【小説】 ゴート×ゴースト 第五話


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それはある日の打ち合わせでの出来事だった。
発端は私の何気ない質問であった。

「来月は先生の誕生日がありますが、何かイベント等は行うのでしょうか?」

「あー……考えたことがなかったですね。これまでも特に何かしたことがなかったので」

先生はまるで自身のことに興味がないかのように、淡々と言葉を紡いでいく。

ひょっとしたら公表されている誕生日等のプロフィールはあくまで設定で、本当の誕生日が別に存在するのだろうか。

「もしかして公表されている誕生日は麻須久彩の誕生日であって、先生自身の本当の誕生日は別に存在するとかでしょうか?」

思わず気になって投げかけてしまった私の質問を受け、先生は朗らかに笑った。

「面白い発想ですね。残念ながら私自身の本当の誕生日で間違いありません」

先生は笑いながら話していたが、いつしか笑い声は鳴りを潜め、声色が憂いを帯び始めていた。

「あとは老けていくだけなので歳を取るのが嬉しくないというのと、その一年に何を残せたのかの反省会になってしまうんですよね」

先生は今どんな表情をしているのだろうか。

Web会議は常にお互いにカメラをオフにしているので、相手の表情を窺い知ることはできない。

「なるほどです……。恥ずかしながら、私は誕生日を口実に何を食べるかということしか毎年考えていなかったです」

先生と比べ、如何に思慮が浅いことかと私は自身の間抜けさを恥じ入るばかりだった。

「いやいや、それが普通ですよ。私がネガティブ過ぎるんです」



「そういえば」

先程までの話題やそれによって生じた空気を転換するように、先生が話を切り出した。

 「はい、なんでしょうか」

「誕生日が近いのは私だけじゃないですよね?」

「あ、そういえば私も来月誕生日ですね。あれ、何で知ってるんですか?」

確かに私の誕生日は先生の3日後だ。驚きで一瞬固まってしまった。

「履歴書を見た時に私と近かったので覚えていました。ストーカーみたいでちょっと気持ち悪いですね」

そう言って先生は気恥ずかしそうに黙ってしまった。

「いえ、覚えていてくださって嬉しいですよ」

まさか覚えていてくださるとは思わなかったので驚きが強く出てしまったが、嬉しいのは本音である。

「良かったです。何らかのハラスメントに問われないかとヒヤヒヤしてしまいました」

先生の声色がいつもの調子に戻ってきた。その様子に私もホッとしてしまう。

「ちなみにプレゼントは何が良いでしょうか?欲しいもの、何でも言っていただければ用意しますよ」

先生の誕生日の話のはずだったのに、いつの間にか私の誕生日の話にすり替わってしまっている。

「特に欲しいものはないですね……。あ、せっかくなので美味しいケーキが食べたいです」

「本当にありませんか?遠慮していませんか?」

先生は不思議そうな様子だった。

「本当ですよ。特に欲しいものが浮かばないので美味しいケーキが食べられたら満足です」

ケーキと発しただけで脳内はケーキでいっぱいになっている。私は食いしん坊なのだ。

「私も食べたいですし、せっかくですから一緒に食べますか」

「良いですね。って、え!?一緒に!?ですか……!?」

ケーキに思考を持ってかれている間によく分からないことになっていた。

そうして先生の真意がよくわからないまま、その日の打ち合わせは終わってしまった。



「前回の件なんですけど」

打ち合わせが終わろうかというタイミングで先生が突然切り出した。

「前回の件ですか?」

「お誕生日会の話です。二人の誕生日の真ん中にやるのが良いかなと思うのですが、ご都合いかがでしょうか?」

「都合は大丈夫です!冗談だと思っていたのでビックリしていますね」

先生のいつもの冗談だと思っていたらどうやら違うらしい。

「本気ですよ。冗談なんて言ったことないですし。一人だとネガティブになってしまうのですが、貴女と二人なら楽しめるのかなと思いまして」

先生の声色はいつものように飄々としているようでもあったが、どこか初めて会った頃のような硬さも感じられる。

「冗談を言ったことがないという冗談はさておき、身に余る光栄ですね」

少なからず心を許していただけているようで、私としても本当に嬉しい気持ちだった。

「ありがたいです。会場は私の部屋でも良いでしょうか?来てもらうのは申し訳ないのですが、外に出るのは厳しくて」

「あ、はい、大丈夫です」

え……?先生の家……???
先生と直接……会う……?????



つづく





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