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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【25】9日目 ウトロ〜中標津② 2015年9月27日

「週末北海道一周」9日目、知床峠を越えて到着した羅臼は霧の中。
羅臼の道の駅周辺をしばし徘徊するも、特に見るべきものもありません。
峠越えの後とはいえ、まだ朝10時半。大して腹も減っておりません。

それに今日は、50Km先の標津で昼ごはんにしたいと思っていました。
標津サーモンパークという施設があり、今日は「あきあじまつり」というイベントが開催されているらしい。
ただイベント終了は14時とのことで、あまりグズグスはしていられません。

◆ ついに雨が…

20分ばかりの小休止の後、標津に向けて走り出しました。
と、路上に鹿がいました。立派な角を生やした雄鹿です。図らずも人間社会に闖入してしまい、戸惑った様子で、しかし興奮した様子もなく、住宅地を徘徊しています。やがて民家の庭先に迷い込んで行きました。

▲ 集落に迷い込んだ牡鹿

この道は、15年前の夏休みに、逆方向から車で走ったことがあります。
その日はMTBで野付半島を走り、中標津の北方にある野湯・川北温泉で汗を流した後、午後遅くに羅臼に向かって走ってきました。
よく晴れた夕暮れで、道中ずっと国後島の島影が寄り添っていました。羅臼の町の手前にある民宿で、カニづくしの夕食を堪能し、翌朝は海岸の露天風呂・相泊温泉へと朝風呂を浴びに走ったものです。

しかし今日は、海は靄に覆われ、すべての景色が灰色。

その上、ついに雨が降り始めました。

ペダルを止め、ハンドルバーに取り付けているiPhoneをバックパックに収納。そのバックパックには付属のカバーをかけて防水。

もう一度、ウィンドブレーカーを着込みます。防水性は高くないが、小雨程度なら対応できます。下半身はレーサーパンツ一丁で問題なし。

北海道一周ライドで初めて、雨中のサイクリングとなりました。

雨もまた自然のうちであり、積極的に濡れて走ってしまえばいい、くらいに思ってはいるし、実際、そぼ降る雨の中を走るのは独特の風情があって嫌いではありません。
ただ、どうしても、昔来た時のことを思い出してしまいます。海上に国後島を望むこの道は晴天のもとで走りたかったなあ、という思いを抑えられません。
しかし、ここは「あきあじまつり」に間に合うよう、標津に向かって淡々と、50Kmを走るしかありません。

小さな漁港を二つほど過ぎた後、道はやや内陸に入り込みました。「羅臼峠」という標高80メートルの尾根越えが、地図に記載されています。
羅臼峠を越えた後も、小さな起伏が連続する道を、淡々と走るのみ。雨脚が徐々に強くなり、防水性の弱いウィンドブレーカーは水を通してしまい、ジャージーが湿ってきました。

iPhoneのアプリをサイクルコンピュータとして使用していると、こういう雨の時は不便。バックパックの中に避難させているので、スピードも分からず、GPSで現在地を確認することもできず、「標津 **キロ」という道路標識だけが自分への声援のようなもの。

薫別という集落についたところで、ちょうど12時を知らせる音楽が集落に鳴り響きました。人影もない家並みの間に、突然大音量で流れたものだから、ビクッとさせられます。標津までは残り20キロほど。

◆ 不思議なペダリング感覚

この50Kmの行程の中で、どのあたりであったかよく覚えていないのだが、薫別の先にある、緩い上り坂でのことだったかと思います。

突然、何の抵抗も脚に感じることなく、ホイールが滑るように斜面を登っていく感覚に捕らわれました。力を入れて踏むことなく、ペダルを軽く蹴り出すようにまわすだけで、車体が前に、上に、進んでいく感覚。
多分これが、重心と力点が完全に一致、という表現が正しいのか判らぬが、最も効率的なペダリングが出来るポジションとギア比が実現された状態なのでしょう。

こういう感覚は、これが初めてではなく、パスハンティングなどで斜度が緩く変化した時、小休止を取った後、などに時々体感します。このポジショニングや身体の使い方が身に付いたら、もっと長い距離を楽に走りきれるようになるのですが。

残念ながら、路面のちょっとしたギャップを越えるためにサドルから腰を上げた瞬間、この絶妙なバランスは崩れてしまい、あの滑るような感覚はもう戻って来ませんでした。

◆ 標津へ

ようやく海岸台地の上を走る平坦路になりました。土産物屋と飲食店の複合施設のようなものを作って失敗したらしき巨大な建築物が、雨風に晒されています。

▲ 灰色の海岸線

少し走ると街の入り口に、ロシア正教会を模したと思われる飲食店が、これまた閉鎖していました。知床の世界遺産登録を機に、観光客需要を見込んで出店したのでしょうが、季節変動が大きいので大規模な観光施設の運営は容易ではないことでしょう。それに、知床五湖やカムイワッカの滝があるウトロ側に比べ、こちら側は地味でもあります。

▲ 標津の町の入り口で

「ポー川史跡公園」の標識がありました。
ポー川といえばイタリア北部の主要河川であり、同名の川が道東の原野にある偶然が気になっていました。これは特段の関連性があるわけではなく、こちらのポー川は、丘の下を意味する「フル・ポッ」が省略されたとの説が有力らしい。
余裕があれば、今回は無理でも次回のライドで寄ってみたいと考え、下調べもしていました。コケモモ、エゾイソツツジなど、本州では2千メートル級の山でなければ見られない高山植物も見られるそうです。
縄文時代から約1万年にわたり人々が生活していたことを示す竪穴住居跡が残されているほか、1789年にクナシリメナシの戦いが勃発した場所でもあります。

こんなところが、と言っては失礼ですが、蝦夷地の歴史上重要な地位を占めているのは、一つにはアイヌ文化の中心には常に川があり、故に道内最大のサケの産地である標津には、自ずからサケ文化が築かれたということでしょうか。
そしてもう一つは、中世における千島の重要性が関係しているのでしょう。

▼ ポー川史跡自然公園

そんな興味尽きないポー川ですが、こんな雨の中を徘徊して楽しいとも思えず、それに本日は「あきあじまつり」で美味しいものを食べる方が大事なので、次回以降のお楽しみとしました。

◆ あきあじまつり

標識に従って内陸へ数キロ走り、サーモンパークに到着。折良く雨は止み、青空が覗きました。

芝生の広場に幾つものテントが張られ、地元の商工会の人たちや主婦たちが、軽食などを販売しています。ステージも設けられ、フォーク歌手が歌っていますが、聞いている人はあまりいません。

ともかくも、賑やかな村祭りのようで、なかなか良い雰囲気。

▲ あきあじまつり会場

ちょうど、出張料理人としてマスコミにも登場している偉丈夫のシェフ、小暮剛さんが「標津風カルパッチョ」を無料で配る、というところで、テント前に行列ができていました。先着100名とのことで、私も列に並びます。
鰹節、炒りごま、茶葉などを少々加えるのがミソのようで、おいしく頂戴しました。レシピも一緒に頂戴しました。
これは一人一切れということで、とても腹を満たすには足りません。焼きそば、鮭とチーズのミルフィーユ、その他目についた揚げ物を何種類か買い求め、広場に設置されたベンチに陣取りました。

▲ 鮭とチーズのミルフィーユ、及び焼きそば

やがて、この祭りのメインイベントなのでしょう、シャケのつかみ取り競争というのが始まりました。
会場の一隅にブルーシートを張って作られた生簀に、専用車両からシャケがどばどばと流し込まれます。参加者はゴム長を穿いて生簀に乗り込み、シャケを手づかみで捕まえ、ゴール地点に戻ってくるという趣向。
子供の部、成人女性の部、成人男性の部などがあり、捕まえたシャケはお持ち帰りできるということで、大変な盛り上がりでありました。

▲ シャケのつかみ取り競争

14時に「あきあじまつり」がおひらきになるのと同時に、サーモンパークを後にしました。

後になって調べてみると、サーモンパークには、標津川と繋がった小川や産卵池などもあって、この時期には鮭が遡上し産卵する姿も見られるそう。そんなこととはつゆ知らず、さっさと出発してしまったのは悔やまれます。

▼ 標津サーモンパーク

一旦、海岸沿いの市街地の方へ戻り、街を一回りしてみました。こぢんまりした静かな町でした。

◆ 土砂降りの中標津

今日はパッとしないライドでしたが、これで北海道一周のルートを離れ、内陸へ20キロ少々走って、中標津空港へ向かいます。新千歳空港行きのフライトは、17時55分発。

「釧標国道」の異名がある国道272号線に入った途端、再び雨が降り出しました。雨脚はあっという間に激しくなり、土砂降りになりました。
まだ午後も早い時間というのに、周囲は靄がかかって薄暗く、道行く車は皆ライトを点灯しています。

いうまでもなく、このエリアは日本を代表する大規模酪農地帯。沿線は秋色の牧草地なのでしょうが、今日は全てが灰色に沈んでいます。北の地平に見えるはずの知床連山もまた、雨と靄の彼方。

しかもこの道、結構交通量が多い。さらに、路面のひび割れや小さな穴が多数。
濡れたマンホールやグレーチングだけでなく、そんなものにも注意しなければならないので、そぼ降る雨の音を友に、"Soon it’s gonna rain … "なんて鼻歌を歌いながらのんびり、というわけにはまいりません。

このように、快適とは程遠いライドの末、全身ずぶ濡れで中標津の街に入りました。雨脚は収まる気配がありません。
飛行機の出発までにまだ時間はあるので、街の中心部にある温泉付きのホテルで、一風呂浴びて温まりました。こんな白昼故、浴室内はお年寄りばかり。
乾いた服を着てホッとしたのも束の間、空港まで雨の中をもう一走りせねばならないという当たり前のことにようやく気づき、悲しい気分になりました。

▲ 土砂降りの中標津空港
▲ 新千歳行きプロペラ機

全日空のプロペラ機で新千歳空港へ飛び、JRに乗って札幌駅に降り立ち、駅前に出ると、札幌の空は澄み渡り、ビルの上に浮かんだ中秋の名月が、鮮烈な光を放っていました。

▲ 札幌駅前からの中秋の名月

<走行記録>
走行距離 107.8 Km
走行時間 5時間23分
平均速度 20.18Km/h  最高55.46Km/h
消費カロリー 2211Kcal 

※ 次回は、宇宙にまで届きそうな北国の空の下、秋深まる根釧原野を走りたいものですが、さて、どうなることやら。

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