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短い影

地下鉄外苑前駅の2b出口を地上に出た。
自身の影が限りなく短い。
そして限りなく黒い。
見上げると、空の青さを打ち消す陽の塊が天頂に居座っていた。
青山通りとスタジアム通りが交差する外苑前交差点を右に曲がり、スタジアム通りを国立競技場に向かって歩いた。

青山通りを列をなして走る車と比べ、スタジアム通りの車列は少ない。
むしろ、タータンチェックのスカートと真っ白なシャツの青山高校の生徒の集団とすれ違った。
強烈な陽の光を跳ね返さんばかりの眩しい笑顔で、それでも暑い暑いと歓声をあげながら、髪をなびかせ皆通り過ぎていく。

秩父宮ラグビー場を通り過ぎ、神宮球場に着いた。
試合のない昼間の球場外の敷地は、歩く靴の音だけが響くほど静まり、ただスタジアムが身動きひとつせず聳えていた。
スタジアムの影が、私を包む。
閉まっている三塁側入り口付近の、あと少し経つと100才になるスタジアムの外壁は、赤茶色に染まっていた。
家庭用と同じエアコンの室外機が同じ赤茶色に染められ、外壁の至る所に吊るされ、動きもせず静かに並んでいる。
古い家かのような、据えた匂いが立ち込め、誰かが乗ってきたのか、自転車が一台、壁にもたれていた。

少しの間の静けさと涼やかさ。
あと少し歩けば国立競技場。
自身の短い影と共に歩いた。




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