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犬のうんてんしゅさん

「この電車は、ワンマン運転ですので・・・」
昼過ぎ、電車の車内。
近くにいた、四、五才位の男の子とそのお母さん。

「ママぁ、ワンワンうんてんってなぁに?」
(・・・ワンワンかぁ。そう聞こえるのかぁ)

「ワンワン運転?・・・あぁ、それはね、この電車・・・、犬が運転してるのよ」
(おいっ!?)

「へーぇぇ。ワンちゃんがうんてんしてんだぁ」
(違うぞー)

「そうよ。ワンワンって言いながら運転してるからワンワン運転なのよ」
(おーい)

「みてみたいなぁ」
(だから、違うって)

「でもね、人間は見れないのよ」
(ナニっ??)

「どうして?」
(そうだそうだ)

「運転してるところを見た人は、死んじゃうのよ」
(おいおい)

「えーっ!、しんじゃうのぉ?」
(死なないって)

「そう。だからこうやってお姉さんがちゃあんとアナウンスしてくれるのよ。見ちゃダメよって」
(・・・なんだそれ?)

「フーン。でも、ワンちゃんってちゃんとうんてんできるの?」
(ヨシヨシ、つっこめつっこめ)

「できてるから、こうやって動いてるんじゃないの。ちゃあんと立って運転してるのよ。エラいでしょ?」
(ありえないって)

「えーっ!!、ママ、たってるとこみたことあるのー?しんじゃうよー」
(おっ、するどい)

「・・・。ち、違うわよ。聞いたのよ」
(苦しいぞぉ)

「だれに?しゃしょうさん?」
(逆転かぁ?)

「犬」
(イヌーっ!?)

「えっー!?ワンワンにきいたの?どうやって?」
(そうだよ。どうやってだよ)

「隣りんちの・・・ホラッ、黒いレトリバー。あの犬ね、昔、運転してたんだって。あの犬から聞いたのよ。ママ、昔はね、犬としゃべれたのよ。もうできないけどね」
(ママはムツゴロウさんか?)

「ふーん。ママってすごいんだねー」
(すごくない。ウソウソ)

「ほらっ、降りるわよ」
そう言って次の駅で二人は降りた。
帰ったら、ちゃんと教えたほうがよい。

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