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寂しがり屋


「寂しがり屋のネズミが寂しいって言ったら、
お前ならどうやって励ます?」

親友に言われて、俺は困った。

「そんなことわかんねぇよ」

わからないというよりは、どうでもいい。
ネズミのことなんて考えたこともないし。

なぜ俺がネズミを励まさなければいけない?

こいつ大丈夫か。

親友の顔を見るのが何だか怖くて、
俺は親友に背中を向けた。

「それなら、寂しがり屋のネコだったら?」

えっ、ネコ……ネコか。
ネコなら背中をなででやるかな。

「そうだな、ネコなら」と言いかけてやめる。

でも、どうしてそんなこと、俺に聞くの?

それは、ちょっと問題だ。

「おまえなら、どうするのさ?」

俺は親友の言葉を待った。

「きっと、背中をなででやるな」

「まあ、俺もそんな感じ」

同じだということに少し安心して振り返る。

「そしたら、サルだったら?
寂しがり屋のサルが寂しいって言ったら、
お前はどうする?」

まだ、続くのか、この話。
俺はとまどいながらも、
「バナナでもやるよ」とすぐに答えた。

「バナナか、俺はリンゴ」

ふーん。バナナでもリンゴでも、
俺はどっちでもいいけどね。

そう思っていると、親友が急に黙る。

その様子を見て、俺はあせる。

結局、何の話だったのだろう、気になる。

聞くべきか、聞かざるべきか、どうしよう。



言葉を選びながら、
俺は親友より先に口を開いた。

「えっと……」

「何?」

「この話って、オチとかあるの?」

「オチ?」

「励まされた動物が、
今度は自分を励ましてくれるとか、
たっ、たとえば、
サルの次は寂しがり屋の人の話になるとかさ、
その……」

親友がプッとふきだす。
「おまえ、すごい想像力だなぁ」

恥ずかしい、笑われた。
俺の頬が少し赤くなった。

「ネズミ、ネコ、サルって続いたら、
次は何かなって、普通期待するぞ。
大体、なんで寂しがり屋の動物たちを
俺が励まさなけりゃいけないの?」

「それは、知らん」

「知らんって、お前が真面目な顔して聞くから、
俺も考えてやったのに。知らんのかい!」

そう言いながら、
俺は親友の背中を叩いて笑った。

親友も大声で笑いだす。

親友が俺の顔を覗き込みながら言う。

「ねえ、ねえ、そしたらゾウだったら?」

「おい、もうやめろよ」




「お前が元気でよかった」

親友の次の言葉が、俺の胸に響いた。






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