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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【40】14日目 厚岸〜白糠② 2016年5月6日

快晴の朝、仙鳳址から長い坂を登り、尻羽岬との分岐点に到着。
ここからもうひと登りして、緩やかな下り坂の先には数戸の住宅と電波塔が海を見下ろしていました。ここからダートに突入。

◆ 尻羽岬

昼なお暗きエゾマツの森の中、曲がりくねった荒れた道が続いているかと思いきや、案に相違して、開放的で陽当たりの良い道です。
それにこのダート、しっかり整備されています。ダートというよりグラベルといった方が、イメージは近いでしょう。
一般的な二車線道路並みに道幅は広く、しっかり踏み固められ、轍も掘られていません。恐らく1日の交通量は多めに見て2~30台程度だろうに、先に集落があるわけでもないこの場所に、こんな立派な道が必要だろうか、と思ってしまうほど。

▲ 尻羽岬へのダート

ロードバイクでも走れるレベルですが、砂利は多く、ペダルを踏んでホイールにトルクを掛け続けていないと、横滑りして転倒する恐れはあります。リム打ちも怖いので、なるべく砕石のの少ないラインを選んで走らねばなりません。私はMTBで林道やシングルトラックを走るのも好きなのですが、ロードバイクだと一段と緊張感が伴います。
そうはいっても、若干の起伏はあるものの、傾斜は最大で4%程度、大して気にならないレベル。スピードを殺し、尖った砕石を避けながら、安全第一で走ったが、4キロは意外と短く感じられました。

右手に枯れ草に覆われた草原が広がり、その向こうに紺青の海が広がりました。「うわあ」と、私は思わず感嘆の溜息をもらしました。

▲ 空と海と草原だけが…

この風景を、どう表現すればいいのでしょうか。
何もなく、誰もいない。
ただ、短い枯れ草に覆われた起伏地と、碧がかった海と、蒼空が広がっています。緩い下り坂の下に駐車場が見えました。中空パイプの簡易的な柵と、トイレだけがあります。
車はここで行き止まり。岬はさらに先、マップによれば更に20分程も歩きます。

靴を履き替え、丈の短い枯れ草に覆われた起伏地を歩き出しました。地面は堅く歩きやすいが、海辺の断崖に近付くにつれ、強烈な風がぶつかって来ました。

隆起台地の上の草原、というシチュエーションは、能取岬や落石岬と似ています。但し、季節の違いもあるでしょうが、牛がのんびりと牧草を食んでいた能取岬の伸びやかさとは違います。人工物がないに等しい、というのが一番違います。その点は落石岬に似ているが、背景に森を背負ったりしていない分、草原の広がり、海の広がりが、こちらはもっと雄大に感じられます。

無人の草原を歩きながら、来てよかった、と思いました。
一昨年まで東南アジアの雑踏の中で暮らし、帰国直後には札幌が素寒貧として寂しいなんて思った私が言うのもなんだが、札幌から東京に戻ってからというもの、都内の人混みにストレスを感じていました。人工物もないこの風景は、まさに対極にある非日常の世界。もっとも、ここで暮らせと言われても、すぐに町が恋しくなってしまうでしょうけど。

小さな起伏の上に、海難者の慰霊碑がぽつりと立っています。なぜこんな人里離れた場所に建てたのでしょう。
さらに先には、看板のようなものが、これもぽつりと立っています。面板は吹き飛ばされてしまった模様。

▲ 元々は「シレパ岬」の看板だったらしい

海からの風は、先程の駐車場まではさほどではなかったのに、僅か数百メートル歩いただけで、前日の烈風に匹敵するような激しさ。そんな風の中、斜面にしがみつくように、タンポポと、エゾエンゴサクでしょうか、紫の花が所々に彩りを添えています。

先に進むに連れ、厚岸湾の眺望が広がりました。正面に大黒島。その向こうには昨日走ってきた海岸線。
左手に視線を移していくと、愛冠岬があり、厚岸の市街地が見えます。
それにしても、何という海の色でしょう。強風によるうねりで海底の砂が舞い上がったのだと思われますが、濃紺に緑を混ぜたような、深く、ぞっとするような美しさ。

▲ 岬の突端で
▲ 岬へ降る道

岬は壊れた看板のさらに先でした。踏み跡を辿り、突端まで行くと、烈風に吹き飛ばされそうな恐怖感を覚えました。

道東の秘境・尻羽岬。今のところ、インバウンドの波とも無縁。

◆ 難読地名ロード

帰り道も、さしたる苦もなくダートを走り切り、知方学からの直線的な坂道を上って、道道に戻りました。往復10km弱の寄り道でした。

道道を少し登った先がルートの最高地点で、だいたい標高170~180mくらい。続いて、ご褒美のような気持ち良いダウンヒルが待っていました。

断崖の下に入り江があって、比較的大きな集落が見えます。知方学の集落のよう。地図を見ると、この辺の漁村はどこも隆起台地上の道道が唯一の外界へのルートのようです。海岸沿いは地勢が険しく、漁村同士を結ぶ道路の建設は難しいのでしょう。
この辺りは難読地名が連続することで知られるエリア。元々のアイヌ語の地名を忠実に残し、それに一捻りした当て字が付されています。「難読地名ロード」なる別名もあります。
誰が、どのような目的で、このような当て字をしたのかは判然としないとのこと。アイヌ語の地名にひとかたならぬ愛着を持ち、かつ、ユーモアのセンスもある役人がいたのだろう、と勝手に想像しておきます。

▼ 「難読地名ロード」の紹介 (由来の解説付き)

その難読地名の読み方と由来を記した看板が、それぞれの集落の入り口ごとに立てられています。集落の入り口、といっても、住戸は全て海岸線に身を寄せ合っているようで、時折、エゾマツの森の中を海岸へ下る道が分岐しています。中にはもう無人になってしまった集落もあるそうで、ダートの入口にロープが張られていました。
残念ながら、快調に下ったせいで、その幾つかは見逃してしまいました。

▲ これはなんと読むでしょう?

路傍に若草が萌えるエゾマツの森。続いて、断崖をかすめるようなワインディングロード。
昨日に続いて、自転車旅には最高の道が続きます。
アップダウンは頻繁に現れますが、仙鳳趾から知方学のような長い登りはもう現れませんでした。登りは無理せず、然程の抵抗なく踏めるところまでギヤを軽くして、ゆっくり行きます。
難読地名の看板を見つけるたびに立ち止まって写真を撮っていたので、なかなかペースが上がりませんが、それはどうでもよくなりました。

▲ どこまでも走り続けたいような道が、今日も続きます。

北海道では珍しい、半径の小さなヘアピン状の急坂を駆け下り、昆布森に到着。厚岸~釧路間では最大の漁港です。一字違いの「昆布盛」漁港が根室半島にある。共に「コンプ・モイ」、昆布の入江という語源らしい。

今朝から道路標識で頻繁に見かける地名なので、それなりの規模の漁港と想像し、地物の海産物を出す店とか、漁港関係者向けの安くてボリュームのある食堂でもないかと期待していましたが、集落には食料品店が1軒あるだけでした。時刻は正午を少し回っています。埠頭に腰掛けて、グラノーラを齧りました。
初春の装い、といっても風はまだ冷たい。身体を冷やさぬよう再びウィンドブレーカーを着込みます。
昆布森からはトンネルを抜け、一気に高台へ。釧路市内と昆布森を結ぶ比較的新しい道です。法面もまだ新しく見えました。
納沙布岬から延々と続いてきた断崖はこの辺りで途切れ、海岸沿いの集落を結ぶ道も地図上に表示されていますが、もう海は十分に堪能したので、ここは距離の短い方を採りました。

やがて、目の前に長い下り坂が現れ、眼下には釧路の市街地が広がりました。路肩に駐車スペースがあります。後に知ったのだが、ここは釧路の夜景スポットだそう。
充実感と、ここまで無事に走りきった安堵感が胸をよぎります。もっとも、今日はまだ50キロばかりしか走っておらず、この後、もう少し先まで走るつもり。

家並みの続く先に、小高い禿山がひときわ目を引きます。海岸端にあるように見えます。

▲ 釧路市街が見えた

興味を惹かれたので、これを目指して走ってみることにしました。

※ ここまでお読み頂きありがとうございました。引き続き、釧路を抜け、道東の海岸線を白糠へ走ります。よろしければ続きもご笑覧下さい。

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