おはようを告げるにはあまりにも無粋で

どうも。
東野京(ひがしのみやこ)です。

今回は以前勤めていた会社の先輩のエピソードを記していきたいと思います。




MさんとTさんと私

当時の私は夜勤メインの仕事に従事していました。

入った当初は指導してくれた先輩(以下、Mさんとします)ともう一名の先輩(以下、Tさんとします)との三人で現場を回っていました。

Mさんは単身赴任をしていて、家庭の事情で関西の拠点に戻る予定でした。

その為に私が採用され、Mさんが関西に帰るまでの期間に仕事を教えてもらったという形です。

Mさんは優しく澄んだ目をしていて愉快な方でした。
元々は営業だったらしく、移動中には色々な話をしてくれました。

一人暮らしを始めた私にMさんは様々なモノをくれました。
自転車に電子レンジにオーブントースターに食器やその為諸々……。
(関西に戻るにあたりの断捨離ということで、Mさんにとっても都合が良かったそうです)

私とは相性が良かったMさんですが、Tさんとは若干相性が良くなかったように思います。

業務中TさんはMさんに怒られてばかりでした。

Tさんは真面目なのですが要領が良い方ではなく、それに対してMさんが見かねて口を出すという流れが続いていたのです。

MさんはTさんのことを
「あれこれ言うてしまうけど嫌いではないねん。真面目なのはよう分かっとるしな」
と評していました。

Mさんは裏表がない人なので本当にそう思っていてTさんのことを嫌っているわけではないと思います。

しかし、Tさんは辟易していたように見えてなりませんでした。


Tさんについて

Tさんは先程も触れた通り、悪い人ではありません。

基本的に真面目で、仕事には一生懸命取り組んでいます。

しかし要領が良くないせいで仕事を増やしたりクオリティを下げたりしてしまうという点は否めませんでした。

物腰は基本的に柔らかいのですが、少し癖があります。

思考や振る舞いに独特のロジックが存在するようで、他者には理解が及ばない場面も見受けられました。

男性しかいない職場で周りは竹を割ったような性格の方が多かったので、彼の独特のスタンスは他の方に理解を得られませんでした。

個人的に凄いと思うのは彼の自己肯定感の高さです。
先述のMさんや他の先輩方から仕事についての指摘を受けても、基本的にノーダメージです。
(指摘を受けることは嫌そうですが凹んだりはしません)

私から見たらTさんの要領の悪さや技量不足で叱責されている場面でも、Tさんからしたら現場や道具や状況が良くないのだから仕方ないとなります。

彼の中では自身は要領も悪くないし普通にこなせているのだから、何かあった場合は自分以外に原因があるとなってしまう訳です。

運転技術について指摘を受けた場合も、「道が悪い」「車が悪い」となっていました。

彼はよく道を間違えるのですが、その時の口癖も印象的です。

「うわっ、ナビにだまくらかされただよ」

当然、ナビが彼を騙したのではありません。

彼のために補足をしておくと、悪い人ではありません。

気は利かないので言わなければ何一つ察してくれたりはしませんが、優しい人ではありました。


明け方の住宅街と私達

その日も私とTさんとで業務に従事していました。

夜から始まった仕事は終わりに近付き、時刻は明け方となっています。

季節的に日の出が早く、周囲が白みゆく頃の話です。

次の現場へと向かい、都内某所の住宅街を通行していました。
Tさんの運転で細い路地を駆け抜けていきます。

交差点がある付近で突如として減速が始まり、停車しました。

信号のない交差点で止まれの表示はこちら側ではありません。

交差する道路には通行車両もなく、通常であれば止まる理由がありません。

私が状況を理解できずにいると、クラクションが鳴り響きました。

目の前には1羽の鳩がいます。
クラクションなんて気にも止めていません。

クラクションを鳴らすTさんと退かない鳩の攻防が始まりました。

Tさんは躍起になってクラクションを鳴らします。

「何やってるんですか!こんな時間にこんなところでそんなことしたらクレームになりますよ!!!」

私は驚きのあまり若干語気が強くなってしまいました。

「だって鳩が退かないだよ」

「そんなもん突っ込めばぶつかる前に自分から退きますよ」

「え?そうなの?」

「……」

彼は鳩を初めて見た人なのでしょうか。
私はもう何も言葉が出なくなってしまいました。

彼なりの理由

後程Tさんに先述の行動の論理を訊いてみました。

「鳩は平和の象徴だよ?」

平和の象徴なので傷付けるわけにはいかないため、驚かせて立ち去ってもらおうと思ったとのことでした。

言っていることは分からなくもないですが、時と場所も考慮してほしいなと思いました。

幸い、クレームは発生しませんでした。


おわりに

癖が強いというツッコミが頭の中をぐるぐるしています。

彼のエピソードは枚挙にいとまがないため、また気が乗った時にでも記していければと思います。

最後までお目通しくださった方、ありがとうございます。

またどこかでお目にかかれたら幸いです。


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