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貴族のお姫さまが描いた19歳のショパン

今年の7月からショパンの手紙や伝記を何冊も読みだした。
調べたことをざっくり整理。

(1)10代ショパンの顔が知りたい!

19世紀初頭は写真がないので、参考になるのは肖像画だ。
でもわたしは写真より絵の方が好き。
描き手にとってモデルがどんな存在なのか、わかる気がして楽しい。

貴族のお嬢さまエリザが描いたという、10代ショパンの絵を見つけた。

いつものように、模写してみたよ。

ピアノを弾くショパンくん。
髪型はさらっとしたストレートでやや内巻き。面長でわし鼻。
ショパン父の肖像画にそっくりだ。

綺麗な横顔。

描いてみたらね、妙な感動があるのですよ。
エリザ嬢は、モデルに対してとても好意的で優しいまなざしだと感じたよ。親密さの塊だよ!立体感はないけれど、やわらかい髪の毛、衣装への細やかな気遣いがとても女性らしい…そんなことをビシビシ感じました。

模写は追体験と言うから、200年前の感情の追体験かもしれない。


!(*‘∀‘)

(2)ショパンが手紙で語る、ふたりのお嬢さま

この絵と作者に関して、ショパンが書いた手紙がある。
自らチェロを弾く音楽愛好家の大公に招かれて、令嬢ふたりの様子を楽しげに語る。この頃の聞き手はいつも親友ティテュスくん。
(1829年11月14日付の『ショパンの手紙』)

ショパンが手紙で語る、妹のワンダ嬢

『あそこに逗留中に僕はチェロのためにア・ラ・ポラックを書いた。内容はなにもなくてきらきらした淑女向きのサロン用の曲だ。わかるだろう、僕はワンダ姫にそれを学ばせたかったんだ。僕は彼女のレッスンをしてあげていたのだ。まだ大変に若く十七歳で美しい。彼女の可愛らしい指を導くのは実際に楽しかったよ。しかし冗談は別として、彼女は真の音楽的な感覚を豊かに持っていて、「ここはクレッシェンド、ここはピアノ、今度は早めに、今度はゆっくりと」などと言わないでもよいのだ。』

~ショパンの手紙(上):天才ショパンの心(訳:原田光子)

ワンダ嬢は年下で美人で可愛い指の持ち主らしい。冗談とか言ってるけど、ピアノを教えたらセンスもよくて、お気に入りの様子。

ショパンが手紙で語る、姉のエリザ嬢

『毎日このお姫様に≪ポロネーズ≫を弾いてあげると言えば、君はお姫様の性格など、あるイメージができるだろう。≪変イのトリオ≫のところが一番好きなのです』
   ~ショパンの手紙(訳:小松雄一郎)

『君は僕の肖像画がほしいそうだが、もしもエリザ姫から一枚盗むことができたら君にお送りする。彼女は僕を二度彼女の写生帳に描いた。そしてよく似ていると皆にいわれたんだ。』
   ~ショパンの手紙(上):天才ショパンの心(訳:原田光子)

姉のエリザはショパンより7つ上。作曲したポロネーズを披露したら毎日弾いてとせがまれちゃう。そんなに気に入ったなら献呈しますよと、笑顔のショパンくんが目に浮かぶ。
この魅力的な姉妹は、いったいどんな人なんだろう?

(3)毎日≪ポロネーズ≫を弾いてあげる

エリザ嬢お気に入りの『ヘ短調のポロネーズ( no.10 op.71-3)』を聴いてみた。

(※トモロー氏。ピアノ演奏と解説。ショパンの手紙の解説もある)

ひとことで言うと、アンニュイ。

『この曲が好きなお姫さまの性格』ってなんだろう??
憂鬱なことがあったのかな?26歳未婚の令嬢。

(4)エリザとワンダの肖像画

エリザ嬢を描いてみた。

美人。優しそう。ちょっとけだるくて蠱惑的。笑顔。

ワンダ嬢。肖像画ワンダは美人に見えないな。なんだかムスッとしてますね。手紙の様子だとショパンより年下のハズ。生年は参考本が間違ってたので訂正。

ワンダを調べるときのスペルは、Wanda Radziwiłłówna (Czartoryska)
家系図では1813年生まれだ。
検索すると同じ名前の人がたくさんいる。直径子孫かな?
嫁ぎ先のチャルトリスキ家は、ショパン伝記後半にも出てくるのでチェックだ。
http://www.sejm-wielki.pl/b/3.662.409  
https://www.geni.com/people/Wanda-Czartoryska/6000000002188456383

(5)ショパン伝記でモブ扱いの年上令嬢は、歴史の有名人だったよ!

エリザのポーランド表記は Eliza Radziwiłłówna。日本語wikiもある。
ポーランド大貴族ラジーヴィヴ大公の長女エリザ・ラジヴィウヴナ公女 

公女さま!!( ゚Д゚)

ヴィルヘルム王子という人がエリザに恋をして、ヨーロッパ中でうわさされるような大恋愛だっったそう。しかし彼はドイツ皇帝になるお人。
後継者と家柄、政治的な問題で破談に。
1829年8月、王子はエリザへ想いを残しつつ、他の人と結婚した。

https://ciekawostkihistoryczne.pl/2020/08/22/eliza-radziwillowna-i-wilhelm-i-hohenzollern-milosc-ktora-mogla-odmienic-europe/

ショパンが招待されたのは、ちょうどその3か月後。
そしてエリザはポロネーズヘ短調を、ショパンに毎日弾かせた。
曲の真ん中あたりで、けなげに明るくなるところがある。ここが手紙の『彼女は変イ長調のトリオのところが一番好き』かな?

エリザはどんな気持ちで聴いてたんだろう?
何を思ってショパンの絵を描いたのだろう?

そうだ、この記事見て気づいたんだけど、エリザ肖像画は元は油彩画なのね。それを当時の画家が手描きでコピー。だからいろんなバージョンがあるんだね。わたしは手描きの複製画をまた手描きで複製したわけだ。

(6)19世紀の『肖像画』を描いてみたいな

知らない時代、知らない国の人々。
繋がるようにいろんな興味が出てくるよ。
彼と彼の音楽は他の人にとってどういう存在だったのか。他の人は彼にどういう影響を与えたのか。感じたことは絵にしてみたいです。

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