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それでいいよ


私はきっと助けるわ
あなたのことを
だから私を見捨てないで

私は必ず役に立つ
あなたにとって
だから私を無視しないで

この世の中は結ばれている
深い絆で
もしも誰かを裏切ったら
私も誰かに裏切られるのでしょう

そんなことを考えた夜
夢の中で
私はひとりもがき続けた
海の底には何千もの
名もない死に人が眠っている
その魂は天にかえることもできず
海の上を ただ漂う

私は いっそうの船に乗り
小さなひしゃくを両手に持って
ひとつひとつの魂をすくい続けた

「助けてよ ねえ助けてよ」
繰り返しこだまする声が
私の鼓膜を揺さぶり続ける

気がつけば船の上は
拾い上げた魂でいっぱい
もうこれ以上は無理と思った瞬間
船が傾いた
海の底に引きずり込まれていく私
息ができない苦しさと
魂たちを助けられなかった罪悪感で
胸が締めつけられる

「ごめんなさい ごめんなさい」
薄れゆく意識の中で
私は謝り続けた

目が覚めて頭を振り
大きく息を吸って
自分が生きていることを確かめた
どうしてあんな夢を見たのだろう
自分の無力さと後ろめたさに肩を落とす

いつもは見かけぬカラスが一羽
隣の家の屋根にとまった
「私は誰も助けられなかった」
カラスに向かってつぶやくと
カラスはカァ―と一声鳴いた
「それでもいいよ」と言うように
「よく頑張ったね」と言うように





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作家。著書「自閉症の僕が跳びはねる理由」「自閉症の僕が跳びはねる理由2」「跳びはねる思考」「あるがままに自閉症です」詩集「ありがとうは僕の耳にこだまする」他多数。最新エッセイ「絆創膏日記」 東田直樹オフィシャルサイト https://naoki-higashida.jp/
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