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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【27】10日目 中標津〜尾岱沼② 2015年10月16日

晩秋の根釧原野は、雲一つない快晴。知床の山々と、根室海峡を挟んで国後島を望み走る「週末北海道一周」10日目。
今夜は尾岱沼の旅館を予約していますが、それまでの予定ははっきり決めずにきました。前回パスしたポー川史跡公園を巡るか、それとも野付半島を走るか。
残念ながら、日が短い季節になったので、両方を欲張るわけにはいきません。

しかしここまで来て、迷わず野付半島を選択。
野付半島は15年前の夏にMTBで走ったことがあるし、先端部は立入禁止でもあるので、さほど食指が動いていませんでした。
しかし、雲ひとつない北国の空の下、海峡の向こうに横たわる国後島を眺めながら走り続ける誘惑に抗し切れなくなりました。

◆ ナラワラへ

小ぢんまりして静かな標津の町を後に東南へ向かい、やがて左手に野付半島への道が分岐。日本最大の砂嘴・野付半島は、原生花園でも知られ、この道には「フラワーロード」なる愛称があります
吹きっ晒しになり、陸風が強くなってきました。
今日の北海道はすっぽりと高気圧に覆われているので、吹くとすれば海上と陸上の気温差が原因の「海陸風」であり、とすると夏場ならば日中は海風なのだけど、この季節は日中でも、陸上より海上の方が暖かいということでしょうか。
海中の季節変化は陸上の2ヶ月遅れと言われます。陸上では短い秋が間もなく終わろうとしているのに、海中は晩夏ということなのでしょうか。
そんなことを考えながら半島の基部に広がる湿地帯を走って行くうち、左に根室海峡、右に尾岱沼が広がります。水面と水面の間に片側1車線の道と電線だけがまっすぐに伸び、そのまま水平線に没してしまいそうな風景です。

▲ 右=尾岱沼 左=根室海峡

やがて、ナラワラに到着。立ち枯れした木々が白骨のように沼地から聳立しています。

▲ ナラワラ

このような風景は、この先にあるトドワラが元祖ですが、15年前に訪問した時、既に朽ちて切り株だけになっている木々も多く見られました。
適当なところから引き返そうかと思っていましたが、この際なので、道路が行き止まりになる場所まで走ることに。

▲ 1999年夏の野付半島(トドワラ)
▲ 1999年夏の野付半島(原生花園)
▲ 1999年夏の野付半島(砂浜をMTBで走る)

ナラワラの先は、野付半島が最も細くなる箇所です。そのうち海流に侵食されて、半島の先端部が島になってしまうのではないかと思ってしまいます。

その後、帰りがけに立ち寄ったネイチャーセンターで知ったのですが、野付半島は地盤沈下が進んでおり、120年後には海中に没してしまう可能性があるそう。数百年後の人類にとっては、幻の半島と化してしまうのでしょうか。

▼ 野付半島ネイチャーセンター

◆ 無人の砂嘴

それにしても、人の姿を殆ど見かけません。
既に北海道の観光シーズンは終わりに近づき、野付半島は観光地としては地味な上、今日は平日でもあります。
もっとも、この雲一つない北国の空の下、この茫漠とした風景の中を、今自分ひとり旅していることが全てであり、心細さや人恋しさよりも、自分が生きていることの実感が先に立ちます。

トドワラへの入り口にあたるネイチャーセンターから先、半島は西に向かって大きく湾曲しています。当然、道路もそれに従ってカーブ。それによって、陸からの強い風に、まともに立ち向かうことになりました。

二頭の鹿が目の前を横切りました。さらに二頭。
鹿たちは、人影のない砂嘴を我が物顔で駆け巡っていました。

フラワーロードの行き止まり地点に到着。この先は関係者以外立入禁止。昔来た時は、さらに先の砂地にMTBで乗り入れて走って行った記憶がありますが、実は当時から入ってはいけなかったのだろうか。
半島の先端は、だだっ広い葦原。灯台と、何らかの施設が見えています。
ところどころにある独立樹が、ひときわ目立ちます。その向こうには遠い山々の山稜。
日はだいぶ傾き、オレンジ色の光が寂寞とした風景を染めていました。
何やら、自分が走っているのは北方の海辺ではなく、アフリカのサバンナであるような気分になってきました。想像力は無限であります。

▲ フラワーロード行き止まり地点にて
▲ 国後島夕景

◆ 壮麗な夕景の中を…

野付半島は、札幌から400Kmも東にあります。それだけ日没も早い。
帰路は、地平線に沈んでゆく太陽を眺めながらのライドとなりました。

▲ 尾岱沼夕景
▲ 黄昏に沈みゆく国後島
▲ 尾岱沼に没しゆく夕陽①
▲ 尾岱沼へ没しゆく夕陽②

16時34分、太陽は尾岱沼の対岸の地平に姿を没しました。
最近の札幌の日没時刻を正確に把握しているわけではないが、20分ほども早い気がします。

▲ 日没

日没とともに、一気に冷え込んできました。ダウンベストとウィンドブレーカーに身を包みます。
澄み渡った大気を紅く染める残光と、濃紺に包まれてゆく天空の下を駆けていきます。国道に戻り、左折。ここからは野付半島の基部を横切るため、若干の起伏があります。

17時を過ぎると、周囲はすっかり暗くなりました。
道は、森と牧草地の中を走っているようですが、全てはシルエットと化し、空との境界は鮮やかに染まり、グラデーションを描いて宇宙を実感させる濃紺の中空へつながっています。そこに、くっきりと三日月が浮かんでいます。
ほとんど流れのない、湾曲した川を渡りました。
ここはアフリカ…そんな想像の中に、再び身を置いてみます。

▲ 異国を走っているような…

約30分ほど、幻想的な夕暮れの中を駆け、尾岱沼にある今宵の宿に到着。
明るい小綺麗な日本旅館です。
尾岱沼名物の北海シマエビをはじめ、海鮮づくしの夕食を平らげ、ワインのハーフボトルを空けて、すっかりいい気持ちになりました。

▲ 夕ご飯

▼ 野付湯元 うたせ屋

食事の後、静かな集落を歩き、夜の埠頭で澄んだ冷気で酔いを覚ましました。
空が広い。
大気は澄み渡り、天の川が見えます。
再び"Someday My Prince Will Come"を聴きたくなり、イヤホンを耳にしました。華やかなピアノの旋律を支えるベースの唸りを感じます。安らかな気持ちになって、このまま星空の下で眠りにつきたいような思いにとらわれました。

<走行記録>
走行距離 73.6Km
走行時間 3時間03分
平均時速 23.95Km/h Max.43.89Km/h
消費カロリー 1697Kcal

※10日目はここまで。最後までお読み頂き、ありがとうございました。
11日目は、本土最東端・納沙布岬を目指して、引き続き秋色の風景の中を走ります。

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