#15 水の中を巡る旅 ふたたび西ノ島へ・2023年秋①
今年も、秋になったら隠岐へ!
ずいぶん前から、そう決めていました。
去年の旅が、本当に素晴らしかったからです。日本の海らしい魅力に溢れた水中もさることながら、出会った人たちもまた、素敵な方ばかりでした。
去年と同じく、木曜の晩に仕事を終えてから、新幹線と在来線特急「やくも」を乗り継いで松江へ。
ただ、ケツから膝裏にかけての、じんわりとした痛みが嫌らしい。
◆ 坐骨神経痛…
この前の週、東京出張から戻る新幹線の車内で、突然、左脚のハムストリングの筋を違えたような痛みが走りました。ちょっと脚が攣ったのかな、くらいに思っていたところ、その深夜、尾てい骨から膝裏にかけて締め上げられるような痛みに襲われ、眠れなくなってしまいました。
あお向けに寝ていることができず、横向きになったり、股関節を広げてみたり…それでも治らず、しかたなく起き上がってストレッチで宥めたり、室内を歩き回ったり。深夜にそんなことを1時間近くも続け、ようやく痛みは鎮まりました。
翌日は寝不足で全身がだるく、しんどい一日を職場で過ごしたのは言うまでもありません。
不思議なことに、歩く、走る、自転車に乗るなど、運動にはまったく支障がありません。と言いますか、動いていれば楽なのです。しんどいのは寝た姿勢と椅子に腰かけた姿勢(正座なら全く痛みはないのです)。
最初は肉離れかと思いましたが、これはどうやら「坐骨神経痛」であります。
念のため、日中は太腿に加圧サポータを装着しています。
ということで、運動に支障はありませんので出かけてきましたが、1日のオフィスワークのあと、京都から松江まで約3時間半、新幹線と特急「やくも」の車中に座り続けるのは、尾てい骨に優しくなく、結構苦痛でした。
ともかくも松江に到着し、駅前のカプセルホテルへチェックイン。明日からの海に備えカメラのセッティングなどを終えた後、呑みに出かけるには少し遅すぎますが、神経痛を宥めるため少し歩くことにしました。
松江駅前の一畑百貨店は、来年1月で閉店し、島根県は3つ目の百貨店のない県になってしまうそう。百貨店はクルマ社会を前提にした業態ではなく、かつて百貨店が果たしていた役割は、今ではアウトレットモールや大型SCに移っています。しかし、大型店の撤退は中心市街地の求心力低下をますます加速させ、ゴーストタウン化を招くこともまた事実。永年の転勤生活で、そんな街を多数見てきました。
ただ、松江の街の佇まいは大好きで、いつか住んでみたいと思いつづけています。山国育ちなので、美しい水辺の風景に憧れるのです。
満月の下、くにびき大橋を渡っていく女子高生2人。塾帰りでしょうか。そのあとをストーキングしているかのようなおっさん1人(←わたくし)。
もう22時半というのに、父兄をおおらかにさせるだけの実績の積み重ねがある、安全な町なのでしょうか。
🔲初日(9月29日)
◆ 隠岐への海路
放射冷却の影響か、松江の朝は高曇り。7時をまわって、少しずつ雲が切れ、青空が覗き始めました。
9月29日 金曜の朝。月末、かつ官公庁や3月決算の企業の上期末にあたる日。
松江駅前から七類港行きのバスを待つ中で、一見してバリバリのレジャー客は、ばかでかいキャリーバッグを引いた還暦間近のおっさん(←わたくし)一人だけ。
ほかの15人ばかりは、島の人か、出張で島に向かう公務員か。中には、ブルカバをかぶったマレー系の女の子もいます。
中海から尾根を越えると、霧が晴れ、雲ひとつない快晴。そういえは去年も、松江市内は濃霧、七類は秋晴れだったっけ。
乗船券は今や珍しい硬券。キャスターバッグを転がして乗船ゲートへ向かいます。通路を進むうち、余計な力が身体から抜けて、楽になるような感覚。
西ノ島へは約2時間半の航海。
離島への航海にはちょっと場違いな感じの、Tシャツにショート丈のコットンジャケット、綿パン、白スニーカーの、ITもしくはベンチャー風・年齢不詳のおっさんが、パソコンに向かっています。行き先は、島おこしで話題の海士町だろうか。海士町がある中ノ島にも興味があるのだけれど、ダイビング目的となると、やはりダイナミックな星神島や西海岸の地形が魅力の西ノ島を選んでしまうのです。
12時過ぎ、フェリーくにがは、定刻に別府港に接岸しました。迎えの車でDSへ向かいます。客はわたしと、奈良から来たという女性kさんのふたり。Kさんは、今朝3時半に奈良を出て、一人で七類まで運転してきたのだといいます。ダイビングをやる女性には、こういうエネルギッシュな方が珍しくありません。
低い丘陵を越え、内湾のDSに着くと、去年もお世話になったガイドのYさんが、真っ黒に日焼けした顔とよくひびく声で出迎えてくれました。
去年は二日間、快晴ベタ凪のサイッコーの海況。さらにNHKの取材も入り、本当に楽しい5ダイブだったものです。
今年は、明日、前線が通過する模様。「明日は外海は無理そうだから、今日中に行きましょう!」と、一本目は西ノ島を代表するビッグポイント・星神島へ。
◆ 1本目 星神島
平均水深 14.3m 最大水深 25.3m
潜水時間 45分 透明度 15m
水温 27℃
スーツ 5mmツーピース+フードベスト
船引運河を抜け、外浜海水浴場の防波堤を巡ると、西ノ島の断崖絶壁が覆い被さってきます。去年も、この船上から見上げた絶景ですが、何度見ても圧倒されます。
前日のうねりが少し残っていましたがさほどではなく、30分ほどで到着。かなたに島後の断崖がくっきり見えています。
さて、去年は水温23℃でした。
今年は27℃。フードベスト不要。なんと、7月の奄美大島より温かい。
透明度も、去年より格段に良く、まだ夏の海の様相です。対馬海流に乗ってきたルリスズメダイなど、南洋系の魚がまだ群れていました。
一方、水温が十分下がっていないためか、タカベやイサキの群れは去年ほどではなく、そこへ突っ込んでくるカンパチやヒラマサの編隊も見られなかったのはちょっと残念。ただ、去年のサイッコーの海と比べるからいかんのでしょう。隠岐は初めて、それどころか紀伊半島以外で潜るのは初めてというKさんは、もう、大興奮でした。
星神島には、オキマツゲという固有種のコケギンポが住み着いています。ほかには島後でしか見られないとのこと。
Kさんはマクロ系生物を見つけるのがうまく、何匹も見つけ出してくれました。その名の通り、長いまつげに特徴があるのですが、これを画像に収めるのは至難の業。去年、NHKの取材班が撮った写真をYさんに見せてもらいましたが、望遠鏡のようなマクロレンズで相当な長時間粘って、ようやくまつげが識別できるレベルの画像が撮れたそうです。わたしのTG-6(しかもフィッシュアイレンズつき)では、↓が限界でした。
◆ 2本目 カタド
平均水深 7.3m 最大水深 11.2m
潜水時間 60分 透明度 20m
水温 26℃
スーツ 5mmツーピース+フードベスト
2本目は、港へ戻る途中にある地形ポイント。
隠岐の地形ポイントは、どこも半水面。さらに、宮古島などの石灰岩地形と異なり火山地形故に、玄武岩などの地層が、光を受けて万華鏡のような独特の光景を織り成します。
その中でも、Yさんが特に大好きな場所があるとのこと。
上の写真のうち真ん中が、Yさんが大好きという場所。まるでクリスタルのような、エアがなくなる寸前まで粘っていたいような光景でした。
◆ 満月の夜
今回の宿は、船引運河のほとりにある民宿。去年泊まった旅館がとても気に入って、今回も泊まれればと思っていたのですが、そのとき一緒に呑んでくれた女将さんが腰を痛めたりされ、今は予約を制限しているそう。
でも、今回の民宿もなかなか予約が取れない宿だそうで、Yさんから「よく取れましたね」と言われました。聞けば、料金からは想像できないような豪勢な夕食が好評で、また工事関係の会社が定宿にしており、小さな宿なのですぐ埋まってしまうのだそうです。今回は西ノ島町観光協会から予約してもらったのですが、おお、運が良かったんだ。
DSから歩ける距離ですが、荷物もあるので、車で送ってもらいました。途中、集落で唯一の小売店であるYショップへ酔ってもらって買い物。
一般民家のような小さな民宿の宿泊客は、10名ほどの工事関係者を除くと、わたしだけ。
なので大広間での食事はちょっと落ち着かない感じでしたが、食事は海の幸が刺身、焼き、しゃぶしゃぶと勢ぞろいで堪能しました。
周辺には飲み屋もない漁村なので、部屋でおとなしくテレビなど見ていましたが、そのうち坐骨神経痛がニヤニヤと襲ってきました。安静にしていると締め付けられるような痛みがケツから太ももにかけて走るので、夜の漁港の散策へ。
折しも中秋の名月。
誰にも会うことがないまま、しばし、月明かりの漁村を徘徊しました。
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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。引き続き、荒天が近づく中、2日目のダイブについて綴っていきます。
宜しければ、またお読みいただければ幸いです。
▼ 水の中を巡る旅 これまでの記録はこちらです。
私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは主に旅の記録を綴っており、スキューバダイビング旅行の記録のほか、ロードバイクで北海道一周した記録、ブロンプトンを連れてローカル線や地方都市を訪ねる旅、また海外旅行のことなども書いていきます。宜しければ↓こちらもご笑覧下さい。
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