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第22回「とある本紹介式読書会の記録~2022年1月編~」

◆はじめに

 1月23日(日)朝、学生時代からの知り合いと毎月やっているオンライン読書会に参加しました。今回はその話を書いていきたいと思います。

 1月22日(土)の話だけで記事を4本、それも一週間かけて書いていたワタクシですが、翌23日にもこんなイベントがありました。かくしてまた振り返りを書いて、一体いつになったら現在に戻れるんだろう……そんなことを思案している時間が勿体ないので、話を先に進めます!

 この読書会は元々、山手線圏内にあるカフェの貸会議室を転々としながら数ヶ月に1回の頻度で開かれていたものですが、1年半ほど前からオンラインで行われるようになり、同時に開催頻度が月1回になりました。就職を機に東京から関西に帰っていた僕も、オンライン化のタイミングで再び顔を出すようになり、更にはZoomの予約係というそれなりに大事な役目を預かるようになっています。

 かつては課題本形式の会が殆どだったのですが、現在は本を紹介する形式の会が続いています。この読書会では、1人当たりの持ち時間(15分くらいのことが多い)に収まれば本を何冊紹介しても良いというやり方を採っています。1冊の本について時間をかけて紹介する人もいれば、色んな本をテンポ良く紹介する人もいるので、何回か読書会をするうちにこの形式に落ち着きました。もっとも、23日の読書会では、珍しく全員1冊ずつの紹介でしたが。

 今年に入って初めてとなるこの日の読書会は、常連メンバー6人全員参加で行われました。では前置きもほどほどに、紹介された本について順に見ていくことにしましょう。

◆1.『卵と小麦粉それからマドレーヌ』(石井睦美)

 読書会常連の紅一点から紹介された本です。中学1年生の女の子が主人公の小説で、彼女の13歳の誕生日に、お母さんが半年間のフランス留学に行くと打ち明けてから半年間の出来事を綴ったものです。子どもとは何か、大人とは何かという問いを挟みつつも、様々な出来事や年頃の女の子の気持ちが温かな筆致で描き出されているそうです。

 この本を紹介したメンバーは、小さい頃に母親からこの本を紹介され、それ以来何度も読んでいると話していました。年齢を重ねるにつれて本の受け止め方は変わっていくようで、昔は主人公に強く共感していたけれども、今は懐かしいなという気持ちの方が強くなり、主人公は子どもだなあと感じることも増えたそうです。社会人になってからは、主人公のお母さんに共感する部分も大きくなり、また受け止め方が変わったとも言っていました。

 話を聞きながら、小さい頃からずっと大事にしていて、何度も何度も読みたくなる本があるというのは、本当に素敵なことだなあと感じていました。僕は最近まで同じ本を読み返す習慣自体がなかったので、こういう本との付き合い方はしたことがありません。それだけ大事に思える1冊に出会えたというのは幸せなことだと思いますし、その本と共に歩み育ってこられたことはもっと幸せなんじゃないかと思います。この先、彼女とこの本がどんな風に歩を進め、物語を紡いでいくのか。そんなことが楽しみになるような本紹介でした。

◆2.『感情の哲学入門講義』(源河亨)

 ワタクシ・ひじきが紹介した本です。タイトルの通り、感情に関する哲学的な考察の数々を、15回の講義形式(大学の半期の授業回数に相当する)で紹介する本です。「感情の本質とは何か」「感情と思考は対立するのか」「ロボットは感情を持てるか」「なぜ怖い映画を観たいと思うのか」といった問いの検討が、様々な分野の研究成果を参照しつつ、わかりやすい言葉で展開されます。

 僕がこの本を読もうと思った背景には「感情こそ人間らしさの源である」という考えがありました。そのため、「ロボットは感情を持てるか」についての記述は特に面白いと感じました。感情の基本要素は、価値を捉える思考と、価値に対応するための身体的な準備の2つなので、例えば高いところに立つと危険を感知して後退するロボットは恐怖という感情を捉えていると考えられると著者は言います。ここで特に興味深いのは、感情を意識できるかどうかは問題ではないという点です。そもそも人間になぜ意識が備わっているのかは、最新の研究でも明らかにされていない難問なのだそうです。意識できる世界に囚われていた僕にとっては、まさに天と地がひっくり返るほどの衝撃でした。

 この本はまた、哲学の入門書とも銘打たれています。実際、本の随所で、哲学的、あるいは論理的に物事を考えるコツが紹介されていて、そちらもとても勉強になりました。感情というテーマや哲学そのものに興味のある人には、とてもオススメできる1冊です。

◆3.『ミッション・エコノミー』(マリアナ・マッツカート)

 読書会代表から紹介された本です。代表はよく経済学に関する本を紹介するのですが、今回もその例に漏れないチョイスでした。

 この本で主張されているのは、現在の資本主義は限界を迎えているので転換が必要であるということです。具体的には、国が何もかも市場任せにしているのは良くない状況である、国と企業が連携し、ビジョンを立てそれを実現していくことが大切だ、という議論が展開されていると言います。

 僕は経済関係に疎いので、あまり口を差し挟める余地がないのですが、ただここ最近、従来とは異なった形の資本主義を構想しようという試みがあちこちで起こっているというのは感じます。それだけ社会は行き詰っている、或いは前進しようとするに当たって大きなひずみを生んでいるということなのかもしれません。議論の洪水を前にオロオロするばかりでなく、自分は何を思いどう考えるのかを検討する時が来ているように思います。って、前月の振り返りでも同じようなことを書いた覚えがあるんですが……

◆4.『談志最後の落語論』(立川談志)

 普段は何冊か本を紹介し、1つのテーマについて色んな角度から迫っていくようなプレゼンをしているメンバーから紹介された本です。今回は珍しくこの1冊だけでした。

 タイトルに「落語論」とありますが、落語のネタを解説する本ではなく、落語の背景にあるものの考え方を紹介する本になっています。それを聞いただけでもこの本只者じゃないぞという気になりますが、更に強烈なことに、この本は文章が江戸っ子の会話調になっているのだそうです。江戸っ子の粋を文章でも表現しようというのは野心的であり、同時に理に適っているとも感じますが、ともあれ予備知識なしに読んだ人は驚くことでしょう。紹介したメンバーは、元々祖父母向けに落語の本を探しているうちにこの本を手に取ったそうですが、あまりに衝撃が強かったため、他の本は渡したけれどこの本だけはムリだったと話していました。

 ただ、内容には考えさせられるものもあると言います。読書会の中では、「落語に美談はない」という一節が紹介されました。落語には「こんなイイことをやったぞ、こんなイイことがあったぞ」で終わるような綺麗な話はありません。むしろ、人間の浅ましさ、醜さを炙り出しながら、同時に滑稽さなどを描き出すのが落語の世界です。その話には、確かに唸らざるを得ないものがありました。月並みな感想ですが、実に奥が深いのですね。

◆5.『嘘みたいな本当の話 みどり』(内田樹・高橋源一郎選)

 僕の物書きの師匠から紹介された本です。この本は、アメリカで行われている、一般の人から広く文章を募って集めるプロジェクトの日本版を作ろうと編まれたもので、タイトル通り、嘘みたいだけれど本当にあった話を153作収録しています。
 例えば、こんな作品が載っているそうです。

 うちの父さん、「東京ばな奈」で歯が折れた。

「東京ばな奈」なんてふわふわしたお菓子でどうやって歯が折れるのかと聞きたくなりますが、収録されている以上は「本当の話」なのでしょう。

 師匠はこの本を読みながら、フィクションとノンフィクションの違いって何なんだ? と考えたと言います。どの話もノンフィクションのはずだけれど、フィクションのように感じてしまう。ひょっとして、両者の違いは一般に思われているほどはっきりしていないのではないだろうか。実際にあった出来事について喋っている中で、つい話を盛ってしまったら、それはもうフィクションなのだろうか。

 逆に、この本に収録されている話は全てノンフィクションということになっているけれど、どうしてそれらはノンフィクションと言えるのだろう。もし、全くの作り話をノンフィクションだと言い張って、読者をすっかり信じさせることができたら、その話はどうなるのだろう。——師匠の問いを聞いていると、こちらの頭までグルグルしてきました。

 それにしても、嘘か本当かわからないほどインパクトのある話を持っている人は羨ましいですね。「折角なんで記憶を辿ってみてください」と師匠は言っていましたが、そんな話あるでしょうか。

◆6.『仕事に悩む君たちへ はたらく哲学』(佐藤優)

 最後に登場するのは、普段はテンポ良く色んな本の話をするメンバーから紹介された本です。佐藤優さんといえば、本屋に行けば必ず名前が目に入ると言ってもいいくらい沢山の本を出されている方ですが、今回紹介された本は、著作の中では比較的軽めの、仕事との向き合い方に関するものです。佐藤さんの仕事との向き合い方がギュッと詰まっており、読んでいると考えさせられることもあるそうです。

 紹介したメンバーは、最近職場で先輩と話をしていて、仕事に対する向き合い方が人によって全然違うことを改めて感じる機会があったそうです。人と話をしている時、自分の身にかかるちょっとした事件が起きた時、或いは何の前触れもなく突然に、仕事との向き合い方を考えたという経験は誰にでもあることでしょう。自分一人で考えるのも一つの手ですが、別の誰かの考え方を覗いてみて、それをもとに自分の考えを編み出していくのもいいのではないかと思います。

◆おわりに

 以上、1月23日の読書会で紹介された6冊の本についてざっと見てきました。今回は小説1冊、学術系2冊、エッセイ3冊というラインナップでした。本のジャンルやテイストだけでなく、本を紹介する時の温度感もそれぞれ違っていて、改めて振り返ってみるとその違いもまた味わい深かったことに気が付きました。読んでくださった皆さまが、気になる本と出会えたり、それぞれの本の紹介を楽しんでくれたりしていたら幸いです。

 ちなみに、師匠は当日早々と振り返りを書いていました。この記事とは違った書き進め方をしていて面白いと思うので、ぜひ合わせて読んでみてください。

 それでは今回はここまでです!

(1月31日)

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