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一本の木に集まる蝶たち


一本の木に集まる蝶たち

そこは楽園なのか

それとも 悪魔が棲む舘なのか

一本の木には赤い花が咲き誇る

白い花びらのような羽を震わせながら

赤い花の蜜を吸う蝶たち


誰も眠らない夜

人の気配を感じ

一本の木に集まっていた蝶たちが

いっせいに空を舞った


「今夜は舞踏会

月夜の晩に似合うよう

私はお着替えしてきたの」

そう言いながら ひとりの女の子がやってきた

白いワンピースがぼうっと光る



なあんだ

あなたも私たちの仲間だったのね

蝶たちが女の子を取り囲み

女の子の頭に腕に 群れつどう

踊りましょ 踊りましょ さあ踊りましょう


シャンシャンシャン  シャンシャンシャン


一本の木に集まったすべての蝶たちが

女の子の体にとまると

女の子はにっこり笑って

天を指さした



空を目指すかと思いきや

女の子はあっと言う間に土の中へと姿を隠す

残された蝶たちは土の上で静止する

時が止まったように

命をなくしたみたいに


どこからか聴こえてくる歌声

ルルルルル ルルルルル


澄み切った響に感動したかのように

赤い花の花びらが一枚

ひらひらと地面に散る


その瞬間を待っていたかのごとく

すべての蝶たちが夜空へと飛び去った


蝶のいない一本の木

その木に咲いていた美しい赤い花は

ひとつ ふたつ みっつ よっつ いつつ むっつ ななつ

女の子の年の数だけ



ひとつ ふたつ みっつ よっつ いつつ むっつ ななつ

女の子を悼む人の数だけ

ぽとり ぽとりと
 
花首から地面に落ちた



寂しくないよ

悲しくないよ

命は永遠に輝き続けるのだから

そう教えてくれたのは神様だったのだろうか


ゆっくりと明けゆく暁の空に

手を合わせているのは誰だろう



一本の木に集まる蝶たちは

次の訪問者が現れるまで

それぞれの場所で

蝶であることを明るく装う







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