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祝・『おちくぼ姫』本屋大賞2023超発掘本選出!

 本屋に行って驚いた。去年読んだ田辺聖子さんの小説『おちくぼ姫』が、本屋大賞2023の超発掘本に選ばれていたのである!

 『おちくぼ姫』を読んだのは、遠方に住む友人と行っている電話読書会の課題本になったのがきっかけだった。課題本になったきっかけは友人のジャケ買いだったので、読むに当たっての前情報は、「日本版シンデレラ」と呼ばれる古典『落窪物語』を現代語に訳した作品ということだけだった。

 僕は本を読むのが遅いので(200頁程度の小説を読むのでも1週間くらいかかる)、読書会に遅れてはいけないと思い、数週間前の日曜日にこの本を手に取った。

 だがそれは無用の心配だった。その日のうちに、たった2、3時間で読み終えてしまったからである。

 『おちくぼ姫』はそれくらい面白い作品だった——

 時は平安時代。源中納言という貴族の館に「おちくぼの君」と呼ばれる娘がいた。彼女はある高貴な身分の人を母に持っていたが、幼くして母を亡くし、継母である北の方から召使同然の扱いを受けていた。おちくぼの君に幼時から仕える女房・阿漕(あこぎ)は、その状況を不憫に思い、新婚の夫・惟成(これなり)に「姫様を早く幸せにしてくれるいいお婿さんはいないかしら」と尋ねる。

 この惟成、当時の貴族界で出世間違いなしと謳われ、女性からの評判も高い右近の少将と親しい間柄であった。早速おちくぼの君のことを話すと、少将は「ぜひ会ってみたい」と答える。しかし、召使同然に扱われ存在を隠された姫君に会うのは、容易ならざることである。おまけに、姫の幸せを願う阿漕は、相手に1つの条件を出していた。それは、一夫多妻が当たり前のこの時代において、姫をたった一人の妻として愛すること。プレイボーイの少将は、この条件に見合わない。ここに各人の思惑はすれ違い、物語は動き出す。

 しかも、話はこれだけでは終わらない。源中納言の館で権勢を奮う北の方が、実の娘を差し置きおちくぼの君に近付く者のあることを、黙って見過ごすはずはなかった。彼女は激怒し、強硬策に打って出る。二重三重の困難が立ちはだかる中、日本版シンデレラはどのような展開を辿り、いかなる結末を迎えるのか——ここから先は本に譲ろう。

 テンポ良く進んでいくハラハラドキドキのストーリー。魅力的なキャラクター。そして少年少女文学全集かと思われるほど、分かりやすく流れるような田辺さんの文章。どれを取っても素晴らしい作品であった。

 『おちくぼ姫』を読み終えた後、僕は友人との読書会を待っていられず、毎月参加している名も無き読書会で先にこの本を紹介してしまった。とにかく誰かに話したくてたまらなかったのである。これまで読書会で紹介した本は何冊もあるが、これほど話したくてしょうがなかった本は珍しかった。

 ちなみに、電話読書会の方の記事もあるが、正直言って大したことは書いていない。僕も友人も「めちゃくちゃ良かった!」しか言わなかったからである。

 何はともあれ、以前読んでとても良かった本が、本屋大賞の超発掘本として脚光を浴びることが、僕は今、自分のことのように嬉しいのである。この機会に、少しでも多くの人が『おちくぼ姫』を手に取ってくれたら、ますます嬉しいものである。

(第143回 4月9日)

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