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金色のまつげの馬


金色のまつげの馬が
ひとり静かに考えている
この村に足りないものは何だろう
草は茂り
日の光は降り注ぎ
風は穏やかに流れている
もう十分幸せじゃないか
でも心は満たされない

自分に足りないものは何だろう
好きな時間に起きて
食べたいときに食べる
眠くなったら横になり
夕日をながめ一日を終える
昨日と同じ日々があれば
十分幸せなはず
困った 困ったと悔やむ必要もなく
嫌だ 嫌だと涙をこぼすこともない

金色のまつげの馬が
ひとり静かに考えている
この村にも自分にも足りないものは何もなかった
そうわかってまぶたを閉じる
それなのに
どうして心は満たされないのだろう

不思議な話だ
おかしな話だ

金色のまつげの馬は
ある日黙って立ち上がり
柵の向こうに目を向けた
ここから外に出てしまえば
不幸になるに違いない
わかっている わかっている
そう私はわかっている

馬鹿な話だ
愚かな話だ

なのに金色のまつげの馬は
自分で自分をとめられなかった
震える足で大地を蹴って
柵の外に出て行った
星のきれいな夜だった

金色のまつげの馬がそれからどうなったのか
みんなは知らない
誰ひとり柵の向こうに出て行かなかったから
金色のまつげの馬のまつげの美しさだけが
みんなの記憶に残った

金色のまつげの馬は
二度と戻っては来なかった
戻れなかったのではなく
戻らなかったのだ

金色のまつげの馬がひとり静かに考えている
ここに足りないものは何だろう
私に足りないものは何だろう
金色のまつげの馬は悩んでいたが
その顔は笑っていた
金色のまつげは少し汚れてしまったが
広い野原の植物のように
ふさふさと風になびいていた










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