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水平線


真っ直ぐな水平線の向こうにも

海があることを

僕は信じられなかった

だから泳いだ

浮き輪をつけて

一所懸命に手足を動かした

水平線まで

泳ぎ切ることを目標に



波はザブンザブンと音を立てながら

休むことなく僕に向かってくる

上に下に

宇宙遊泳しているかのように

体が動く



かなり沖までやってきたぞ

遠くなった砂浜を見て

自分を褒める

さあ 水平線はどこだろうと

目をこらす



少しは近づけたはずなのに

いくら首を伸ばしても

水平線の向こうはのぞけやしない



もっともっと泳がなければと思った瞬間

今度は波に流されている自分に気づく

大変だ

このままでは陸に戻れなくなる

方向転換して

砂浜を目指す僕



体力の限界まで 泳いで泳いで

ようやく足が海底につく場所に来たとき

僕は水平線を振り返る


水平線の向こうに存在する世界への憧れは

先送りにしよう

まだまだあきらめないぞと思いながら

へとへとになった体で海を去る



それは子どもの頃の話

夢の実現は

自分の勇気だけでできると信じていた頃

僕の心は水平線と同じくらい

真っ直ぐだった




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