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北国の空の下ー週末利用、自転車で北海道一周 【2】1日目 札幌→留萌① 2015年5月2日 

◆ 週末北海道一周のスタート

4月も下旬になって、円山公園の桜がようやく満開との報に接しました。
4年にわたる海外駐在の間、桜花には縁がなかったので、夕刻仕事を終えてから、ブロンプトンに跨って見物に出かけました。

寒々しい薄曇りの下、円山公園は、ジンギスカンの煙と生ラムの匂いに覆われていました。残念ながら円山の桜は、東北勤務時に何度か訪れた弘前城趾や船岡の一目千本桜の壮麗さと比べると、今ひとつ感は否めませんでした。
しかし、せっかくの4年ぶりの日本の春。次の週末にはロードバイクを苫小牧まで輪行して、日高の海岸線を静内へ走り、二十間道路の桜を見ようと目論んでいました。

そして5月2日(2015年)、晴れ渡った札幌の朝。
早朝、テレビをつけて天気予報を見ると「南の風が強い!」と報じられています。

30年ほども昔の、札幌で学生生活を送っていた頃のことを思い起こすと、確かに早春には強い南風が吹くのが通例でした。下宿の大家さんは「馬糞風」と呼んでいた記憶があります。
それにしても、今年の風の強さは異常らしい。前週末には、藻岩山の南にある小林峠で、休憩中に自転車ごと突風に吹き飛ばされました。

ヘタレのアラフィフのおっさんにとって、80キロに及ぶ向かい風ライドは容易ではありません。
そこで、風を背に受けて走ることができるよう、北へと転身を図ることといたしました。

準備は前夜のうちに整っていました。Raphaのクラシックな長袖ジャージーとウィンドブレーカー、パールイズミのライディングタイツ、といういでたちで、6年来の相棒であるコルナゴ・プリマヴェーラに乗って、朝の街を走り出します。

こんな風に、この朝の風向のおかげで偶然に、「週末北海道一周」がスタートしたのでした。

◆ 札幌→石狩川河口

札幌市街地の信号の多さには辟易しているので、JRの高架橋をくぐったあと、北大のキャンパスを通り抜けさせて頂きます。この季節の朝の北大キャンパスは、涼しげな若葉を通して零れ落ちる陽光が、まるでパステルカラーの色彩を帯びているかのよう。ここで学生時代を過ごしてから早30年だが、この春の早朝の雰囲気は変わることなく素晴らしい。

▲ 北大キャンパス 朝のメインストリート

残念ながら、ロードバイクでは北6条門から北18条門まで2分足らずで駆け抜けてしまうのだけれど。

麻生から創成川通りに出ると、北へ向かう交通量の多さに驚かされます。みんな揃って、海岸線のドライブに向かうのでしょうか。
ともかくも、札幌もようやく陽光を楽しむ季節になったということでしょう。

一般に北海道の道は路肩が広く、自転車は大変に走りやすい。しかしこの道は、行楽に向かうサンデードライバーと、石狩新港近くの工業地帯へ向かう大型車が入り混じって飛ばしていくので、神経を使います。変化のない直線道路なので、退屈でもあります。

やがて、石狩川の河床跡である茨戸川に行き当たりました。この先、花畔を経由するバイパスに、ほとんどの車が流れていくが、私は生振の牧草地の中を抜けていきます。

生振は、石狩川本流と、三日月湖である茨戸川に囲まれた、広大な中州のような地域。学生の頃、何回か干草上げのアルバイトに来ました。トラクターに曳かれた機械が干草を取り込み、みかん箱大の梱包にしたものが、排出口から吐き出されます。その後ろに曳かれた鉄橇に乗って、梱包を次々と積み上げていくのですが、最初はうっかり半袖シャツで出かけてしまい、腕が引っかかれ傷だらけになりました。しかも干草の収穫はかんかん照りの日にしかできないので、脱水寸前になるきついバイトでした。

牧草地の中を道は一直線に伸びています。この道を通って石狩河口の花畔方面へ抜けていく車は極めて少なく、ようやく走りを楽しめる雰囲気となりました。南からの風に背を押され、牧草地へ向かうトラクターを追い越します。
かつてのこの地域のことは殆ど記憶になく、点在する農家もほとんどが真新しく見え、当時を思い出させてくれるものはありません。唯一、北風から農地を守る防風林が、記憶を呼び覚ましてくれます。
途中で右に折れ、東へ方向を転じました。それまでのスムーズで平和な走りが嘘のように、斜め前からの強風に煽られます。自転車で追い風を受けていると、風力の体感が殆どなく、方向を変えた途端、こんなにも強い風が吹いていたのか、と驚かされることが少なくありません。路肩の防雪壁を一時的に上げて欲しくなります。
もっとも、今日のルートでは、こうやって横から風を受ける区間は少なく、この南寄りの風は概ね追い風になります。
2キロほど直線を走り、再び北へ方向を転じると、速度表示は一気に40キロ近くを指すようになりました。

右は石狩川本流の堤防、左は未だ裸木の目立つ雑木林に挟まれた道を快走。やがて左手の眺望が開け、茨戸川の水面が広がりました。
出発から1時間少々で、石狩川の河口に到着。札幌医大近くにある自宅からから約25キロ地点。このあたりでは、再び横風を受けることになり、石狩川を渡る長い斜張橋の上は若干きつかった。

◆ 石狩川河口→厚田

がらんとした風景の中に、農協と、店を閉めているのか営業しているのか定かでないような古びた商店が数軒集まった十字路に行き当たりました。ああ、こんな場所があったよなあ、と懐かしくなります。補給食を持参しなかったので、農協の隣にあるコンビニで、大福餅やゼリー飲料を調達しました。

この道は、学生時代、バイト仲間から譲り受けた中古車で、何度もドライブに来ました。天気の良い午後、講義をさぼって、札幌市内から80キロ離れた浜益あたりまで一走りするのは何とも気持ち良かったものです。
確かここから先は内陸を走って、そのあと登りがあったな、左手には乗馬クラブがあったよな、などとペダルを回すごとに当時の記憶が蘇ってきます。懐かしさ、というには歳月が経ち過ぎてしまい、路傍の風景ひとつひとつに昔を思い出させるものは残っていません。かといって、全く未知の土地でもない。この微妙なバランスは、決して不快なものではありません。

記憶にあった乗馬クラブは今でも健在でした。

斜め前からの風を受けながら牧草地の中を走っていくと、記憶通りに、道はゆるい弧を描きながら小高い海岸台地の上に登っていきます。坂を登り切ると、一直線の道が続きます。
ここで交通量の多い国道を逸れ、海へ向かって豪快に下り、しばし海岸の荒蕪地を走った後、再び海岸台地に登り返す道もありますが、ひとまず寄り道は自重して、国道をひた走ります。後日談ですが、再びこの辺にやって来て、海岸寄りの道に入り込んでみたところ、海を見渡す高台にコテージ風の住宅が20軒ほど集まった一画が形成され、斜面に枯れ草が生い茂るばかりであったかつての風景からの変貌に、嬉しい驚きを覚えました。

よく晴れた週末を海岸線のドライブで過ごそうという趣の自動車が、次々と追い抜いていきます。北海道のドライバーは、自転車を追い抜く前に、後ろからクラクションを鳴らす、ということを、ほぼやりません。道が広いので敢えてその必要もないからでしょうが、自転車側からも、これは大変にありがたいもの。背後からのクラクションを鳴らされると、驚いてついふらつくことが多いのです。自動車側とすれば存在を知らせて注意喚起する積りでも、却って危険なことがあるのです。道の真ん中をふらふら走っているような不注意な輩が相手なら、話はまた別だろうけれど。

下り坂にかかり、正面には望来の集落と、海が広がりました。30年前には存在していなかった風力発電の風車が数機、視界に飛び込んできました。

▲ 望来へのダウンヒル

望来は小さな漁港と海水浴場、それにホクレンのスーパーとコンビニがそれぞれ1軒あるばかりの小さな集落。ここから国道は再びやや内陸に入り、丘陵地を越えて厚田に至ります。私は海沿いの道を行くことにしました。海沿いといっても波打ち際を走るわけではなく、こちらも海岸台地への短いが急な登りが控えてはいますが。

台地の上には小規模な住宅分譲地があり、ログハウス風の瀟洒な一戸建てが数軒、身を寄せ合っていました。ここからの日本海の眺望は抜群だけれど、生活には不便な場所だし、潮風で車の錆びや家の痛みも早いだろうし、暮らしやすくはないだろうな、と思います。なにより、すぐ傍には風力発電所があって、その風切り音か回転音か判らぬが、低いうなりのような音が周辺に響いています。

▲ 海岸台地の住宅地

風力発電の低周波音による健康被害、というのが一部で槍玉に挙げられているそうです。科学的に証明されたものではないようですが、風切り音が気になって不眠に陥る、といったことはないのでしょうか。

ともかくも、道はまもなく国道と合流し、厚田の集落へ下っていきます。

※引き続き、険阻な海岸線を、長いトンネルや高巻きで越え、雄冬岬へ向かいます。

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