですが、不思議な読後感をもたらす作品なのかなという感じがしますね。

◆4.『おちくぼ姫』(田辺聖子)

 ワタクシ・ひじきの推し本。平安時代の古典で、「日本版シンデレラ」とも呼ばれる『落窪物語』を、芥川賞作家の田辺聖子さんがわかりやすい現代語に翻訳した小説です。この作品については、過去にnoteで取り上げたことがありますので、内容紹介はそちらに譲りたいと思います。

 読書会では、「日本版シンデレラ」の現代語訳である点、テンポが良くするする読み進められる作品である点を中心に話しました。あらすじを紹介する中で、「日本版シンデレラは、お姫様と貴公子が結ばれるだけでは終わらない」というまあまあなネタバレをしてしまいましたが、これがかえってウケて、「どんな話か気になります」という声をいただく結果となりました。

 当日は話さなかったのですが、今回この本を紹介したのには、6月の彩ふ読書会7周年イベントの際、「あなたの人生を彩った7冊」の中に入れるかどうか、ギリギリまで迷って外してしまったから、という事情があります。僕は本を読むのがかなり遅いのですが、この『おちくぼ姫』は、日曜日の夜に数時間で読み終わりました。人生で最も早く読み切った本であり、それだけ面白かった本です。そりゃあほうぼうで紹介したくなります。

◆5.『傲慢と善良』(辻村深月)

 ジョン・ル・カレというスパイ小説の大家の作品などをよく読むという女性の推し本。人気作家・辻村深月さんによる〈婚活ミステリー〉です。

 物語の中心にいるのは、婚活アプリで知り合った1組の男女。2人は結婚を考えるまでの関係になりますが、いよいよという時になって女の方が失踪してしまいます。かねて彼女からストーカーに悩まされていると聞いていた男は、彼女の行方が気になり、関係者を訪ねて話を聞いて回ります。その中で、婚活アプリを通じて知った〈イイトコロ〉中心の彼女の人物像が、だんだん揺らいでいきます。同時に、男自身も、結婚に何を求め、相手のことをどのように見ているのかを省みることになり、彼自身の傲慢さに気付いていくのです。

 紹介された粗筋からも垣間見えますが、この作品の面白さは、幾つものステップを経て人物像が深掘りされ、ひっくり返されていくところにあるようです。人物像の移ろいやすさは、人間がそれだけ沢山の顔をもって生きていること、そしてその顔の多くに無自覚なまま生きていることの証でもあります。それへの気づきは、読者に対して「果たして自分はどうなのか」「何を望み、何を考えて生きているのか」という問いとなって跳ね返ってくることでしょう。実際、紹介した方からも、それらのことを考えさせられたという話がありました。

 ところで、婚活を描いた小説、登場人物の見え方の変化、そして『傲慢と善良』という二字熟語を並べたタイトルという3点から、僕はオースティンの小説『高慢と偏見』を連想しました。そのことを話すと、「実はこの小説の中でも『高慢と偏見』に対する言及があるんです」との言葉が。これには「そうなんですか⁉」と驚くほかありませんでした。

◆6.『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(燦々SUN)

 最近は主にラノベを読んでいるという男性の推し本。現在テレビアニメも放送されている、人気ラノベシリーズです。原作は現在8巻まで出ていますが、「アニメに合わせて読んでいる」ということで、この日は2巻まで持ち寄られていました。

 作品の大枠は、高校生の男子と隣の席の女子がお近付きになるという青春ものの王道ですが、この作品のポイントは設定の突飛さでしょう。主人公の男子はいわゆる平凡な高校生ですが、幼少期の経験からロシア語を理解することができます。そして、隣の席の女子は、ごく稀なことですが、大事な言葉をロシア語で呟くことがあるのです。彼女は隣の男子がロシア語を聞き取れるとは思わずに呟いています。しかし、その無防備な呟きによって、2人の距離は接近していくのです。——うん、なんだその設定。でもオモロイ。

 このほか作品を面白くする要素としては、主な登場人物のキャラが凄く立っているということがあるようです。主人公とヒロインの関係を疑ってやまない幼馴染が出てきたり、ひたすら猫を愛で続けるお姉さまが出てきたり。この後、紹介した方に対して「お気に入りのキャラクターは誰ですか?」という質問が飛び出すことになりますが、この質問への答えはご想像にお任せします。

 ちなみに、アニメ化に当たり、ヒロインの声を本当にロシア語が喋れる声優が担当したことも話題になったそうです。紹介した方も「ロシア語に違和感がない」と絶賛していました。ここで「ロシア語の違和感の有無がどうしてわかるんだ?」という疑問が湧いたのですが、どうやらこの方、作品を理解するためにロシア語の勉強も始めたそうです。そこまでやるのかと、ビックリしました。

◆おわりに

 Bグループで登場した本の紹介は以上である。今回は小説4冊・エッセイ1冊・ライトノベル1冊というラインナップであった。初参加の方も含め、どなたの紹介も本の面白さやポイントがわかりやすく詰まっていて、聞き応えのある回となった。

 読書会終了後、僕は突然お腹の調子が悪くなり、暫くトイレに籠る羽目になったのであるが、戻ってみると、メンバーはまだ自分の席に座ったまま本の話を続けていた。第2部まで参加するという理由もあったのだろうが、紹介の内容を踏まえて話が広がっている感じが良いなと思った。

 それでは、徒に話を長くしないためにも、ここで筆を置くとしよう。

(第240回 2024.08.25)


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